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10.「vs雷の精霊王女の妹シスリア」

「ざまぁ見ろなの! お姉ちゃんに言い寄るふざけた男は死んで当然なの!」


 上空で勝ち誇る美幼女だったが。


「いきなり攻撃するとか、危ないじゃないか」

「え!?」


 無傷の俺に、幼女は目を見開く。


「ふ、ふん! どうやら、外れたみたいなの。運が良いやつなの! でも、今度こそ終わりなの! 『サン――』」

「はあああああああああ!」


 空に向けて放った俺の正拳突きによる衝撃波が、幼女が眼下に翳す両手に集まりつつあった雷撃を消し去る。


「あ、あれ? おかしいの。もう一度なの。『サン――』」

「はあああああああああ!」


 小首を傾げた幼女が再び雷魔法を発動しようとするが、俺がそれを許さない。


「な、何でなの!? 今度こそ! 『サン――』」

「はあああああああああ!」


 三度同じ光景が繰り返される。


「……うっ……ぐすっ……魔法を使う前に消しちゃうとか、ズルなのっ! 酷いのっ! ……ぐすっ……」


 とうとう泣き出してしまった。

 ポタポタと上空から涙が落ちてくる。


「コーチ~、妹のシスリアがごめ~ん。でも~、発動前に防いじゃうと~、泣いちゃうから~、発動させてあげて~」

「いや、無茶言うな。っていうか、お前は――」


 と、そこに、もう一人、とろんとした眠たげな眼の金髪ボブ美幼女がトコトコ歩いてきた。


 否、幼女ではない。

 彼女は。


「久し振りだな、サンダリ」


 俺が十年前に山の中で助けた三人の内、最後の一人――雷の精霊王女だ。


 幼女と見間違えたのは、彼女の背丈が、十年前とほとんど変わっていなかったからだ。


「サンダリ……その……何と言うか、十年経ったが、お前は――」

「コーチ~、十年経って~、サンダリ~、成長した~?」

「え? いや、ええと……その……」

「成長した~?」

「お、おう、そうだな……十年経って成長したな」

「えへへ~」


 キラキラと期待に満ちた目に見つめられて、押し切られてしまった。

 うん、きっと中身は成長しているんだろうから、別に間違いじゃないな!


「キー! お姉ちゃんと喋らないでなの! 不潔なの! 汚らわしいの!」


 シスリアが金切り声を上げる。


「なぁ、サンダリ。何とかお前が止められないのか、あの子?」

「ちょっとムリ~。サンダリがいつもコーチの話をしてて~、アイシィから通信魔法が来て~、もうすぐコーチが来るって言ったら~、『殺すの!』って言ったから~、被害が少なくなるように~、街中から荒野に移動しといた~」


 うん、偉いぞ、サンダリ。

 でも、出来ればこんなことにならないように、妹を止めて欲しかったけどな。


「こんなにも無垢で純真で可憐で可愛いお姉ちゃんを誘惑して! その汚い手で汚そうだなんて、絶対に許さないの!」

「いや、俺はそんなことしたことないし、しようと思ったこともない。ただの武闘家としての師匠と弟子の関係で――」

「うるさいうるさいうるさい! お姉ちゃんに近付く男は、全部シスリアが殺すの!」


 こりゃ重度のシスコンだ。


「師匠を愚弄するに止まらず、害そうとするだなんて、万死に値する! 串刺しにしてやるわ!」

「ハッ! 先生のことを馬鹿にして傷付けようだなんて、あたいが許さないよ! あのガキは消し炭にしてやるとしようかね!」


 腰を落として正拳突きの構えを取るアイシィとファイフィが、氷柱と猛炎を虚空に生み出す。


「ちょっと待ってくれ、二人とも。悪いが、ここは俺に任せてくれないか?」

「え? 〝俺に身を任せてくれないか〟ですか? こんな人前で……? 恥ずかしいですが、別に私は構いませんよ……?」

「うん、言ってない」


 二人は、「分かりました! でも、もし危なそうなら、私が容赦なくあの子を貫きますから!」「ハッ! 分かったよ。でも、あたいも臨戦態勢は解かないからね」と、中々物騒なことを言いながらも承諾して、少し離れてくれた。


