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後編2

「ん、ん~~~ふあああ。」


バキバキと全身の関節を鳴らしながら、辺りの寒さを感じてサーリヤは目を覚ました。


「グルーク、おきろ。風邪をひくぞ。」


白い尻尾を抱くように丸まって眠るグルークを揺さぶりながら、サーリヤはテントから顔を出す。




遮るものは何もない冷たくも柔らかな月明かりが降り注ぐ寂寥としたいつもの夜の砂漠が広がっている。




「・・・・・・怖いくらいに静かだな。砂キツネ一匹すら気配を感じねぇ。まぁ、ここ最近の騒がしい夜の砂漠に比べればいつも通りに近いか。」




「シズカダ。クジラ、ウバイアイデ、タブン、マジュウ、アツマッテル」




「うへ。ってことは昨日の鯨が打ちあがったところで今頃ここら一帯の生き物どもが新しい生態系を形成中ってことか、自然の成り行きなんだろうが、絶対に巻き込まれたくねぇな。」




風の音だけが響く夜の砂漠でサーリヤ達は手早く荷物をまとめて、再び歩き出す。




鯨の雄叫びを聞いてから5日後、サーリヤ達は動物らしい動物とはほどんど出会うことはなく、


ガナシャの国を出てからの前半の行程とまるで違いスムーズに砂漠地帯を抜けつつあった。




「草木がチラホラ見え始めてきたな。そろそろ砂漠地帯を完全に抜けるぞ。もう少し進めばマジュド帝国の交易所が見えてくる。まったくもってとんでもない時期に砂漠を渡っちまったぜ。」




「サバク、オワリカ。ナガガッタ。」




サーリヤ達は油断をすることはないが、どこか気の抜けた会話を続けながら、交易所を目指していた。




「お、見えてきたな。あれがマジュド帝国の砂漠との玄関口、最東の交易所だ。」




既に日が昇り陽炎の向こうに微かに揺らめく建物の影を目視しながら、サーリヤは安堵した。




「ふいいいぃー。疲れたぜ、取り敢えず水が飲みてぇな。」




「オレモ、ミズ、ノミタイ」




何事もなく交易所につくや否やサーリヤ達は床にへたりこみ砂漠地帯の横断の喜びをかみしめた。


水を一口あおりサーリヤ達は取引を行う役人のもとへ向かう。




「ハリール様のキャラバンよりセントラで荷物を引継ぎ、ここまでお持ちになられたとのことですね。


お荷物は東の大陸の武器、あて先はマジュド帝国宛、ランス伯爵様へですか。少々お待ちください。」




交易所に在中する役人が横断依頼の取引記録を確認している中で、


サーリヤ達は報酬で何を食べるか何を買うか話し合う。




「グルークお前は何を買う?」




「イイノカ?ホウシュウ、サーリヤノモノジャナイカ?」




「馬鹿、いいんだよ今回の後半の砂漠横断は一人じゃ無理だった。お前の鼻と目と交代で不眠番をやってくれたおかげだ。これから受け取る報酬は俺だけのもんじゃねぇ。お前の報酬でもあるんだ。」




グルークが口を開きかけた時、役人が荷物と取引記録から顔を上げる。




「お待たせいたしました。ランス伯爵様宛の荷物の件、確かにご確認いたしました。また荷物についても問題ありません。こちら横断依頼の報酬となります。ご確認ください。」




サーリヤは手早く受け取った報酬を数え、取引を終える。




「よし、グルーク、まとまった金も手に入ったし、市場で食べ物と宿を探しに行こう。早くバラカ婆さんの店のミルルのところに戻りたいだろうが、俺もお前もクタクタだ今日はゆっくり休息を取って明日の帰りの砂漠に備えないとな。」




「オレ、ニク、タベタイ。ミルル、タスケルドウグ、カウ」




「お前、本当に肉好きだな。ハァ・・・それとお前は良い兄貴だよ、これからよろしく頼むぜ。」




サーリヤにしては珍しく素直な賞賛の気持ちでグルークを頭をなでつつ、新たな相棒と共に交易所を去った。




新たな砂漠横断の旅が近づいていた。


夜の風は静かで、星だけがサーリヤ達を照らしていた。


その荷には、ミルルに渡すつもりのフード付きの旅のための服が入っている。




グルークは何も言わず、ただ風の匂いを嗅いでいた。


サーリヤはその沈黙を、少しだけ誇らしげに感じた。




「なあ、グルーク」


サーリヤは口元をゆるめて、まるでひとり言のように言った。


「俺はこの仕事は面倒だと思っているがいろんな奴と知り合えるし、俺に合っていると思っている。


仕事の知り合いが困っていたら助けてやろうとも思っている。


だが、俺はミルルが言うところの優しい人ではねぇ。見返りがねぇと動かねぇし、最初にお前たちを拾った時も見捨てようかと思った。」




「デモ、サーリヤ 、タスケテクレタ。」


グルークはほんのわずかに口元をゆがめて、言葉を返す。




一瞬だけ、サーリヤの目が揺れた。


「……チッ、うるせえ」




サーリヤが照れ隠しするように速足で戻りの旅路を歩み始める。


グルークも慌ててサーリヤについてゆく。


そしてその先――ミルルが待つ、新たな未来へと続く道があった。

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