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第9話 春こそ穏やかに

ゼノは重い足取りで冒険者ギルドに赴いていた。気乗りせずともギルドに向かうは勿論生活費である。仕事だと割り切ろうにもゼノは春が苦手だった。

ギルドの着くと若い冒険者たちが受付とボードに集まっている。ゼノは気配を消し隠れるように隣の酒場へ逃げ込んだ。

春になると若人が冒険者になるべくギルドへ加入したり、転職した冒険者が新たに再出発する者やパーティーから外されてどこかに入らせてもらうなど兎に角人が多いのだ。


「おう白金さんよお、朝から飲むなんて豪勢だねえ!」


「バカ野郎!声がデカい!」


店主の声を聞きつけたのか人混みがゼノの元へやってくる。若い冒険者たちが彼の前に立ちふさがった。憧れのまなざしがゼノにはきつかった。


「あ・・・あのゼノさんですか?俺冒険者のクルといいます!職業は剣士です!どうか僕とパーティーを組んでいただけませんか?」


ほかの冒険者がクルを押しのけ集団でアピールを始めた。


「俺たち『青い狐』に入りなよ。あんたのことは厚遇するぜ!あんたがいれば百人力いや千人力だ!」


若い冒険者たちを後ろから見た感じ経験を積んでいそうな冒険者が押しのけ、ゼノの前に立った。その冒険者は若人を圧で退けさせゼノの隣に座り酒を頼んだ。


「あんたがゼノか。噂以上の迫力だし掴みどころがない。俺はあんたとこうして話ができるだけでラッキーだと思っているぜ。失礼名乗るのが遅れた。俺の名はシュート。見ての通り剣士をしている。」


「それで何の用だ。勧誘なら断るぞ。」


「それに関して何だがなんであんたはいつもソロで冒険しているんだ?ここにお前のお眼鏡にかなうやつがいないのか?確かにあんたほどの実力者に匹敵する奴なんて世界に早々いないからな。どうしてソロなのか知りたいだけだ。」


「・・・人づきあいが苦手なだけだ。」


「ほかにも理由があるんだろうけど聞かないことにするよ。でも誰か一人でも組んだらもっと強くなれるぜ。銀級の俺が言うのもなんだがな。一応いつでも誘いには乗るぜ。」


シュートは去っていった。店主は俯いているゼノにもう一杯酒を差し出した。


「あんたの功績みんな知ってるぜ。単独でいくつものダンジョン・迷宮踏破、単騎でワイバーンやレッドドラゴンの討伐に王太子殿下の暗殺防止、大型魔物の千体討伐だ。数え上げればきりがない。みんなあんたを目指して冒険者を目指しているんだ。もっと自分に誇りを持った方がいい。」


「弟子でも取った方がいいのか・・・?」


「弟子が来た日にゃあついてこれるかね?」


「昔根性のあるガキなら剣を見たことがある。貴族の娘だったが見込みはあった。今頃どっかの令息と結婚する時期だろうよ。」


「それだ!ゼノ!弟子採らなくても冒険者を指導すればいいんだよ!助太刀という形でいけばみんな助かるし、冒険者が一段と強くなる!」


「そんなことをして手柄をかすめ取る形になんないか?」


「お前さんほぼ無償に近い形でクエスト受けてるじゃないか。ちょっとぐらいがめつくても命には代えられない。お前さんはもっと欲張ってもいいんだ。」


ゼノは出された酒をぐっと飲み干し二杯分の代金を店主に渡した。


「ありがとう。話したおかげですっきりした。おつりはいらない。」


ゼノは酒場を離れ、受付に向かった。

 ゼノはアリアに酒場で言われたことを思い出しながら話しかけた。


「冒険者を見て・・・周りたい・・・ですか?」


「できないだろうか・・・無理ならクエストを受けるが・・・」


「お待ちください!すこし先輩に確認を取ってみます!」


アリアは先輩に確認を取ろうとしたとき奥の事務室からギルマスの秘書が出てきた。


「あなたの話聞きましたよ。このギルドで出た噂や会話は全部この耳に入っていますから。」


そう秘書は長い耳に指をあてた。その間にアリアは今日受注したクエストの束を持ってきた。


「お話のところ失礼します。これが本日のクエスト依頼書です。」


ゼノは彼女にお礼を言うと依頼書を持ったままギルドを出てしまった。


「さあーて、ゼノさんのことはギルマスに伝えておかなきゃ。」


秘書はアリアにもたれかかりながら眼鏡を拭きはじめた。


 街を出たゼノは手始めに駆け出しパーティー「青い狐」のもとに行くことにした。

彼らはゴブリン退治を請け負っており、メンバー構成は攻撃役の戦士とタンクの盾役に斥候役の三人だ。彼らは北西部の田舎町に向かっている。馬車の中で地図を広げこのあたりの地形を把握する。


