18.「エピローグ」
「師匠! 流石です! 私、感動しました!」
「ハッ! あたいの先生なんだからこれくらい当然さ!」
「コーチ~、すごく強い~。サンダリの~、誇り~」
「やったっすね! アクエちゃんも感激っす!」
「吾輩も感無量であります!」
「おっちゃん、あの黒いのぶっ飛ばしてくれてありがと♪」
「世界を救って下さり、感謝いたしますわ!」
「いや、みんなのおかげだよ。本当にありがとう!」
闇の精霊王であり魔王でもあるダダークを倒したことで、仲間たちは手を取り合い喜ぶが。
「……俺がもう少し早く来ていたらな……」
周囲を見回して発した俺の言葉に、皆沈黙する。
これで世界の危機は去ったのかもしれないが、荒野に転がる夥しい数の死体を見ると、どうしても心から喜べない。
「……こうなったのも、アクエちゃんたちがダダークの手駒にされたからっす!」
「吾輩たちの責任であります!」
「あたしたちは、みんな魔力を吸われて、力を与えてしまったし」
「今ここで、その責任を取るべきですわ!」
アクエ、ソイリィ、ウィンドニー、そしてツーリの身体が輝き始める。
「流石に〝治す〟だけじゃなくて〝生き返らせる〟となると、今度は小さくなるだけじゃ済まないかもしれないけど……でも、あたしたちのせいだし!」
ウィンドニーが他の精霊王女たちの命を救った時と同じように、彼女たちは自らの命を削って、戦死者たちを甦らせようとしているのだろう。
「やめてくれ! そんなことされて生き返ったって、きっと死んだ奴らも喜ばない!」
必死に止めようとするが、彼女たちは聞く耳を持たない。
と、その時。
ぽわぁ
微精霊と小精霊たちが現れた。
「え? 戦死者たちを生き返らせるのに、俺の魔力が欲しいって? そんなもん、いくらでもやる。何なら、俺の命だって――」
「それだけは駄目です! 師匠!」
「ハッ! さっき自分で言った言葉を忘れたのかい?」
「コーチ死んだら~、サンダリ泣いちゃう~」
「……そうだったな。じゃあ、死なない程度に、俺の魔力も生命力も使ってくれ。限界ギリギリまで使って良いから」
微精霊と小精霊たちは、分かった、とばかりに浮き上がって一回転して明滅すると。
「!」
ぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぁ
その数が一気に増えた。
俺の魔力を全て吸い取った彼女たちは、俺の体内の魔力の源とも言える部分と、魔力発動に必要な回路も持っていった。
そして。
「すごい……!」
「綺麗……!」
空に舞い上がり、虹色に輝く彼女たちは、戦場に倒れる大勢の人間一人一人へと舞い降りていく。
まるで虹色のシャワーのような光景に俺たちが見惚れている中、死者たちの身体が、眩い光に包まれて――
「あれ……僕は死んだはずじゃ……?」
「え……俺……生きてる……?」
全員生き返った。
「ヴィンス!」
「……アイシィさま!」
「ティージャ!」
「……パーチさん!」
武闘団副団長と小柄な団員に駆け寄るアイシィと俺。
周囲から、驚きの声と共に、歓喜の雄叫びが聞こえる。
「奇跡だ!」
「おお、精霊さまのおかげだ!」
「ありがとうございます!」
騎士団団長がアイシィのもとへと駆け付ける。
「アイシィさま。生き返らせて下さり、ありがとうございます!」
「いえ、私ではなく、師匠――パーチさんと、微精霊と小精霊のおかげよ」
「おお! なんと! パーチさん、微精霊さん、小精霊さん、ありがとうございます!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
騎士団、魔法師団、そして武闘団団員たちが、全員礼をして叫ぶ。
生き返ったばかりだと言うのに、すごい声量だ。みんな、かなり武闘団っぽい。
ファイフィが守護する国と同じく、ここでもアイシィの影響力が強いのだろう。
「アイシィさま。この状況、そしてその落ち着きようから察するに、魔王は――」
「ええ、討伐したわ。ここにいる精霊王女たちと、微精霊と小精霊の力、そして何より、師匠の、パーチさんのおかげでね!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおお!」」」」」
雄叫びを上げ、拳を突き上げ、「やった!」「やったぞ!」「万歳! 万歳! 万歳!」と、喜びを全身で表現する兵士たち。
良かった。
本当に良かった。
だが、その一方で。
……ぽ……わぁ……
「……え?」
彼らを蘇生してくれた微精霊と小精霊たちは、地面に落下し、輝きを失いつつあった。
「まさか……命を削って生き返らせてくれたのか!?」
頷くように、力なく明滅する彼女たち。
その内の何人かを、そっと手ですくうと。
……ぽ……わぁ……ぽ……わぁ……
「……〝自分たちは大丈夫だから、気にしないで〟って……するに決まってるだろうが……! なんで、こんな……!」
彼女たちには、何度も助けてもらった。
今では完全に俺の仲間だ。
それなのに……今、目の前で死のうとしている。
「アイシィ、みんな! みんななら、何とか出来るんじゃないか? だって、精霊王女なんだろ?」
しかし、アイシィたちは、悲しそうに首を振る。
「確かに私たちは精霊の王女です。ですが、それは一人一人の力が、微精霊と小精霊たち、或いは他の精霊たちに比べて高いから、というだけの理由です。むしろ、先程のように、世界中の微精霊と小精霊たちが力を合わせれば、私たちよりも大きな力を発揮します。そんな彼女たちの命を救う術ですが……残念ながら、私たちにはありません……」
「……そんな……」
……ぽ……わぁ……ぽ……わぁ……
微精霊と小精霊たちの明滅の頻度が低くなり、徐々に光を失っていって。
「別れの言葉なんて言わないでくれ! 頼むから、どうか死なないでくれ!」
……ぽ……わぁ…………ぽ…………わぁ…………
彼女たちは全員、消えた。
顔など持たない彼女たちだが、最後に、微笑みを浮かべたような気がした。
「……くそっ!」
膝をつき、地面を叩く。
せっかく魔王を倒せたのに!