 俺が上空を見据え、構えると。


「ようやく死ぬ覚悟を決めたの! じゃあ、望み通り殺してやるの! 『サンダー』!」


 シスリアが、雷撃を放った。


「はあああああああああ!」

「なっ!?」


 彼女が発動するのと同時に正拳突きを繰り出し、衝撃波で相殺した俺に、上空のシスリアが口をあんぐりと開ける。


「い、一体何したの!? 雷魔法は他の魔法と違って、〝雷そのもの〟なの! 見てから迎撃するとか、まず不可能なの!」

「そうだな。俺はおっさんだから、見てから迎撃するなんて無理だ。それに、何の才能も無いしな。だから、何十回も何百回も何千回も練習したんだ。その結果、来るタイミングが分かり、コツも掴み、拳で雷を迎撃出来るようになった訳だが、ただのおっさんだから、三十年近くも掛かった」

「……は!? 練習!? 迎撃出来るようになった!? 意味が分からないの!」


 シスリアは、「ふざけるじゃないの! 『サンダー』!」と、再び雷魔法を発動する。


「はあああああああああ!」

「くっ!」


 が、俺は正拳突きで衝撃波を飛ばし、相殺する。


「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなあああああああ! 『サンダー』! 『サンダー』! 『サンダー』! 『サンダーああああああああ』!」


 髪を掻きむしったシスリアが、雷撃を連発する。

 

 眩い閃光が絶え間なく生じて、彼女自身の視界も遮られて。


「隙あり」

「あっ!」


 跳躍した俺は、彼女の背後を取り、羽交い締めにした。


「離すの! 汚らわしいの!」


 そういうシンプルな悪口、結構おっさんの心を傷付けるから、止めて欲しいな~。

 そんなことを思いつつ、落下していく俺たち。


 どうやらシスリアは、一人で飛ぶ分には良いが、他者まで浮き上がらせるだけの力は無いらしい。


「よくもやってくれたの! 絶対に殺してやるの! 『サン――』」


 地上に舞い降りた後、俺が拘束を解くと、バッと振り返った彼女が、俺に向けて両手を翳すが。


「やめな~、シスリア~」


 ゴン


「あうっ!?」


 サンダリがシスリアの頭をゲンコツで殴り、シスリアは悲鳴を上げ、涙を浮かべる。


 すごい音したぞ今!

 そういや、サンダリは三人の幼女の中で動作が一番ゆっくりだったけど、威力は一番あったんだよな。


「お姉ちゃん、なんで止めるの!? コイツはお姉ちゃんを手籠めにしようとする悪い男で――」


 ゴン


「ぴゃあっ!? シ、シスリアは悪くないの! 全部この男が悪――」


 更に鉄拳制裁しようとするサンダリの拳を、俺は止めた。


「それくらいにしておけ、サンダリ」

「なんで止めるの~、コーチ~? シスリアは~、コーチを殺そうとしたのに~?」

「うん、そうだな。でも、俺は死んでない。無傷だ。だから、大丈夫。俺のために怒ってくれて、ありがとうな」

「サンダリ、偉い~? 偉い~?」

「ああ、偉いぞ」

「えへへ~」


 はにかむサンダリ。


「……シスリアは礼なんて言わないの。お姉ちゃんは優しいから、あれ以上やるなんてことはなかったの。だから、あんたが止めなくても、どっちにしろ、あれ以上殴られることは無かったの」


 グシグシと涙を拭ったシスリアは、憮然とした表情でそう呟いた後。


「……でもまぁ、一応感謝しておいてあげるの。ありがとなの。ふん!」


 そう続けると、顔を背けた。


「流石師匠です! 完全勝利です! でも、本当に良かったです! 師匠に何かあれば、幼女の串刺し死体が荒野に一つ転がってしまう所でした!」

「ハッ! 命拾いしたね、ガキ! あとちょっとで火炙りにしてたところだよ!」

「いやいや、お前ら怖過ぎだから」


 「サンダリ、久し振りね!」「ハッ! 元気にしてたかい?」「元気~」と、幼馴染三人がほんわかとした再会の挨拶を交わした直後。


「! アイシィ、止められるか!?」

「はい、やってみます! 『氷結嵐アイスブリザード』!」


 突如、荒野に大量の水が出現、〝津波〟が生じて俺たちに襲い掛かる。


「駄目です! 全部凍らせるのは無理そうです!」

「ハッ! 残りはあたいに任せな! おらああああああああ!」


 凍らせられずに尚も押し寄せていた残り半分の津波を、ファイフィが正拳突きで生み出した無数の火炎で蒸発させる。


「この水も滴る良い女アクエちゃんの攻撃を良く止めたっすね! 褒めてやるっす!」

「相手にとって不足無しであります! 全力で叩き潰すであります!」

「アクエ! ソイリィ!」


 見上げると、精神操作された水と土の精霊王女が、上空に静止していた。

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