『泡沫に神は微睡む』と『魔女と傭兵』はなぜ埋もれていたのか? 〜人気作品で振り返る小説家になろうの作品埋没問題〜
今回は、タイトルの2作品を例としてなろう最大の問題、作品の埋没について語っていきたいと思う。
まずその前になろうのマクロデータについて触れておきたい。なろうの会員数は236万人ほど(執筆時点)。利用者の中には非会員も多く、1ヶ月当たりのPV数は日本トップクラスの20億PVである(2022年8月19日『「なろう系」で有名な日本最大級の小説投稿サイト『小説家になろう』は枚方の会社。中の人にインタビューしてきた』より)。一方毎日新たに投稿される物語は300ほどであり、この数は後発のカクヨムとさほど差はない。つまりこのデータだけを見ると、競合する書き手はそれなりにいるが、圧倒的な読者を抱えているため作品を読んでもらうチャンスに恵まれたサイトと言える。
しかし、現実は甘くない。確かに投稿すればどんな作品も誰かに読んでもらえる。1日のPV10ぐらいなら無理なく達成できる数字だろう。しかし、そこからブックマークをもらって評価ポイントを入れてもらい、ランキングの下位に滑り込ませようとすると途端に苦しくなる。ほとんどの作品はそこまで辿り着けないで終わるのが実情だ。例えば2022年12月17〜23日までの7日間に投稿された作品は2190作であり、そのうちポイントがついた作品は1267作。その前の7日間も2168作中1270作とほぼ変わらない。およそ40%の作品はブクマも評価も貰えないのである。
そしてここからが本題。わざわざ名前を挙げた2作。『泡沫に神は微睡む』『魔女と傭兵』について掘り下げていきたい。
この2作はどちらも、2021年に連載を開始した作品であり、前者はここ1年ほど総合日間ランキングの常連であり、最高順位は17位。11月末にはKADOKAWAからの書籍化が明らかになったばかりである。なろうのイチオシレビューでは、娘にiPhoneを買う交換条件にこの作品を読んで評価するよう迫ったファンの存在が確認されるほど、カルト的な人気を誇っている。
後者は、異世界恋愛ジャンル1強の現環境において総合日間ランキング2位までのぼり、GCノベルズからの書籍化も決まり、さらに『デュラララ‼︎』の成田良悟氏、『シャングリラ・フロンティア』の硬梨菜氏が「面白い!」とTwitterで言及する作品である。
当然これほどの作品であれば、連載開始当初はさぞ順調な滑り出しだっただろうと思いきや、実は全く逆である。
まず、『泡沫に神は微睡む』。連載開始は2021年7月。第一章完結は10月8日。この時点のブクマはなんと驚きの「5」である。2章開始後もその状況は変わらなかった。
しかし、12月中旬に「5ちゃんねる」で本作を薦めた人が居て、そこから火がついて一気に打ち上がり総合ランキング上位まで駆け上がることになった。ランキング外から良作を探しお薦めしてくれる読者のことを「スコッパー」と呼ぶが、本作は名もなき「スコッパー」1人の行動が躍進のキッカケである。
10万字を超えているにも関わらずブクマが1桁の作品まで目を通すスコッパーは希少であると思っているので、この作品がスコップされたことはかなりの幸運だったと言えるだろう。
また、私もたまに新着作品をスコップすることがあるが、ブクマ数件程度の作品はそのあと続かずエタる傾向がある。やはり読者からの反応がもらえない中で、投稿し続けるためのモチベーションを維持するのは難しいのだろう。作者側がブクマ1桁の状態にも関わらずスコッパーが見つけるまでの約半年間、黙々と連載を続けたことも僥倖だった。
なお余談であるが、私がエッセイで紹介してランキングに打ち上がった「とある作品」は、数日紹介が遅れていたら目標としていたブクマ数に届かなかったことを理由に打ち切っていただろうと、作者さんからお礼と共に教えていただいたことがある。このことからも、スコップが間に合わずひっそりと消えていった良作の存在を容易に想像できる。
一方の『魔女と傭兵』はどうか?これもまた2021年6月に連載を開始して以降の1年半年の間、ブクマは先の作品ほどではないにせよ伸び悩んでいる。2021年9月、2022年1月には『5ちゃんねる』でお勧めされた形跡があり、『スコ速』でも2021年1月におすすめされていたものの、散発的にジャンル別日間の下位に食い込むのみであり、2022年1月上旬の頃はブクマ165、7月末の時点のブクマは540であった。
しかし2022年10月15日に『スコ速』の『自分にとってはとても面白いんだけど、数字としての評価がいまいち良くなくて悔しいっていう作品 その15』で取り上げられたことがキッカケとなり、ついに総合日間ランキング上位まで駆け上がったのである。
以上のように、日本屈指のPV数を誇る『小説家になろう』であっても、良作かどうかに拠らず埋もれるときは埋もれることはご理解いただけたであろうか?
では、何故そのような状況になってしまうかというと、結局のところ大半のユーザーはランキングしか見ていないからであろう。これはランキング上位作品のPV数を見れば分かることである。場合によっては、「ランキング外の作品は、つまらないからランキング外なのだ」と誤解している可能性もあるのではないか(私も本サイトに来た当初はそのように思っていた)。
仮にランキングを読む人たちの認識が上記の通りであるなら、どれだけ検索機能を使いやすくしても、導線を改善しても意味が無かろう。
中にはユーザーの行動を変えるのではなく、ランキングのロジックを変えろと言う人も居る。よく見かけるのは、
・書籍化作家の作品は別のランキングで提供すべし
・加点方式ではなく平均点方式にすべし
と言ったところか。
しかし、書籍化作家を分離すると、それを目当てに来る人たちが書籍化作家のみのランキングに定着してしまい、より一層なろうにおけるユーザーの偏りが悪化する可能性もある。後者については、過去に平均点方式を採用していたものの、ユーザー同士の足の引っ張りあいが勃発したため加点方式に切り替わった経緯があり、やはりこちらも改善につながるかは怪しいところだ。
結局のところ埋没を回避するには、ランキングや新着一覧など、作品が露出する場所において如何に他より目立つかの勝負となり、近年悪名と共に話題になっている「あらすじ型長文タイトル」や作品の1日複数回更新といった手法が重宝されるのであろう。当然そういった手法を採用しないオーソドックスな作品は、相対的に「埋もれやすくなる」ため、それが今回のように「良作であっても埋もれてしまう」状況を、より強めているかもしれない。
もし『小説家になろう』に不満を感じているならば、こういった実態を理解した上で、立ち回り方を考え自分の振る舞いから変えていくと良いのではないだろうか。
今年一年もさまざまな良作に出会えました。書き手の皆さんには本当に感謝です。また来年も読み専として、素晴らしい作品と出会えることを期待しています。