中編1
セントラを出発してから早くも4日が経ち、夜の砂漠を進むサーリヤは自分の仕事場の環境に違和感を抱いていた。
『活性』の性質を持つ自身の黄色の魔力を使って視力と身体能力を強化し、警戒しながらサーリヤはあたりを見まわした。
((ハリールの言ってた通り確かにいつもより魔獣どもを多く見かける気がするな。どうなってやがる?))
砂漠地帯の昼は当然のように日差しが強く、食物連鎖の上位に位置する大型の魔獣たちが活動しているため、常に周囲を警戒しながらの体力を非常に消耗する行程になる。
サーリヤが特定のキャラバンに属さず単独での行動にこだわるのは一人で好き勝手に日程を決めたいという理由もあるが、月明かりのみで目が効く場合、夜の砂漠が涼しく、静かで行進がしやすいからだ。
サーリヤにとって自身がいつも歩く夜の砂漠は静かなものだった。見かける生き物もせいぜいか虫かそれを捕食しようとうろつく小型の砂漠キツネくらいのものだ。
それなのにこの4日間で既に何度か夜の砂漠では眠っているはずの大型の魔獣が活動しているのを見かけている。そのたびに魔獣に見つからないように立ち止まって警戒しなければならない為サーリヤは苛立っていた。
「くそが、砂漠のクジラどもになにか異変でもあったか?」
サーリヤは自身が連れているラクダが答えてくれるわけでもないのに、そんなことを独り言ちる。
サーリヤの住む砂漠地帯の主は『水星鯨』と呼ばれる超大型の魔獣だ。
彼らは食事するための口を持たず、星からの魔力を直接吸って生きていると砂漠の国の住人たちからは考えられていた。
水星鯨は砂漠地帯全体を水の中のように泳ぎ、死ぬとその巨体を支える骨が残る。そこから不思議なことに残された骨から導かれるように地面から水が湧き、オアシスとなるため砂漠の神の僕として崇める住人も多い。
サーリヤの住むセントラもかつて水星鯨が死んだ土地にできたオアシスを中心に広がった国であり、今でも街の一画には骨が化石のように残されている。
砂漠で異変があるときは大抵クジラのせいだ。そんなことを思いながら、サーリヤはいつもより騒がしい夜の砂漠を進むのだった。
「こんなに手間取るなら、中継仕事なんか受けるんじゃなったぜ。・・・・・・なんだこの匂い。」
愚痴をブツブツと呟きながら進むサーリヤの鼻腔に嫌な匂いが届けられた。
「あれは、ソリの残骸か?」
幌として張られていたであろうボロボロの布と散らばった木材の残骸に近づきながらサーリヤは面倒ごとの予感を感じていた。
食い散らかされた複数のラクダの死骸と血の付いた衣類と思わしき布があたりに散らばり、周囲に血臭が漂っている。
「大方、砂漠モグラか、ジャイアントワームあたりでも襲われたんだろうが、小隊で夜に進む、ソリを曳いた横断ねぇ・・・。」
嫌な予感を覚えながらサーリヤは比較的破損していないソリに近づいて覆いかぶさるように巻き付いていた幌を剥ぎ取る。
「ちっ、やっぱりか。どうすっかなぁー、めんどくせーな。」
サーリヤの前にぐったりとした様子で横たわる二つの白い獣人が簡素な檻の中に鎖でつながれていた。
「ちっ、金目のものでも残ってねぇかと少しばかり期待したが、まさか食われてねぇ奴が残ってるとはな。閉じ込められた檻のおかげで食われないなんてまったくもって皮肉だぜ。・・・おい、お前ら、生きてんのか。」
そう毒づきながら、サーリヤは警戒しながら檻に近づいた。
いよいよ砂漠の横断が始まりました。どうも、作者です。
今話から主人公が町を出て魔力を使い始めました。
作者はファンタジーな力は大好きなので、この世界も魔力や魔法といった概念はあります。
設定を色々と考えるのは楽しいのですが、クドクド設定ばかり説明するのも物語として退屈なので、
今作ではあくまでもエッセンス程度に考えていただけると幸いです。
いつの日か長編の物語の書けたときに、世界観と絡めて読んでくれる皆さんがワクワクするようなものにしたいですね。
次の更新は11月7日予定です。よろしくお願いいたします。