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婚約者のために色々としてあげたい

「着いたよドロシー。ここが俺の住んでる家だ」


帝都から離れた村、「モンカ村」の奥にあるこの建物こそ、俺の家だ。元々空き家だったここを譲り受ける形でもらったのでほとんどお金もかからずに手に入れることができた。まぁ、中は結構ボロかったから自分で工房とか作ったりとか色々改修したんだけど。


「い、家……? わ、私は外じゃなくて大丈夫なの……?」


「婚約者を外で過ごさせるわけないだろ。ほら、入って」


「……あ、ありがとう」


 ドロシーは恐る恐る家の中に入る。やっぱり、なかなか奴隷としての感覚が抜けないんだろう。家に入るのですら躊躇している様子を見ていると、どれだけ悲惨な扱いを受けてきたのか想像に難しくない。


「シャワーはあそこにあるから、先に入ってきていいよ。俺、ご飯作ってるから」


「シャワー……いいの? 男の人は……臭いのがいいって……」


「俺はそんな趣味ないから。タオルはこれね、ゆっくりシャワー浴びてきな」


 あの奴隷商人たちわけのわからない趣向をドロシーに教えやがって……。今度会ったら流石に一発は殴らせてもらうか。


 そしてドロシーがシャワーを浴びている間、俺は急いでありあわせのものでご飯を作る。栄養とかも考える必要はあるんだろうけど、今はとにかく美味しいものを食べさせてあげたい。よし、この前取れた芋とか肉とかを使ったシチューを作るか!


「ドロシーは屋敷でいいもの食いまくってるだろうから、満足のいく料理を作らないとな。よし、材料はっと……」


 食材を取り出して早速料理に取り掛かる。そういえば、誰かに自分の料理を振る舞うなんてここに住んでからは初めてだな。あいつが来るときは基本作ってもらうし。そう考えると、なんだか少し緊張する。


「これはこうしてこうっと……ウンウン、いい香りがしてきたな」


 ただ、進めていくと結構うまくいった。シチューのいい香りがするし、味見してみると芋がシチューとうまく絡み合って美味しいし、肉も口の中でとろけるように柔らかくていい感じだ。これならきっと、ドロシーにも喜んでもらえるはず。


「お、ドロシーでた……あ!?」


 足音が聞こえてきたので、ドロシーがシャワーを浴び終わったのかと思って後ろを振り向くと、そこにはタオルも巻かずに裸で歩いていたドロシーの姿が目に映る。


「ななななんで裸なんだよドロシー!?」


「着替えがなかったから……裸でいるべきなのかと思って」


「あ! しまった、着替えを用意してなかったな……ちょっと待っててくれ」


 急いで俺は自分の部屋に服を取りに行って、とりあえずドロシーにそれを着せる。女性ものの服なんて俺は一切持ってないからドロシーにはブカブカだけど、着ないよりはマシだ。明日買いに行かないとな……。


「ごめんな、これしかなくて。明日一緒に服買いに行こう」


「え……わ、私なんかのために服を買ってくれるの……?」


「買うに決まってんだろ! もうドロシーは奴隷じゃなくて俺の婚約者なんだから、そんな自分を卑下しなくていいんだぞ」


「で、でも……」


「ま、とりあえずご飯食べよう。ほら、シチュー作ったから食べてくれ」


 シチューをお皿に入れて、ドロシーが座っているところに置く。でも、ドロシーはきょとんとシチューを見つめて一向に食べる気配がない。


「どうしたんだ? 早く食べな」


「い、いや……こんな美味しそうなシチュー、私が食べていいのかなって……」


 さらっと褒められて俺はつい悶絶しそうになる。ドロシーに美味しそうと言ってもらえただけでも、俺にとってはめちゃくちゃ嬉しかったから。


「もちろん、食べていいさ。ドロシーのために作ったから」


「私のために……?」


「ああ。ほら、食べてくれ」


「……う、うん」


 一口、ドロシーはシチューを食べてくれた。一体どんな反応をするのか、俺はドキドキしながらその様子を見ていたんだが……あ、どんどん食べてくれてる。


「美味しい?」


「……う、うん! 美味しい……美味しいよ……エリック!」


 涙をぽろぽろと流しながら、けれど嬉しそうにドロシーは美味しいと言ってくれた。それを聞いて俺はホッと胸をなでおろす。美味しくないとか言われたらどうしようかと結構心配だったからな。


「どんどん食べてくれ。おかわりはたくさんあるからな」


「……うん!」


 それから、ドロシーは少し多めに作ったシチューをほとんど平らげてしまった。思った通り、奴隷商人がろくな食事を与えていなかったから相当お腹が空いていたんだろう。でも、本当に良かった。ドロシーがかつての明るさを取り戻すのは、まだまだ先かもしれない。でも、そう遠くもなさそうだから。

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