後編1
「くそっ、また虫どもが居やがる。婆さんは鯨の動きがいつも通りじゃねぇって言ってたな。全く厄介だぜ。」
「サーリヤ、マタ、ウカイスルカ?」
「そうするしかねぇな。倒せないことは無いが無駄な体力消耗とリスクは負うべきじゃねぇ。」
ガナシャの国を出発してから5日が経ち、サーリヤとグルークは何度も魔獣たちを避けながら砂漠を進んでいた。
「・・・地形を見るにまだ行きの半分の地点にもたどり着けてねぇな。歩くペースは悪くねぇが遠回りが過ぎるぜ。」
「エモノ、シトメル、ガマン。アセル、シッパイ、ヨブ。サバク、モリ、オナジ、カクジツニ、ススム。」
「分かってるよ。急いで死んだら元も子もないからな。それより夜明けからの眠らずの番はどっちからする?」
「キノウ、サーリヤ、サキニ、ネムラナイ、ダッタ。キョウ、オレガ、サキダ。」
夜通し神経を研ぎ澄ませながら進む二人はやや疲労した様子で会話を交わしていた。
砂丘から僅かではあるが、零れ出している眩しい太陽の光に目を細めてサーリヤは口を開いた。
「そうか悪いな、それじゃそろそろテントを張るか。」
余裕をもって物資を買っているが、貴重である水を大事そうに飲みながらグルークがサーリヤの提案にこたえようとしたところだった。
突然グルークが目を見開き頭頂部の獣耳を尖らせた。
「なんだ?どうした。」
サーリヤは不思議そうにグルークに尋ねようとした直後。
『ォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』
体の芯に響く地鳴りのような声は、サーリヤの錆びつき始めていた意識を吹き飛ばし、グルークは全身の毛を逆立てた。
「なんだァァ!!何が起こってやがる!!」
「・・・・・!!」
叫びながらあたりを見渡すサーリヤと耳をピンと尖らせ警戒心を全開にした様子であたりを見渡していたグルークが先に気付く。
「デカイ!!!」
グルークが叫びながら指さす方向をサーリヤが見ると、遥か彼方で巨大な砂の波と煙を生みだしながら巨大な鯨が砂漠に打ちあがるところだった。
「うおおお!水星鯨の全身なんて初めて見たぜ。まさかとは思うが砂漠の主の最後の雄叫びか!すげぇ、あそこにまたオアシスが生まれるのかよ!すげぇもん見れたぜ!」
「サーリヤ!!!ニゲル!!!」
興奮気味にまくしたてるサーリヤをグルークが諌める。
はっと我に返ったサーリヤがあたりを見渡すと、水星鯨に殺到する様々な魔獣たちの群れのいくつかが立ち止まっているサーリヤ達を見つめていた。
「くそがっ!魔獣どもの動きがおかしかったのは鯨の死期が近くて死体をめぐっての縄張り争いがあるのがわかってたからか!グルーク!こっちだ、逃げるぞぉぉぉ!」
サーリヤ達を威圧するように睨んでいる魔獣たちの群れと水星鯨の死体から一目散に離れながらサーリヤとグルークは疲労した体に鞭を打ってラクダたちと共に全力疾走するのだった。
「ぜぇ、ぜぇ、はーーーー、死ぬかと思ったぜ。」
「はぁ、はぁ、はぁ」
頭上で照り付ける太陽から逃れるように砂丘の陰にサーリヤ達は体を投げ出す。
「も、もう、走れねぇ。グルーク、テントをはって休もう。」
「オレモ、ツカレタ。ウゴキタクナイ。」
荷物を背負ったラクダたちも今にも倒れそうな様子で足を折る。
「コイツラ、スゴイ、ガンジョウダ。」
ラクダたちを眺めながら、グルークは息を整える。
「この2頭は特別なラクダだからな。持てる荷物の量は普通のラクダと変わらないが、体力とスピードがあるんだ、短距離なら全力疾走もできる。夜に行動できるように調教されているし、ほぼ魔獣みたいなもんだ。まぁその分買った時の値段も破産するかと思うくらい高かったがな。まぁ、なんにせよ疲れたぜ。かなり鯨の死骸から距離をとれたし、休むぞ。リスクは多少あるが寝ずの番は無理だ。気休め程度だが魔獣避けの香を焚くからグルークも体力の回復に専念したほうがいい。」
ノロノロとした動きで何とかテントを張りラクダたちに僅かな水をやってから、胸のすくような魔獣避けの香りの中でサーリヤ達はテントの中で横になるや否や気絶するように眠るのだった。




