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4.「vs副団長ヴィンス」

 時は少し遡って。


「おお、ここが王都〝キングマルグ〟か。でっかいなぁ! それに、人が大勢いる!」


 アイシィと共にアイスブラット王国王都に着いた俺は、まずはアイシィの部下らしき人に馬車を任せて、アイシィと二人で中央通りを歩きつつ、目に見える全てに圧倒される。


「くすっ。師匠ったら、まるで子どもみたい。可愛いです」

「いや、可愛いのはアイシィだろ」

「なっ!? ……この三日間、全く手を出して下さらなかったのに、今言うんですか、そんなことを!?」

「ん? 手を出す? 賭博するような場所なんてあったっけ? それか、何か悪事――なんかに手を出すように誘うような子じゃないしな、お前は」

「い、いえ、なんでもないです!」


 何故か赤くなって頬に手をやるアイシィが、また手と頬を凍らせている。


 この三日間と言えば、野営を挟みながら馬車で移動している最中、水浴びをした直後にアイシィが、見張りをしている俺の前に何故か服を着忘れて下着姿で現れたり、夜間の警戒のために馬車の外で車輪にもたれ掛かりながら寝ている俺の前に、これまた寝間着を着忘れて下着姿で現れたりということが何度もあった。「風邪を引くから早く服を着なさい」と、その度に俺は告げた。


 一国の守護精霊と言っても、弱冠十八歳だし、おっちょこちょいでまだまだ子どもっぽいところがあるんだなぁと、微笑ましく思ったものだ。


※―※―※


「やっぱりレストランで食べると違いますね!」


 少し早めの昼食を食べると、アイシィは満足そうに微笑む。


「野営でアイシィが作ってくれた料理も十分美味かったけどな」

「そ、それは良かったです!」


 頬を紅潮させるアイシィ。


 氷魔法を自由自在に操る彼女は、通常なら日持ちがしないようなものでも氷漬けにして無理矢理保存食にしてしまえるのだ。更に、鍋など調理器具も用意してくれていた。


 おかげで、野営の度に彼女の手料理に舌鼓を打つことが出来た。


※―※―※


「あれが王城か! 立派なもんだ!」


 南城門から通行料も払わずチェックも受けずにアイシィの顔パスで入った俺たちが、通り沿いのレストランで食事をした後中央通りを北へと真っ直ぐに歩いていくと、十字路にぶつかった。


 道の中央には巨大な噴水があり、その奥に見えるのが白亜の王城。


「こちらが武闘団本部です」


 十字路に面する左手手前の巨大な建物をアイシィが手で指し示す。


 彼女によると、右手手前の建物は冒険者ギルドで、右手奥が魔法師団本部、左手奥が騎士団本部らしい。


 人数は騎士団が千人、魔法師団が三百人、武闘団が百人。


 騎士団と魔法師団は、平民が入るには敷居が高く、特に魔法師団は、魔法が使える割合が貴族の方が多いこともあって、貴族が占める割合が高い。


 人数が多い両団体だが、取り敢えず箔を付けるため、そして国家のために尽力していますよというアピールのために入っておこう、という者が毎年一定数いることもあり、S級・A級・B級という高ランクの者は少なく、C級D級どころか、E級やF級すらいるらしい。


「武闘団は人数は少ないけど、みんな強いんですよ!」


 武闘団は人数こそ少なく更に平民出身者が多いものの、全員がB級以上という精鋭部隊とのことだ。


 ちなみに、現在国境での戦場には騎士団と魔法師団が派遣されており、武闘団は近年新たに創設されたばかりということもあり、後から合流するらしい。


※―※―※


「お疲れさまです! アイシィさま!」

「「「「「お疲れさまです!」」」」」


 武闘団本部の敷地内にある訓練場に行くと、訓練中だった百人の団員たちが一斉に振り返り、大声で挨拶してきた。


「みんな、この方がパーチさんよ。私とリーティ団長の師匠で、その実力は勿論、指導力も折り紙付きよ!」


 いやいやいや。

 そんな風に持ち上げないでくれよ!

 俺は、ただちょっと武闘が出来るだけのおっさんなんだから!


「「「「「………………」」」」」


 ほら、すごく微妙な空気になってるじゃないか! 

 みんな、声には出さないけど、「え、このおっさんが? 本当に?」みたいな顔になってるぞ!

 もうこれ以上は――


「っていうか、むしろ最強よ! 世界最強なんだから! それに、今からみんなの戦闘能力をパパッと短時間で底上げしちゃうんだから!」


 火に油をドバドバ注いだー!


「失礼ながら、アイシィさま。突然現れた男が世界最強とか言われましても、俄かには信じられません。その名を聞いたこともありませんし」


 前に出て来たのは、金髪碧眼で端整な顔立ちをした若い男だった。

 見ると、その身には、武闘家とは思えない金ぴかの鎧を纏っている。


 もしかして、彼が副団長かな?