町に着いたゼノはゴブリンが目撃されたといわれる場所まで歩いて行った。そこでゼノはうっすらだが大型の足跡と魔法が使われた痕跡を目にした。


「この大きさからしてオークを招き入れたな・・・ここも魔道具で調べれば魔法を使った痕跡、魔力痕が見えるはずなのに道具をケチったな。早いところ行くか。」


ゼノが向かった先には半ば壊滅しかけている「青い狐」がいた。ゼノの予想通りゴブリンたちは流れ者であろうオークを用心棒として雇っており、炎魔法を使うゴブリンと連携してパーティーを追い詰めていた。


「おい!斥候は何してたんだよ!オークがいるなんて聞いていないぞ!」


「魔法が使えたなんてしらない!おい!リーダー指示をくれ!」


「青い狐」リーダーは顔を青くし、ガクブルと震えていた。盾の戦士は何とかオークの攻撃を受け止めているがあと数撃で崩れ落ちそうであった。一匹のゴブリンが盾の戦士を突き殺そうとした時、光の刃がゴブリンの体を貫いた。


「手柄に文句は言うなよ。」


ゼノは刀を構えながらオークの両腕を切り落とし、流れるように首を刎ねた。


「次。」


ゼノは遠方にいる魔法使いを見て一瞬で距離を詰め胴を切りつけ首に剣をさした。間髪入れずに光の魔方陣を展開しそこから無数の光の矢を放った。数分もしないうちに戦場にゴブリンの死体が幾重にも転がっていた。


ゼノは事前に救出した「青い狐」の生き残りを光の治癒魔法をかけていた。斥候は既に死んでおりリーダーは声が出ない状態だった。


「ありがとう・・・あなたが助けてくれたんですか・・・?」


「俺はただ冒険者の様子を見に来ただけだ・・・たまたまだ。」


「それでも助かりました。仲間のことは残念ですが生きているので何とかなりました。」


盾の戦士は礼儀正しくお礼を言った。盾の戦士はリーダーを抱えながら馬車へ乗り込んでいった。


 ギルドに戻るとアリアが笑顔で出迎えてきてくれた。


「おかえりなさい!ゼノさん!クエストお疲れさまでした!お怪我はありませんでしたか?」


「大したことがなかった。でも壊滅したパーティーを救った。それだけだ。」


「それすごいことじゃないですか!では書類の方をお願いします。」


ゼノは慣れた手つきでペンを走らせた。アリアは最初のころは不気味でなにか考えているかわからなかったが数日顔を合わせたらゼノのことが怖い人ではないと感じまじめた。他の冒険者とは違いどこか優しさが感じられた。言葉足らずなところがあるがそれも不器用なところも愛嬌があってかわいらしいと感じた。


「ゼノさん・・・」


「何か言ったか?」


「いえ何でもありません!こちらですね確かに承りました!」


アリアは急ぎ足で去っていった。ゼノはとなりの酒場に足を運んだ。いつもの席に座るとなにやら近くで騒がしい声が聞こえる。ふと気になって隣を見てみるとシュートとクルがなにやら楽しそうに酒を飲んでいる。


「おう!ゼノさん。あんたも帰りか!こいつはクル!今日から雑用でうちに入れたんだ!お前さんも一緒に飲もうじゃないか!」


「えんりょ・・・いや今日はお前らに付き合うか・・・」


「おーい!おまえら!今日は飲むぞー!」


宴会は夜が更けるまで続いた。アリアたちはどこか呆れたような見守るような目で見ていた。

 

アリアは一人で帰路についていた。職場からはさほど遠くないけど暗い路地はまだ慣れなかった。そこにアリアに付きまとう男たちが現れた。


「姉ちゃんよ、どうせギルドで男勝りでもしているんだろ?俺たちと遊ぼうぜ~」


「あの・・・やめてください・・・」


「あぁん?俺たちに何言っちゃってんの?」


男たちはアリアに手を伸ばそうとした途端、後ろから手が伸びた。ゼノだった。


「そこまでにしとけ。酔っ払い。」


「あぁ?なんだ化け物俺たちは冒険者だぞ!やるんならやんぞ!」


ゼノはあっという間に男たちをのしてしまった。ゼノはアリアの方を向き、


「女が一人で帰るのはよした方がいい。俺がいたからいいものの自衛をすべきだ。」


「じゃああなたが送ってください。」


「俺が?」


ゼノはあっけにとられたような表情をした。アリアはからかうように笑った。


「だってあなたは帰る時間バラバラじゃないですかこれぐらいいいじゃないですか。」


「助けてもらってそれは・・・しかたない報酬は?」


「そうですね~じゃあ書類上の融通しときますね!」


「新人のくせにやるな。期待しているぞ。」


『太陽の石』についたゼノはベッドの上に突っ伏した。窓を見ながら今日のことを思いめぐらせた。


「今日は飲みすぎたな・・・あのアリアというやつあいつに似ている気がするな・・・めんどくさくなってきたな・・・」


ゼノは再びベッドから起き上がりバッグの中を整理した。次のクエストの挑戦するためにーーー

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