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幼馴染は奴隷思考に染まっていた

「はい、確認できました。いやー3億を払うなんてお兄さんもなかなかやりますねぇ。武器ってそんなに稼げるんですか? 俺もそっち方面のビジネスも展開しようかな? コツとか聞かせてくださいよぉ?」


「金は確認しただろ? ならさっさとドロシーの鎖をとって解放してくれ」


「……けっ、はいはい」


 奴隷オークションで幼馴染のドロシーを3億という大金で入札した俺は、バンクで全財産を引き出してオークションを運営しているやつに渡した。ほんと、綺麗さっぱり金がなくなったな……帰りの馬車台はなんとか払えるけど。


「ほら、外したぞ」


 ドロシーに付けられていた重そうな鎖が外れて、ガシャンと音を立てて落ちる。けれど、ドロシーは喜ぶことは一切せずに、ビクビクと全身を震わせながら顔を覆ってしまった。奴隷として俺と再開してしまったことの絶望もあるだろうし、おそらくここで売られる前からすでに……。


「ああそうそう。一応そいつはまだ処女だから、そこは安心してもらっていい。それ以外はたっぷり俺たちで堪能させてもらったけどな!」


「……あっそ」


 ゲスな笑いをしながら下世話な話をしてくる奴隷商人をあしらって、俺はドロシーを連れて馬車まで向かう。本当は、あいつらのことを全員殺してやりたいと思った。けど、あいつらは帝国のお偉いさんとも繋がりがあるから、俺が手を下せばかなり厄介なことになるのが目に見える。


 そしたらまたドロシーが奴隷として売られてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けたかったから、必死に怒りを我慢してその場を後にした。


「な、なぁドロシー……」


「……」


 その途中、そして馬車の中でドロシーに声をかけても返事は一切帰ってこない。ずっと俺に顔を見られないように顔を隠し続けて、俺を避け続けているようだった。その姿は、かつて俺と一緒に遊んでいたあの頃、ドロシーが自信に溢れていた時とあまりに違う。


「……ご、ごめんなさい……」


「え?」


 ようやくドロシーが喋ってくれたと思ったら、顔を隠しながら謝り始めた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……本当に……ごめんなさい……」


 ガキの頃、一度も謝ったりなんかしなかったドロシーが何度も何度も謝る。吐き出すように何度もごめんなさいと言う彼女の姿はあまりにも悲惨で、俺は言葉を失ってしまう。


「わ、私のせいで……あ、あんな大金払って……わ、私に……三億なんて価値なんか………な、ないのに……」


 かつて「私の価値は世界中の富を集めても足りないのよ!」と豪語していたドロシーの姿は見る影もなく、どこまでも彼女は自分を卑下し続ける。


「だ、だから……せ、せめて……ご、ご奉仕……さ、させてください。い、卑しい私にはそれくらいしかできない……か……ら」


 もう、ドロシーは完全に奴隷思考に染まっていた。ようやく顔を隠すのをやめたのはいいものの、さっきまで顔を隠していた手で俺のズボンを脱がそうとしてくる。馬車の中にも関わらず、平気でそういうことをしようとしてしまうのは、きっと奴隷商人たちに仕込まれてしまったんだろう。……つくづく、もっと早くドロシーのことを助けられなかった自分が憎い。


「やめてくれ、ドロシー」


「だ、大丈夫……わ、私、いっぱいしたことあるから……こ、これだけはじょ、上手だって褒めてもらったから……だ、だから……」


「俺はそんなことして欲しくない」


「で、でも……そ、そしたら私……ど、奴隷なのに……な、何にもエリックにしてあげられない……そ、そんなのだめ……さ、させて。そうしないと私……自分の価値が……見出せないの」


 もう、自分に自信がないと伝えるドロシーはせめてご奉仕だけはさせてと懇願してくる。本当に、変えられてしまったんだな。でも、そんなことで俺はドロシーの価値を感じない。


 悪役令嬢とか言われていたけど、本当は優しいことを俺は知っている。

「あ、エリック怪我してる! 待っててね、今すぐお医者さん呼んでくるから!」


 ドロシーは自分に自信があるけど、それはずっと努力し続けていたからだってことを俺は知っている。

「勉強大変だなぁ……でも、頑張らないとね! そうしないと、エリックと——」


 下町のガキでしかなかった俺にも分け隔てなく遊んでくれた、心の広さも知っている。

「下町育ち? そんなの関係ないわ! 私があなたと遊びたいから遊ぶの!」


 そんないいところがたくさんあるドロシーだから、俺は何としても助けたいと思ったんだ。


 それに、俺たちは約束した。大人になったら、一緒に暮らそうねって。


「なら、一つお願いするよ」


「な、なんでも言って! わ、私、なんでもエリックのいうことを聞くから!」


「俺の、婚約者になってくれ」


「……え?」


 予想外の願いだったのか、ドロシーは口をポカンと開けてしまう。……もしかして、約束を忘れられていたのか? だとしたら、すげー悲しいんだけど……。でも、それでもいいや。これからドロシーの婚約者としてふさわしい存在になれるように頑張ればいいんだから。


「ドロシーは俺の婚約者だから酷いことは一切しない。ドロシーがして欲しくないこともしない。大切な婚約者に傷一つつけたくないからな」


「で、でも……そ、それじゃあ3億円の価値なんて……」


「俺には十分すぎるくらい価値があるんだよ。だから、もう嫌なことを無理やりしようとしないでくれ。ドロシーのこと、絶対俺が守るから」


「…………え、エリック……あ、ありが……とう」


 ぎこちない笑顔だった。きっと、長い間笑っていなかったからだろう。それでも、ドロシーが見せたその笑顔と感謝は、お金では表せないくらいの価値があると思った。

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