中編6
「飯も食い終わったことだし、さっきも言ったようにお前らのことを相談しに占いババアのところに向かうか。」
そう言って店を出たサーリヤは二人に声をかける。
「女将さんが確かバラカ婆さんとおっしゃっていた方ですね。どのような方なのでしょうか?」
「この国で占いをしている婆さんが居るんだが、ミルル、お前と同じ恐らくこの国唯一の白色の魔力持ちだ。怪しげな魔術を使う婆さんでな、人の運命を見ることができるらしい。盲目のくせに人のことは何でも見通してきやがるからあんまり俺は会いたくないんだが、占いや相談事に訪れるやつも多いから色んなやつに顔が利く。俺も昔ちょっとした用件で世話になった。そんなわけで、仕事を探す伝手としてならうってつけの婆さんだぜ。」
そう言いながら、サーリヤ達は人通りの少ない路地を進む。
「この店だ。まずは俺が先に入るからちょっとここで待ってろ。」
グルークとミルルを店の前に待たせてサーリヤは店の扉を開ける。水煙草特有の香りとお香の混じり合った独特な匂いのする薄暗い店内を進みながらサーリヤは店の奥に座って煙をくゆらせていた老婆に話しかけた。
「よお、婆さん、久しぶりだな。相談事があるんだが今大丈夫か?」
「その性急な物言いはクトゥブのところのサーリヤ坊だね。今日はなんだい?店の前に居る二人の子供についての相談かい?」
既にグルークとミルルの存在を把握してるバラカに畏れを抱きながらサーリヤは頷いた。
「そうだ。砂漠で死にかけてたんで拾ってきちまったんだが、奴隷として運搬されていたところをジャイアントワームに襲われたみたいでな。持ち主も分からねぇから、返す当てもねぇんだ。単刀直入に言うと二人の仕事を探している。何かいいあてはないか?」
「とりあえず二人をあたしの前まで連れてきな。話はそれからだよ。」
「分かった、ちょっと待っててくれ。というか俺はもう坊やって年じゃねぇよ。クトゥブ師匠からも独立した一人前の横断屋だぜ。」
「やかましいよ。あたしからすればクトゥブの奴だってまだまだ坊やだし、横断屋としてのあんたの腕前なんかはまだまだひよっこもいいところさね。砂漠を分かった気になるのは20年は早いってもんだよ。いいから早くつれてくるんだよ。」
自分よりも遥かに年を重ねているであろうバラカに一喝され、ブツブツと文句を独り言ちながらサーリヤは店を出る。
「グルーク、ミルル。店に入っていいぞ。いつから生きてるか分からねぇババアがお前らを連れて来いってよ。」
不満気にしているサーリヤに首をかしげながらグルークとミルルは店に入る。鼻が特に利くグルークは店内の匂いに酷く顔をしかめていたが文句は言わずにサーリヤについていった。
「ババア、連れてきたぞ。名前はグルークとミルルだ。二人は兄妹らしい。こことは違う大陸に住んでいたが、攫われてここまでたどり着いたそうだ。俺が二人について知っていることはそれくらいだ。」
二人が闇を見通せる目を持つことや、感情を読み取る鼻を持つことは伏せて、サーリヤはグルークとミルルを紹介した。
「ちょいと活を入れたくらいで拗ねるんじゃないよ全く。」
そう言いながらバラカは見えない目でグルークとミルルに向き直る。
「・・・・・・あぁ、目がくらむようだね。厄災と希望、等しく呼び寄せる強く若い光だ。どちらにも輝き得る双子星。」
サーリヤの態度にあきれた様子のバラカだったが、グルークとミルルを見て独り言の様に呟いた。
「グルークとミルルといったかね。二人に問う。何を望む?」
バラカは静かにグルークとミルルに問いかける。
「この地で生き残るための術を得たいです。可能ならばあの日、共に攫われたであろう同族の捜索も。」
「オレ、ミルル、ハンダン、シタガウ。ミルル、カシコイ、イツモ、タダシイ。」
グルークとミルルは答える。
「そうかい。」
グルークとミルルの答えを聞き一言だけ呟いて、バラカはしばらく押し黙った後にゆっくりと話し始めた。
「白き神狼の星の下に産まれた子供たちよ、この世界を生きるには困難と試練は付きものさ。ミルル、お前はあたしと同じ白色の魔力持ちだね?魔力を適切に扱えるように鍛錬しなさい。魔力の扱い方を私が教えてやろう。魔術を扱えるようになればお前は聡明な魔術師になれる。そして、グルーク、お前は、優れた身体能力と感覚を持っている。更に身体を鍛え、感覚を磨き、直感を支える思考を得るように努力しなさい。そうすれば大切なものを守れるようになるだろう。」
「それは運命を見定めるとかいういつもの占いの結果か?占いもいいが働き口の方はどうなんだ?」
バラカと二人の会話を黙って聞いていたサーリヤだったが、ミルルとグルークの働く先があるのかが気になり口を挟んだ。
じろりと見えていない目でバラカはサーリヤを見る。
「二人の働き口かね。働き口はあるが紹介する気は無いね。ところでサーリヤ、お前死にたいのかい?」
バラカの唐突な言葉にサーリヤは驚いた。
「いきなり何を言い出すんだ。死にたいなんて思うわけないだろうが。なんだ?俺が死ぬ運命でも見えたか?」
「ま、そりゃあ誰だって進んで死にたくはないか。くだらないことを聞いたね、忘れておくれ。」
不安そうにサーリヤを見つめるグルークとミルルを尻目にバラカは答える。
「おい、待て。そんな不吉なことを言われてはい、分かりました。忘れます。なんてなるわけないだろうが。あと、グルークとミルルの働く先は有るけど紹介する気はないってどういうことだ。」
サーリヤは地団駄を踏む。
「砂が舞うだろうが、やめんか。まぁ聞け、サーリヤ、・・・そうさねお前はキャラバンを組め、グルークとミルルと共にな。」
「は?キャラバン?グルークとミルルと一緒にだと?なんでそうなるんだ、俺はグルークとミルルのこの国での働く先を探しに来たんだぞ。」
「話は最後まで聞けと言っておろうが、相変わらず性急な奴じゃな。いらんところばっかりクトゥブの奴に似おってからに。いいか?まず、サーリヤ、お前の単独での砂漠踏破はそもそもが常に不安定じゃ、穏やかな時期に夜の砂漠を進むなら何とかなったかもしれんが、これからの砂漠は暫く荒れる。魔力の波がいつも通りじゃないからの。グルーク、ミルルお前らの望みは生き残るための術と同族の捜索じゃな?この国に根付き、働けば確かに生き残る為の糧は得られるじゃろう。しかし、捜索の方の願いはこの国に留まるだけでは叶わぬ願いよ。サーリヤと共にまずは砂漠地帯を取り囲む国々を巡り、情報を集めなさい。そうすれば自ずと道は開けるであろう。」
バラカのどうにも捉えどころのない雲を掴むような話を聞き、サーリヤ達は暫く呆然とするのだった。
新たな登場人物である占い師のバラカが登場しました。
何でも見通しそうなスゴイおばあさんです。
ようやく物語の主要な人物を全員喋らせることができました。
前回の後書きで物語の折り返しを過ぎたと言いましたが嘘かもしれません。
意外と終わりは近いような遠いような・・・年内にはけりをつけます!
何とも盛り上がりのない地味な展開が続いておりますが、
後半はちょっとはテンションが上がる要素を足したいですね。
読んでくださる皆様には感謝です。次回の更新でもお会いできるのを楽しみにしております。
よろしくお願いいたします。