中編3
「まずはお前らを檻から出す。どけ、入り口から離れろ。鍵を破壊する。」
グルークが檻の入り口から離れると、サーリヤは力任せに鉄製の鎖を引きちぎった。
グルークは目を見開き、サーリヤに尋ねた。
「オマエ、ニンゲン、チガウ?」
「俺は人間だ。魔力を使って身体能力を強化している。いつもこんな力を発揮できるわけじゃない。」
檻の中から出てきたグルークと、いまだに意識が戻らないミルルを抱えながらサーリヤは歩き出す。
「また、お前らを襲った魔物どもが来たら面倒だ。ここから少し離れるぞ。歩けるか?」
サーリヤの提案にグルークは頷く。
「そうか、ところでまだ俺の名前を教えていなかったな、俺の名前は『サーリヤ』だ覚えておけ。」
「ワカッタ。」
「よし。それで?お前らは兄妹かなんかか?」
「ミルル、オレノ、イモウト。モリ、スム、オソワレタ。」
「・・・そうか、それは災難だったな。親はどうした?どこでどうしてるか分かるか?」
「ワカラナイ。」
そう言って俯くグルークにかける言葉が見つからず、しばらくサーリヤとグルークは無言で歩き続けた。
サーリヤは適当な場所を見つけると月明かりの暗がりになっている砂丘のふもとにキャンプを張り、ランプをつけた。
「さすがに完全な闇の中だと視力を強化しても見えないからな、ランプで照らすぞ。お前は月明かりでも俺が見えてたみたいだが、完全な闇でも見えるのか?」
サーリヤが尋ねるとグルークはうなずきながら答えた。
「ミエル。*****、ヤミ、イキル、イキモノ。」
「なんだ?お前らの種族か?聞いたことないな。まぁそこらへんのことは後だ。とりあえずミルルを起こさないとな。」
「オコセルノカ?」
「俺の黄の魔力をミルルに流して体の活性を促す。治癒の力を持つ緑の魔力を使うわけじゃないから、回復するかはこいつの根性次第だがな。今日はここで過ごす。食い物をやるから食べたらお前は寝ろ。」
グルークに食べ物を手渡してからサーリヤは自身の魔力を流す。
魔力を流した際、一瞬グルークがサーリヤを警戒したが、不思議なことに直ぐに警戒する様子をひっこめた。
サーリヤはその様子を訝しんだが、邪魔されてはたまらないので無言で魔力を流し続ける。
満天の星空の下、小さな光が灯ったキャンプの中でサーリヤ達の静かな夜は更けていく。
時折テントを撫でるような風の音以外は無音のテントの中でサーリヤは白い獣人の片割れである『ミルル』という少女に自身の活性の力を持つ黄色の魔力を送り込みながら呟いた。
「そろそろ起きてくれなきゃ俺の体力が持たなくなりそうだ。お前の兄貴も随分と心配しているぞ、頼む起きてくれ。」
すると、サーリヤの声に反応したのか否かミルルと呼ばれた少女の手がピクリと動いた。
「っ!!起きたか!?おい、ミルルとかいったか?声は出せるか?体は動きそうか?」
瞼をゆっくりと開けながら、手をふらふらと宙に漂わせながら、ミルルはか細い声で呟いた。
「グルーク**?グルーク**?*********、**?***、****!」
サーリヤには理解できない言語で何かを呟いていたミルルだったが、やがて意識がはっきりしてきたのか、サーリヤに焦点が合うとこれまでの弱っていた様子が嘘であるかのように俊敏な動作で体勢を整えると鋭い目つきで尋ねた。
「あなたは何者ですか?」
「・・・・・・落ち着け。俺は敵じゃねぇ。妹の方は随分と流暢に喋るじゃねぇか。お前の兄貴は意思疎通がやっとの片言だったぜ。俺の名前は『サーリヤ』だ。お前ら兄妹が砂漠で死にかけてたのを見つけて助けてやったんだ。感謝しろ。」
そう言ってミルルの質問に何とか平静に答えたサーリヤだったが、闇の中でグルークに視認された時以上に驚愕の表情を隠すのに必死だった。
