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14.「光」

「アイシィ! みんな!」

「いやあああああああ! お姉ちゃあああああああああああん!」


 アイシィたち五人が上半身と下半身に切断され、シスリアが泣き叫びながらサンダリに駆け寄る中。


 よくもアイシィを!


 怒りで脳が沸騰しそうになる中、犯人を探す。


「上かあああああ!」


 術者であろう、風の精霊王女らしき藍色で長髪のツーサイドアップの美少女を上空に見つけた俺は大きく跳躍する。


「『ウィンドブレードストーム』!」


 風の精霊王女から無数の風刃が放たれる。


「そんなんで止まるかああああ! はあああああああああ!」


 俺はそれを、正拳突きによる巨大衝撃波で全て相殺しつつ、間近に迫る。


「よくもアイシィを! 殺す!」

「ヒッ!」

 

 闇の魔力に覆われ、強化されているはずの風の精霊王女が、俺の殺意に怯えたのか、短い悲鳴を上げるが、俺は容赦なく拳を叩き付けんとする。


「……ダ……メ……!!!」

「!」


 風の精霊王女の顔面に拳を突き刺す寸前、アイシィの叫び声で俺は動きを止めた。


「アイシィ!?」


 間違いなく致命傷なのに。

 そこまでして、仲間を助けたいのか!?