せっかくみんな生き返ったのに!
魔王討伐の立役者が死んでどうするんだよ!
「くそっ! くそっ! くそっ!」
何度も大地を叩いた後。
「師匠! 見て下さい!」
「……?」
顔を上げると。
「!」
ぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぽわぁ
微精霊と小精霊たちが生き返っていた。
虹色の輝きが、俺たちを照らす。
「……なん……で……!?」
ぽわぁ
混乱する俺の肩に止まった微精霊が、明滅する。
「〝アレ〟を使った?」
見ると。
「そういうことかよ!」
ダダークの頭部と四肢の周囲に、微精霊と小精霊たちの一部が集まっている。
どうやら、一部の者たちが、死体から魔力を奪って生き返ったらしく、他の者たちへと魔力を分け与えて、生き返らせたらしい。
ぽわぽわぁ
「え? 〝だから言ったでしょ、大丈夫だから〟だって? 頼むからそういうのは、最初に言っておいてくれよ! こういうサプライズはおっさんには刺激が強過ぎて、心臓止まっちまうよ!」
荒野に俺の叫び声が響いた。
※―※―※
ディープ村の道場へと戻ると。
「あ、お帰り、ししょー。意外に早かったじゃん♪」
稽古中だったらしく、武闘団団長のリーティが、オレンジ色のウェーブが掛かったロングヘアを揺らしながら白い歯を見せる。
「師匠! お帰りなさい!」
「ただいま、アプレ」
アプレが駆け寄り、抱き着く。
「無事でよかったです! 師匠なら大丈夫だって、信じていました!」
「ありがとう。無事魔王は倒せたぞ」
「本当ですか!? 流石師匠です!」
見送りの際と違い、明るい顔を見せる彼女と違い、男子二人の方は、何やらもじもじしている。
「ほら、二人とも! そんなとこで突っ立って、何やってるのよ?」
背後に回ったアプレが強引に押し出すと、レンドとサイルがたたらを踏みながらやってきた。
「ま、まぁ、僕は信じていましたよ? 先生の強さは僕らが一番知っていますからね」
「俺もです、コーチ! だから、コーチが無事に帰ってくるなんて、別に普通のことだから――」
「ただいま、レンド、サイル」
「「! お帰りなさい……!」」
涙を浮かべる二人を、俺は抱き締めた。
本当、弟子ってのは良いもんだよな、伯父さん。
もう、完全に家族だよ。
ちなみに、魔力を全て微精霊と小精霊たちに吸われて、魔力の源っぽいのや回路さえも持っていかれたため、俺はもう魔力は使えなくなっている。
拳や衝撃波で氷柱も炎も掻き消せなくなったし、オリハルコンも破壊出来なくなった。
「でも、良いさ。またこれから毎日修行して、強くなれば良いだけだから」
ただ、それだけのことだ。
これまで三十年間行ってきたことと、何も変わらない。
「よし! また一から修行のし直しだ!」
俺は拳を握り締めた。
※―※―※
一ヶ月後。
「不束者ですが、どうかよろしくお願いいたします、師匠!」
「ハッ! あたいが先生の子ども、たくさん生んでやるよ!」
「コーチと結婚~、サンダリ幸せ~」
「どうしてこうなった!?」
アイシィ、ファイフィ、そしてサンダリという教え子且つ精霊王女である三人と俺との結婚式が、王都で一番大きな教会にて強引に執り行われていた。
「いやいやいやいや! 確かに、『本当、弟子ってのは良いもんだよな』とも言ったし、『もう、完全に家族だよ』とも言ったけども! 〝家族になる儀式〟を本当にしなくても良いから!」
どうやら、魔王という世界の脅威が去って、「今こそ私的な問題に集中して取り組める」とばかりに、俺を取り合っていた三人が真剣に話し合った結果、「三人全員と同時に結婚すれば、争う必要もなくなるし、問題解決じゃない?」と気付いたらしい。
それにしても、師匠と弟子の〝究極のスキンシップ〟とはキスだと先日判明したと思ったのだが、実はそうじゃなくて、〝結婚〟こそが、弟子として、尊敬する師匠に対して示すことの出来る究極の親愛の情だったんだな! 知らなかった!
「どうですか、ドレス?」
「ああ、すごく似合っている。三人ともとても綺麗だ」
「ふふっ。ありがとうございます!」
「ハッ! 照れるじゃないか」
「えへへ~。サンダリ~、嬉しい~」
「いやいやいや、じゃなくて!」
純白のウェディングドレスに身を包み、髪をアップにしたアイシィ・ファイフィ・サンダリは確かにとても美しいが、そうじゃなくて!
「師匠! 誓いの口付けを! んちゅー」
「ハッ! まずはあたいとするんだよ! んちゅー」
「コーチ~、サンダリとチューして~。んちゅ~」
目を閉じて唇を突き出した状態で、しかし日頃の訓練の賜物か、俺の位置を正確に把握して同時に迫ってくる三人に対して。
「〝究極の親愛の情〟を示そうとしてくれるのは嬉しいが、三人とも勘弁してくれ! おっさんの俺には荷が重過ぎるってばああああああ!」
教会を飛び出して叫んだ俺の声が、抜けるような青空に響いた。
―完―
最後までお読みいただきありがとうございました! お餅ミトコンドリアです。
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