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第6話 学武院卒業試験

 ある春の気配が漂い始めた日、学武院の学生寮で三人の生徒がベッドに寝ころびながら教科書を見ていた。


「あーいよいよ卒業試験かー緊張してきたー」


学生のマリが同室のニーレとサリーに声をかけた。


「私たち初めてだから絶対卒業しようね。」


「ダンジョンがあ、なんか怖くなっちゃうな」


「しかも留年している人を一人入れるみたいだよ。」


サリーがそういうと二人は彼女に目を向けた。学武院の卒業試験は厳しく失格や留年は優しい方で死者が出るほど過酷なものである。今年も再挑戦するという人は珍しくないのだ。


「じゃあ、今度の休みにその人に会いに行こうよ。これから一緒にダンジョンに行く仲間なわけだし少しでも知っとかなきゃ。」


「そうだね。私も賛成。サリーは神殿に行くの?」


「うん。でも挨拶に行くだけだからすぐ合流できると思うよ。」


「じゃあ、明日に備えておやすみー」


三人は教官に叱られるまでおしゃべりをした。


 休日、マリとニーレは私服のドレスに着替えて街の中心にある噴水で例の留年生を待っていた。


「さすがに私服だとわからないかな?」


「制服のほうが良かったかもね。」


「やあ、マリさんとニーレさんですか?俺レミス。よろしく。」


二人に長身の男が話しかける。身長は百八十ぐらいあり体格はやせ型、髪は男なのに髪の短い女性と同じくらい長くて表情はどこかつかみどころのないようなミステリアスな雰囲気を纏った男性だった。二人はクラスで見る無骨で芋くさい男子とは違う魅力を感じた。


「あ・・・あのはじめましてっ・・・マリといいます!」


「おなじくニーレです!よろしくお願いします!」


「あははそんなに緊張しなくていいよ。俺のことは呼び捨てでいいよ。それよりここで立ち話もなんだからどこかカフェーでお話ししようよ。」


 三人はカフェーでマリはいちごのパフェ、ニーレはブドウのゼリー、レミスはコーヒーを頼んだ。マリはパフェに舌鼓を打っているとニーレが彼に質問した。


「レミスはどうして騎士になろうと思ったの?」


「僕は貴族の五男坊でね。いくら継承権が弱いとは言っても跡目争いに嫌気がさしてね、せめて自由を求めて騎士になって気ままに過ごそうと思ったんだ。」


「わかる!私もいくら貧乏子爵の子供とはいえ、受けつがれるのは借金と負債だけだし、社交界のいざこざってホント嫌になるー」


「そうなんだ・・・私は生活のためかな・・・」


「そういえばニーレちゃんって平民出身だよね?学武院ってすごいところだよね。平民でも実力ある子なら入れるところ。」


「そう!ニーレはすごいんだよ!短剣さばきがすごいんだし勉強もできるんだよ。」


「マリも剣術すごいじゃん。レミスさんの職業は何ですか?」


「俺は弓矢を扱っている。魔法も簡単な治癒と攻撃くらいならできるよ。」


「遠距離持ち助かる~今はいないけどサリーっていう神官見習いの子もいるんだよ。用事があって来られないけど、サリーもいい子だよ。」


するとレミスはコーヒーカップを静かに置いた。


「いいね、仲間って僕にも仲間はいたんだ・・・去年の今頃あたりだったかな個々のカフェーで夢を語り合ったんだ。」


 レミスは二人にぽつぽつと語り始めた。レミスにはかつてパーティーを組んでいた仲間がいた。彼以外平民であったが皆仲が良く騎士を夢見て卒業試験のダンジョンに挑んだ。しかしレミス以外お金のない平民であったばかりにいい装備を整えられなかったばかりにレミス以外死んでしまった。


レミスは静かに涙を流した。


「俺は今でも思い出すんだ。彼らに装備を買ってあげるべきだったのか。いい装備屋を見つけてあげるべきだったのか学武院は残酷なほど平等だ。こういう面で格差が出てしまって・・・結局は貴族の生存率が高くなるんだ。」