「くそっ!」

「ぐはっ!」


 何とか殺意を押し殺した俺は、風の精霊王女の胸に拳を叩き付け、飛ばした魔力によって〝闇の魔力〟を破壊する。


 脱力した風の精霊王女を抱き抱えた俺は落下、まもなく着地した。


「いやあああああああ! お願いなの! 死なないで欲しいの! お姉ちゃん! お姉ちゃん!! お姉ちゃあああああああああああん!!!」

「……アイシィ……ファイフィ……サンダリ……」


 風の精霊王女を地面に寝かせた俺は、泣き叫ぶシスリアがサンダリに縋りつく中、大量に吐血・出血したアイシィのもとへと、力なく歩み寄り、膝をつく。


「……師……匠……。……我がまま……言って……申し訳……ありません……ウィンドニーを……助けて……下さって……ありがとう……ございます……」

「……良いんだ……そんなことは……」


 止血を、と思ったが、切断された腹部から流れ出た大量の血液が血溜まりを作っているのを見て、間に合わないことを悟り、俺はアイシィの手を握る。


 俺は、敵を殴ることしか出来ない。

 誰かが怪我しても、その傷を癒やすことなんて出来ない。


 俺は無力だ。

 本当に……無力だ……


 俺はただ、泣くことしか出来ない。 


「……師匠……我がまま……ついでに……最後に……お願い……聞いて……もらえますか……?」

「ああ、言ってくれ。俺に出来ることなら、何でもする」

「……ありがとう……ございます……じゃあ……」


 両手で握るアイシィの手が、その声が、僅かに震える。


「……キス……して……頂けませんか……?」

「!」


 俺は、驚いて目を見張った。


 死に際の言葉だ。

 決して冗談で言っているのではないだろう。


「……分かった……」

「……ありがとう……ございます……」


 アイシィが、微笑む。

 心から幸せそうに。


「じゃあ、いくぞ」

「……はい……」


 俺の声に、アイシィは目を閉じた。


 顔を近付ける。


 更に、近付ける。


 唇が、接近して。


 重なる直前に。


「!?」


 アイシィの身体が眩く光り輝き出した。下半身もだ。

 思わず俺は顔を上げる。


「これは、一体……!?」


 見ると、ファイフィ、サンダリ、アクエ、そしてソイリィの身体も同様に、光に包まれている。


「……あたしの……せいだから……みんなを……助けるし……!」


 這いずって近付いてきたのは、風の精霊王女であるウィンドニーだ。

 精神操作が解けた彼女が、必死に手を翳す。


「良かった! 回復魔法を使えるんだな!」

「……ううん……使えないよ……」

「え? でも、こうして――」


 俺が困惑していると、アイシィが悲痛な声を上げた。


「……師匠……! ……ウィンドニーを……止めて……下さい……!」

「?」

「……あの子……自分の……〝命〟を……削って……私たちを……救おうと……してるんです……!」

「!」


 ウィンドニーを見ると、悲しそうな笑みを浮かべた。


「……もう……遅いし……! ……治し……ちゃうし……!」

「……ダメえええええ……!」


 アイシィたち五人と共に、ウィンドニーの身体も一際大きく輝いて。


 光が消えると。


「アイシィ!」

「師匠!」


 一刀両断されていたアイシィは、元に戻っていた。

 思わず俺は、彼女を抱き締める。


「ハッ! 一時はどうなることかと思ったけど、治って良かったよ」

「二つに分裂~、でも戻った~」

「分裂っていうと、分身みたいに聞こえるっす! 実際はもっとグロかったっす!」

「一命を取り留めたであります! ウィンドニー、恩に着るであります!」


 ファイフィ、サンダリ、アクエ、そしてソイリィもまた、完全回復している。


「お姉ちゃああああああん!! 良かったのおおおおおおおおおおお!!!」


 シスリアがサンダリに抱き着く。


「師匠、ウィンドニーは?」

「そうだな、礼を言わないと」


 さっき殺そうとしてしまったしな、その謝罪も。

 そう思って、振り返ると。


「……みんな助かって……良かったし……」

「!?」


 未だに倒れたままのウィンドニーが、光に包まれ、その輪郭が少しずつ光に溶けて、崩れていく。


「ウィンドニー!」


 アイシィが駆け寄る。


「なんでこんな無茶したの!?」

「……だって……あたしの……せいだし……」

「違うわよ! 貴方は操られていただけ! 何も悪くないわ!」

「……それでも……あたしの身体が……やったことには……間違いないから……」


 アイシィの腕の中で、ウィンドニーは更に光に溶けていく。


「……みんな……傷付けて……ごめんね……」

「いや! ウィンドニー!」

「……こんな……あたしの……ために……泣いて……くれて……あ……り……が……と……」

「いやあああああああああ!」


 アイシィの悲鳴が響く中、ウィンドニーは消えた。


「ウィンドニー……仲間想いで、誇り高き戦士だったな。俺は一生、お前のことを忘れない」


 姿勢を正し、一礼する。

 自らの命を犠牲にして、仲間を助けた彼女に対して。

 尊敬すべき戦士に対して。


 俺が頭を上げると、そこには。


「あーもう! あたし、こんなちっちゃいの嫌なんだけど!」

「………………へ?」


 ものすっごく小さくなったウィンドニーがいた。

 サンダリやシスリアよりも更に小さく、子犬くらいの大きさだが、赤ちゃんという訳ではなく、十代後半の少女の姿のまま、サイズが一気に変わった感じだ。


「ウィンドニー、やっぱりちっちゃくなっちゃったのね……元に戻るまで、かなり時間かかるだろうし、可哀想……ぐすっ」


 目元を拭うアイシィに、俺は愕然とする。

 

「え? お前が泣いてたのって、そういう理由? てっきり、俺は死んだのだとばかり――」

「え? 何言ってるんですか、師匠? 精霊はあの程度じゃ死にませんよ」

「へ?」

「っていうか、一刀両断された時も、めちゃくちゃ痛かったですが、別にあの程度じゃ私たち死にませんし。そりゃ、上下じゃなくて左右に真っ二つにされたら、流石にヤバいと思いますけど」

「でも、お前……〝最後にお願い聞いて下さい〟って言ったじゃないか」

「あ……あれは、だって、その……ああでも言わないと、絶対にしてくれないじゃないですか……」


 なんじゃそりゃああああああああ!?


「っていうか、ウィンドニー! 貴方が怪我を治しちゃったせいで、師匠にキスしてもらえなかったじゃないの! どうしてくれるのよ!」

「はぁ!? それが怪我を治してもらった奴の態度!?」

「そもそも貴方が怪我させたんじゃない!」

「その怪我のおかげでもう少しでキス出来るところまでいって、ハグもしてもらえたんでしょ!」

「それはありがとう!」


「いや、そこは礼を言うのかよ」


 半眼で突っ込む俺。


 まぁ、みんな無事で良かった、ってことにしておこう。


 それにしても……


「知らなかったな……師匠と弟子の〝究極のスキンシップ〟とは、口付けだったのだな」


 ギャーギャー言い合っているアイシィたちを見ながら、俺はポツリと呟く。

 

 だから、アイシィはキスして欲しがったのだ。

 弟子として、尊敬する師匠に対して、究極の親愛の情を示そうとして。


 だが、おっさんの俺には少々荷が重い。

 今後は、あのような要望は無しにしてもらえるとありがたいな。


※―※―※


「すごいすごいすごい! 膨大な魔力が流れ込んでくる! おっちゃん、ありがと♪」

「どういたしまして」


 その後、ウィンドニーに魔力を分け与え、念のためにアクエとソイリィにももう一度分け与えた。


「じゃあ、俺たちはダダークを倒してくるから。みんなは休んでいてくれ」

「あんたたちなら、きっと出来るっす!」

「成功を祈っているであります!」

「どうでも良いけど、今度こそお姉ちゃんを守るの! そうじゃないと、シスリアがあんたを殺すの!」


 彼女たちから激励を貰い(約一名から、刺激的過ぎる激励もあったが)、俺たちはダダークが征服したブラックヴァグザ魔王国へと向かった。


「では、行きます! 『ワープ』!」


 ダダークの拠点である王都に着くと。


「「「「「……ううう……」」」」」

「「「「「……あああ……」」」」」

「何これ……!?」

「ハッ! まるでアンデッドじゃないか!」

「ゾンビ~、たくさん~」

「いや、ゾンビじゃないけどな」


 市民たちは、全員精神操作されているらしく、アンデッドのようにフラフラと中央通りを歩き回っていた。


 そんな彼らは、俺たちを見ると。


「……精霊王女と……!」

「……武闘家の男……!」

「……殺せ……!」

「……殺せ……!」


 一斉に襲い掛かってきた。


「みんな、空へ退避!」

「はい!」


 俺を抱えたアイシィが、ファイフィとサンダリと共に空へと舞い上がる。

 

 中には冒険者らしき者たちや、国軍の兵士たちもおり、矢や剣、そして炎などの魔法も飛んでくるが、回避しつつ、更に高空へと舞い上がり、逃れる。


「おかしいです……感知魔法を使っても、ダダークの反応がありません……」

「他国に広げられるか?」

「えっと、魔力をお借り出来ますか」

「ああ、使ってくれ」

「失礼します……あ! いました! アイスブラット王国の国境付近です!」


 そっちに行っていたのか……

 何だか、嫌な予感がする……


「空間転移出来るか?」

「はい! では。『ワープ』!」


 アイスブラット王国の国境である荒野、地上に空間転移すると。


「クックック……遅かったな……」

「「「「!?」」」」


 空中に静止するダダークが見下ろす大地には、数え切れない程の死体が転がり、アイスブラット王国の騎士団、魔法師団、そして武闘団が全滅していた。

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