((かなり気配が薄いが白色の魔力を感じる!?ありえねぇ、初めて見たぜ。奴隷商人の奴らがリスク覚悟で砂漠を横断しようとするはずだぜ。))
サーリヤ達の住む世界では様々な色の魔力があるが、中でも”白色”の魔力は希少かつ、汎用性に富む色の魔力として認知され、魔力持ち達の憧れとして有名だった。
((どうする?こいつに随分と魔力を使ったから暴れられたりしたら厄介だぞ。くそっ、魔力を使いすぎるんじゃなかったぜ。))
サーリヤとミルルは睨み合ったが、ふっとミルルが表情を緩めると口を開いた。
「あなたの話は本当のようですね。そこで寝ている兄様に代わってお礼を申し上げます。助けていただき、ありがとうございました。ところで水をいただいてもよろしいでしょうか?とても喉が渇いているのです。」
サーリヤは水筒を手渡しながら、言った。
「お前の兄貴もそうだったが、随分とあっさり俺の言葉を信じるじゃねぇか。あまりガブガブと飲むなよ。次のオアシスの国までまだ少し距離がある。それと、『兄様に代わって』じゃねぇ、お前の兄貴は何でもすると言ってまで、お前を助けてくれと言って俺に頼ったんだ。礼を言うなら兄貴に言え。」
ミルルは水筒を傾け、少し考え込む様子を見せた後、頭を下げた。
「そうでしたか。兄様には改めて感謝を伝えます。それとは別に重ねてお礼を申し上げさせてください。私たちを助けていただき、ありがとうございました。お礼というわけではありませんが、私たちの秘密を教えましょう、実は私たちはある程度ではありますが、相手の感情を感じ取ることができるのです。」
「お前は精神に作用するタイプの魔術が使えるのか?白色の魔力を持つ魔術師はあらゆる色の魔術を使うことができると聞くが、そんなことまで出来るのか?」
ミルルはゆるゆると首を横に振りながら答えた。
「違います。確かに私は白色の魔力持ちですが、精神に作用する高度な魔術は使うことができません。感情を読み取るのは私たちの種族の先天性な特性なのです。」
ミルルは指で自身の鼻をトントンと叩く。
「匂いで相手の感情がなんとなく分かります。例えば、先ほど私が目覚めた時のあなたの感情は”驚き”、”焦り”、そして最も強く発していた匂いは”心配”です。荒っぽい態度とは裏腹にあなたは随分と優しいのですね。そんなあなただから兄様もあなたを信じることができたのでしょう?」
そう言ってミルルは微笑んだ。
突然サーリヤは自身のことをそのように評され、むずがゆい思いをしながら、答えた。
「わかった、わかった、お前らが特別な獣人なのはよーーーくわかったよ。とりあえずお前にも少し食糧を分けてやるから食べたら寝ろ。もうすぐ夜が明ける。出発は日が落ちてからだ。どうせお前も夜は見通せるんだろ?俺も寝たいし、お前の兄貴も泥みてぇに寝てから起きないしな。」
「ありがとうございます。では休ませていただきますね。」
砂漠横断の時のための携帯食を少し齧ってから、布団にくるまるミルルを見届けながら、サーリヤは胡坐をかくと、どっと押し寄せてきた疲れに身を任せるように自身も眠りにつくのだった。
ギリギリ14日に間に合いました(泣)間に合ってますよね!?
なんとも遅いペースでの更新となってしまい、ごめんなさい。
自分のなかでは長めの文章なので許してください。
いざ、自分が作文する側に回ると毎日更新されている方のすごさがハッキリわかりますね。
皆さん、感謝しましょう(?)
それでは物語は遅々として進んでおりますが、ようやく主要な登場人物が出揃ってきました。
うまいこと完結できるように頑張りますので、よろしくお願いいたします。
では、また次話更新予定日(11/21)でお会いしましょう。