レミスの告白に二人は黙るほかなかった。レミスは続けて言った。


「俺は生き残った後また学武院で学びなおし皆が生き残る方法を模索したんだ。」


レミスは二人の前に手を置いて前のめりになった。


「俺は見つけたんだ。もう二度と仲間を失いたくない。そのために必要なことを見つけたんだ。君たちはついてきてくれるかい?」


ミステリアスな彼から語られる悲惨な過去、試験の厳しさの迫力が二人を圧していった。


「わ・・・私もニーレもサリーも失いたくない。どうすればいい?」


マリが真剣な表情で答えるとレミスはまたおちついた表情になって、


「俺ね安くてかつ強い装備屋を見つけてきたんだ。いまから案内するよ。」


三人はカフェーを出ると大通りを抜け路地裏に入った。


「あの・・・ここ入っても大丈夫なの・・・?」


「隠れた名店だからね。心配しないで信じて。」


三人はとある古びた店に足を踏み入れた。店内は以外にも街の装備屋とは大して変わらなかった。店の品物もそんなに変わったものがなかった。意外にも隠れた名店なのかもしれないとマリとニーレは考え始めていた。レミスが長剣をマリに差し出した。


「とりあえず試しに斬ってみて。」


店主が巻藁を用意するとマリは静かに構えて藁を斬った。


その時マリの視界と脳内に極彩色の光と得も言われぬ高揚感、そしてどこからか湧き出る全能感がやってきた。気づけば巻藁を何度も斬っていた。


「・・・なにこれ・・・すごい力が湧いてくるこれが安価で手に入るの・・・」


「どうしたの?マリ様子がヘンだよ・・・?」


「ニーレもやってみなよ!すごい力が湧いてくるんだよ!レミス!これの短剣ってある?」


「なんか・・・怖い・・・」


するとレミスがニーレの顔を近づけて耳元で囁いた。


「怖がらないで・・・ただの魔法術式が編み込まれているだけで彼女も興奮しているだけだから。」


二人の雰囲気に押されてニーレは短剣と鎖帷子を着込んで軽く振ってみた。ニーレもマリと同じように極彩色の感覚と爽快感がやってきた。


「これ・・・が私?」


「そうだよ。この店の防具と武器を買えばダンジョン攻略なんて簡単だよ。卒業試験も乗り越えられる。」


「私ここで買います!防具と長剣でいくらになりますか?」


「私もとりあえず防具買います・・・」


「よかったあ。気に入ってくれて僕はここで買い揃えているからあとで神官のサリーちゃんにも教えてあげて。」


店主が質の悪い紙を持ってきた。


「買うならこの契約書に書くもの書いときな。」


マリとニーレは契約書に本名、学生証の写し、家族の情報などを記した。二人は今まで親や学武院から支給された防具でやってきたので防具の買い方はよくわからなかったのだ。二人は極彩色の感覚が抜けきっていないまま言われるまま書類にサインした。


 マリとニーレは門限ぎりぎりに寮へ帰った。部屋を開けるとサリーが部屋に立っていた。


「サリー今日はこれなかったの?」


「うん、ごめんなさい。今日神殿に行ったらお父さんがいてね、お父さんが私のために防具を買ってきてくれたの。しかも加護のある防具を買ってきてくれたんだ。絶対生きて帰ってきてと。」


「加護つきってすごい高価じゃないサリーのお父さん大丈夫なの?」


「生きててくれればって頑張ってくれたんだ。二人はレミスさんだっけ?会ってきたんだよね?どうだった?」


「すごかったよ!安くて強い装備屋さんを紹介してくれたんだ!」


「仲間思いでいろんなことを知っているんだよ。次会えるのは試験の時だね。」


サリーは興奮している二人にどこか違和感を感じていたが新しいパーティーメンバーに会ったのか興奮しているんだろうと思い込んだのだ。


「防具気になるんだったらいつでも言って!」


次の日からレミスを含めた四人で連携技の訓練に励んだ。やはり聞いてた通りマリとニーレの力が上がっていてサリーはついていくのに必死だった。


「みんなたった一日ですごく力が上がってる。でも訓練までにその防具なのはきつくない?」


「なんともないよ!むしろ使えば使うほど力が湧きあがるんだ!」


「浮いたお金でポーションを多く買えるのもいいね。ありがとうレミス。」


「こちらこそ店主が君たちに感謝してたよ。さあ休憩が終わる、訓練再開だ。」


四人は再び武器を取り、訓練を再開した。



試験まであと三日。

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