第8話 学武院卒業試験Ⅲ
四人の前に現れたのはダンジョン前で待機しているはずのゼノだった。
「さっき極彩色の感覚とか言っていたな・・・ちょっとお前らのことをつけてきたんだ。」
マリはただならぬ雰囲気のゼノに声を荒げて叫んだ。
「私たちは最深部までいって書物を取ってこれから上がるんです!なにも怪しいところはないですよ!」
「仲間に暴力をふるおうとしたところ、ここ最近の行動、調べると不審な点がいくつもある。この場でお前たちの合格は保留にさせてもらう。」
「私たちは何も怪しいことはしていない!ちょっといい防具買っただけ!あんたに言われる筋合いなんてない!」
マリは声を荒げて抗議するがゼノは警戒のある目で彼女らを睨む。
「そこまでいうなら地上に上り次第防具に違法術式が付与されていないか確認を取ってもらう。最近禁止魔法がかかった防具や武器が流通しているのでなお前たち心当たりはあるだろう?」
マリは剣を構えてその刃をゼノに向けた。ニーレはレミスに目配せをした。その様子を見ていたサリーはすべての彼女たちの行動に合点がいった。
先に動いたのはマリだった。マリは剣を大きく振り上げ、ゼノに向かって振り下ろした。ゼノは刀を抜いて受け止める。間髪入れずにマリの剣は頭、腕、胴へと荒々しく切りかかった。ゼノはすべての攻撃を受け止め鎧の隙間から手刀で気絶させようとしたが彼女の言う極彩色の感覚に飲まれているのか痛がるだけでまだ立っていた。
「こりゃあ術漬けされているな、身体能力も上がっているし痛覚が鈍っているのかもしれない。」
ゼノは途中からマリの応戦にはいったニーレとレミスの援護攻撃をよけながらいかに無力化させる方法を考えていた。ゼノはまず近づいてきたニーレの顎を殴り体勢を崩したところで闇魔法で彼女の体を拘束する。
マリはもう一度剣を振り上げようとした瞬間後ろで何かが壊れる音がした。振り返ると闇の刃がレミスの矢筒を壊されており、拾おとかがんだレミスを再び闇の刃がレミスを襲った。
一人取り残されたマリはうなり声をあげて剣で刺す構えを取った。
「目がイッてんな。ハイになっててもう理性が擦り切れているか早くしないと廃人化しちまう。」
全力で突っ込むマリにゼノは剣を構えたその時光る障壁がマリの前に立ちふさがった。サリーが杖をかざしながらゼノの前に立ったのだ。
「ゼノ試験官!微力ながら助太刀させていただきます!マリを私の友達を救わなきゃならないんです!」
「お前は大丈夫なのか敵意は感じられないし・・・」
「私も彼女たちのことは不審がっていました!詳しい話は戦いが終わってからお話しします!どうかご指示を!」
障壁が斬られもはや意識が混濁しているマリが突っ込んできた。
「ここまで来たら手荒な手段を取るしかない!タイミングを出す!その時に《《半分》》だけ障壁を出してくれ!バフはいらん!」
「わかりました!」
ゼノは剣をおさめ、丸腰でマリに向き合った。マリの剣がゼノに届きかけた時すんでで避け彼女の懐に至近距離で彼女の腕をつかみ鎧の一部をつかんで彼女を投げ抑えた。そのままゼノは彼女の首を締めあげる。ゼノは締めながら、
「障壁で彼女の手から剣を放すんだ!」
サリーは杖の先端を障壁で包んでマリの手の甲におもいっきり振り下ろした。鈍い音を立ててマリの手から剣が離された。
首を絞められたのかマリは意識を失い倒れ込んでしまった。ゼノはマリ達から武器を回収して持っていた刀で防具を外していく。騒ぎを聞きつけた生徒たちが最深部にたどり着いた。
「あ・・・あれゼノ試験官いったい何があったんですか?」
「ああ、お前たちかちょっとトラブルがあってな。その対処に追われていたんだ。力のあるやつはこいつらを運んでやってほしい。あと教官たちを連れてきてくれ。」
ゼノは切られたほんの一部を生徒たちに渡し、帰還を促した。
ゼノとサリーが教官らを待っている間、ゼノはサリーにある質問をした。
「さっきの話を聞かせてくれるか?」
「は・・・はい。私の知っている範囲ですがーーー」
サリーはいままでの仲間の違和感とその経緯について話した。
「なるほど、お前以外はどこからか仕入れた防具を着始めておかしくなったのか。
お前だけ例の防具屋のを着ずに来たわけだ。ああ見るとお前は運がいいな。」
「私がもっとみんなに向き合えばこんなことにならなかったはずです。試験は失格になっても構いません。それよりマリ達は大丈夫なんですか?」
