本物の傷
殺してくれよ。はやくしてくれよ。いつまで待てばいいんだよ。それが最後の痛みや苦しみなら、愛おしく抱きしめるから。
死ぬのは一回ですむんだ。残りはぜんぶ、ふざけてるから。あとはぜんぶ、ふざけて待ってるから。自分のためにだけ、残酷に笑ってるから。
自分自身に疲れたんだ。生身の体、この生物の心に疲れ切った。自分は自分を使い果たした。
私は修羅にもなれない弱々しい畜生でした。
帰り道でどうもババアを轢いたような気がする。俺の自転車の車輪が歪んでやがる。迷惑な婆だ。今度会ったら耳を切り落としてやろう。
そんなことを呟きながら、コンビニの袋に詰め込んだ弁当やスナック菓子、安物のビールをテーブルに並べた。
蓮は高校を中退して家を出て以来、乞食バイトで今日まで食いつないできた。いつもイライラしていた。明らかに無駄な自分に苛ついて生きてきた。
ゆうに千本を越える両腕のためらい傷は、下手なタトゥーより美しく説得力があった。それを隠そうともせず華は体を売って歩いた。他に売れる物は一切無かった。夜の街だけではない。二十四時間営業だ。お天道様が見ていようが、そんなことどうでもよかった。金を積んでくれるのならお天道様でも私の体に乗せてやるよ。
フリーで稼いでいるからケツ持ちはいない。娑婆の筋も道理も通してはいない。バッグ一杯の札束と体一杯の精液をいつも付けて歩いている。
ただ左手のリストバンドは外さない。その下には「本物の傷」があった。
華が病院にカミソリを持ち込んで、病院から放り出されたとき、家族とは別れた。別れたというより消えたというのが実態に近い。華の家族は煙のように消えたし、家族にとっても華はこの世界から消えた。
(つづく)