 確か、貴族の息子で金持ちと言っていたから、見た目はピッタリなんだが。


「ヴィンス。副団長として現在この団の指揮を執る貴方の懸念は分かるわ。では、どうすれば信じてくれるかしら?」


 うん、流石はアイシィ、上に立つ者らしい堂々とした振る舞いだ。

 直前に「ごちゃごちゃ言わずに信じなさいっての! ぶっ飛ばすわよ!」という小さな声が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。


 ヴィンスは俺に敵意剥き出しの視線をぶつける。


「貴様が本当に師事するに値する男か、確かめさせろ! 僕と勝負しろ!」


 こうなっちゃったか~。 

 いや、途中からそんな気はしていたんだよ。

 はぁ……


「いや、戦うのは流石に――」


 助けを求めるように、アイシィを見ると。


「師匠! 生意気なコイツをボコボコにしちゃってください! 殺さなければOKです!」


 ……お前な、小さな声で呟けば何言っても許されると思うなよ?

 腐ってもこの国の守護精霊だろ?


 目をキラキラと輝かせるアイシィに溜め息をついた俺は、ヴィンスの方に向き直り、「分かった」と渋々了承した。


「おいおい、マジか!? 副団長の鎧って、最高硬度のアレだろ?」

「試したくてうずうずしてたんだよきっと!」

「どんだけすごい鎧なのか、その性能を見せてもらおうぜ!」


 素早く隅へと移動した団員たちから、そんな声が聞こえる。


 ほら、言わんこっちゃない。

 もう、〝俺の実力〟じゃなくて〝ヴィンスの鎧の性能〟に胸ときめかせちゃってるじゃん!


「パーチ、と言ったな。僕は誇り高き貴族だ。だから、貴様に一発殴らせてやろう。それで僕に少しでもダメージを与えられたら、貴様の実力を認めてやろう」


 うん、多分それは、「動き辛いから、こっちから攻撃するのは無理!」ってことだよな?

 見るからに重そうだもんな、その鎧。


「分かった」


 俺は腰を落として、右手を引いた。

 スゥ、と息を吸ってゆっくり吐きながら集中、神経を研ぎ澄ます。


「行くぞ」

「ああ、いつでも来――」


 ゴウ


「…………へ?」


 一瞬で距離を詰めた俺が右拳をヴィンスの胸に軽くぶつけると。


 ブオオオオオオオオオッ


「うぐおおおおおおおッ!?」


 一瞬遅れて暴風が生じ、ヴィンスの顔の肉が下からの風圧で一瞬変形する。


「は、ははは……正直驚いたが、それだけか? 悪いが、僕は全くダメージを受けていないぞ? よし、決めた。しょうがないから、もう一発だけ殴らせてやる」

「良いのか?」

「ああ、貴族に二言は無い。どこからでも掛かって――はっくしょん!」


 くしゃみをしたヴィンスが、「あれ? なんか肌寒い……?」と、混乱していると。


「副団長!」

「下見て! したあああ!」


 周囲の団員たちの声に、「下?」と、視線を向けるヴィンス。


「なんじゃこりゃああああ!?」


 鎧は木っ端微塵に吹っ飛び、ヴィンスはパンツ一丁になっていた。


「えっと……これを、その拳で?」

「ああ」

「……これ、世界で最も硬いと言われるオリハルコン製の鎧だったんですが……」


 何故か敬語になっているぞ。


「それ、オリハルコンって言うのか。うちの村がある山では、ちょくちょく取れる金属だけどさ、確かにアレ、結構硬いよな」

「いやいや、どんな村!? しかも〝結構〟硬い!? 世界最高硬度を〝結構〟!?」

 

 俺は、再び腰を落として拳を構える。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。もう一発殴るからな」

「ちょっ、ちょっと待て! いや、待って下さい!」


 ヴィンスが青褪める。


「どうしたんだ? 俺の実力を確かめたいんだろ?」

「もう分かった! いえ、十分分かりましたから、パーチさん!」

「そうか? なら良かった」


 戦闘態勢を解くと、団員たちが騒めく。


「見たか、今の!?」

「オリハルコンを砕くって、どんなパンチだよ!」


 見ると、アイシィが「ふふん」と、ドヤ顔でその豊かな胸を張っている。


 ふぅ、とにかく、何事も無く済んで良かった。

 俺が破壊出来る程度の鎧で良かったよ、本当。

 おかげで「持ち上げられたのに大したことなかった」みたいな恥を掻かずに済んだ。


「じゃあ、俺の実力も分かってもらえたみたいだし、これで終わり――」

「では、せっかくなので、今から私と師匠の模擬戦を始めます! みんなには、もっと師匠の凄さを知って欲しいので!」

「………………はい?」

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