「まだ起き上がってくる気配はないだろう。その防具屋についても話してもらわないといけないしな。あんたはそこまで厳しい処罰は下らないだろうけど彼女たちはわからないな。」
「そうですか・・・」
そうしているうちに教官と学術院の違法防具調査隊の人が来た。あのときゼノが教官に渡したメモには学術院が結成した違法術式を調査する隊の連絡先が書かれていた。
「あ・・・あのうちの生徒が違法防具を使ったって本当ですか?」
教官はおそるおそる尋ねた。ゼノは彼らを一瞥し
「その可能性もある。俺はギルドからそういう調査をクエストで受けてきているからな調査には関わらせてもらう。」
調査隊は魔方陣を展開し防具や剣を調べ始めた。隊の人が展開しているのは特定の術式が含まれていたら魔方陣が赤く染まるというものだ。いわばリトマス紙に似ているものである。
魔方陣を展開して数分後白かった魔方陣は赤く変色した。それを見たゼノはのびている三人を叩き起こすと腕に縄をかけた。
「ゼノ殿・・・お待ちください。わが校の生徒が違法魔道具を使用していたなんて・・・」
「評判を気にするのか?だがこっちも取り締まるのが仕事なんでよ。こいつら、いやこのレミスは徹底的に聴かなきゃいけねえな。」
「学武院創設以来の大失態ではないか!この恥さらしども!保護者の皆様になんとお伝えすればよいのか!」
「そっちはそっちで何とかしろ。それよりギルドから人員が着き次第こいつらを連行する。」
そうして学武院卒業試験は幕を閉じた。
一か月後、ゼノは報告書作成のためギルドを訪れたが受付でどこか見たことのある神官見習いの制服を着た女の子とアリアがもめているように見えた。
「ゼノさんはどこにいますか!ここにいるって聞いて・・・」
「落ち着いてください~ゼノさんは毎日ここを来るわけではないんですう~」
アリアの後ろでレーナがひょこっと顔を出した。
「あら~ゼノさんお久しぶり~なんかあんたを探してるって子いるみたいだけど?」
「そこで騒いでいたからわかる。ってお前試験の時にいた神官見習いじゃないか?」
「えっ・・・覚えていてくれたんですか?少ししか会っていないのに・・・」
「話があるなら聞くぞ。どうせギルマスは会議中だしなそれまでならいいぞ。」
ゼノとサリーはギルドの片隅で試験事件の顛末を話した。
「あいつらが話した装備屋は俺が来た時にはもぬけの殻になっていた。が、購入者リストは手に入れることが出来た。俺はその購入者をしょっ引くことで手いっぱいだったけどな。お前の方はどうだった。学武院も大変だっただろう。」
「はい。あのあと学校でもすごい話題になっていて、私以外の三人は退学になりました。マリは家の都合で他国の貴族と結婚するんです。ニーレは治療のために学術院に行くことになりレミスは仮釈放された後行方が分からなくなっていました。」
「レミスは報告次第全国に指名手配されるかもしれん。お前はどうなったんだ?」
「私は一週間謹慎をもらっただけです。学校最後の思い出がこんな形になるなんて残念です・・・」
「お前は違法な物に手を染めていないのは幸運だったな。」
サリーは父からもらった加護つきの防具を触る。もしあの時父に会っていなかったらマリ達と同じ運命をたどっていたのかもしれないと思うと背中に悪寒が走る。
「《《先輩》》からのアドバイスだ。違和感感じたら引き下がるのは勇気あることだ。俺はそろそろギルマスに報告しに行くからな。」
サリーは立ち上がってゼノに向かって声を大きくしていった。
「また・・・会えますか?」
ゼノは何も言わずに手を挙げてひらひらと振った。それを見たサリーは受付の方に行き、冒険者申請の手続きをしに行った。
ゼノは階段を上りギルマスのいる部屋をノックした。許可が入るとゼノは部屋に入っていった。
「おお、ゼノ!お疲れさまだ!捜査の方は順調か?」
「変に名前が売れすぎたせいで操作どころじゃねえよ。お前ら一人逃がし損ねたって聞いたぞ。」
「あれは貴族相手だった。対策していなかった我々が甘かった。他のパーティーからの報告だと違法道具は全国に広まっているらしい。」
「それだけ需要があるってことか。」
「生徒の証言である“極彩色の感覚”目当てで買うものもいるらしい。違法な物ほど普通の物に紛れやすいからな。君も用心したまえ。」
「俺は信頼できるところしかアイテムも道具も使わねえよ。」
「そう言えるのは君ぐらいだよ。それなんだがまた捜査に協力してほしい。
次に行ってもらいたいのはーーー」