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最終的に書きたいものの一部

短編 蟹座・音楽室・戦慄

作者: 間開

蟹座・音楽室・戦慄

を使ってなにか制作します。


ランダムテーマジェネレータ:http://therianthrope.lv9.org/dai_gene/


十万文字書けるまでにどれだけかかるのか分からないけれど、とりあえず継続してみようシリーズ。

 任意の課外授業に参加したいという生徒は居ない。

 それは自由な時間を削がれるだけで、そんな時間があれば遊びたいという年頃の子には無駄なもの。


 しかし私には目的があった。

 掲示板の通達には私の名前だけが書かれており、三日後の参加を希望するのであればマルをつけて下さい、という一風変わったものだったから。見なかったフリも出来るし理由を付けて断ることも出来た。けれどそんな気は無かった。


 恐らくあの晩の事を問い詰めるつもりなのだ。それも一対一の場を設けてまで。連休中の金曜日に忍び込み、楽譜を盗もうとした事。連休明けのコンクールと楽譜、その二つを結びつけるのはいささか乱暴な推理ではあるものの、音楽教師――楽譜の本来あるべき場所を知る人物としては容易に想像出来るというところだろうか。


 わざわざ三日後という制約をつけたのは反省を促すものか、自白しなさいという猶予期間。のこのこ現れるとでも思っているのだろうか……いや、教師としての願いも込められているのかも知れないし、知ったこっちゃない。


 私は踵を返すと次の授業のため足早に立ち去る。その日も次の日も頭の中は課外授業の文字で埋め尽くされていた。



 明日の運勢を占う情報番組では一位となっていたが、そんな物が役に立つのかと呆れながら。なぜ占いなんかに頼るほど追い詰められなきゃならないんだとリモコンをクッションへ放り捨てる。私以外の蟹座の人たち、せいぜい良い一日となりますように。あまり眠る気にならない自分の頭を消灯する。


 放課後、午後4時。指定の時間通り来てやった。

 生徒証をカードリーダーにかざす。高く短いシの音程が、ようやく覚悟を決めたのかと怒鳴りつけているようにさえ聞こえる。ドアを開けると同時に、ピアノ用の椅子に座っていた先生が顔を上げる。


「時間前だけど、始めましょうか。」

 壁の時計を眺めながら、開始を告げられる。

「はい。」


「何故呼ばれたのかは分かっているでしょう」とでも言うように、長机の端の席へと促される。逆らう理由も無視する理由も今は無い、手のひらで示されたその座席へと腰を下ろす。


 ピアノの蓋を開ける重い音、そして演奏が始まった。聞いたことの無い曲だ。


「コンクールの件は残念だったわね。」

「ええ、そうですね」とどこか他人事のように返す。

 楽譜から一切目を上げずに演奏は続けられている。前置きとしてなのか、今日は天気がいいですねと切り出すような口調に、若干の苛立ちを覚える。


 数秒の間がピアノの音と共に流れていく。


「あの局面で緊張するのは仕方ないことだけれど、途中で止めたのはなぜかしら。」

「それは――」

「自分の曲じゃないから。正確には弾きたい曲じゃないし、これで賞を取るべきではないと思ってしまったから。」

 続きを語ろうとするのを邪魔するように、自分の考察を交えて断言するその姿に敵意を感じる。


「だから、この曲を盗もうとしたのよね?」

「――――。」

 言葉が出ない。やはり分かっていたのだ。教師として長い間、他者の音に触れてきたからこそ、この苦悩を知っている。曲を好きになれなければ、良い音を出すことは難しい。人によって様々な考え方があるんだろうけど、私の周りの人間は同じことを言っていた。


 曲調が不穏なものからややゆったりとしたものに変わる。

「知っていたし、咎めるつもりは全く無いの。過ぎてしまった事だしそれだけ真剣に取り組んでいたとも受け止められる、でしょう?」

「……はい。」


 最初に思ったのは「何故?」だった。

 では、なぜここに呼ばれたのか。本当に課外授業をしようとでもいうのか。成績が悪い訳でもないし別のコンクールが近い訳でもない。呼び出すには理由が何かあるはずだ。

 その表情からは、ただ楽譜を音に置き換えているロボットのような冷たさと、続きを黙って聞きなさいと言わんばかりの冷酷さが読み取れる。言い訳をする理由ももはや無くなったため、その旋律を静かに受け止める。


 ささやきかけるような高音の、ゆったりとした曲調へと変わる。

「この曲に惹かれるのも分かります、たとえどんな曲か知らなかったとしても。」

恐らくこちらからの回答は求めていないのだろう、先程から感じていた冷たさはそれに含まれていない。


 ゆっくりと視線を私に向ける。運指は激しさを取り戻す。

 優雅さと洗練された音を求めているのに、なぜ自分の音はこんなにも醜いのか、という葛藤。

「今のあなたなら分かるはずです。さぁ、新しいお友達と自分にご挨拶を。」


 何を言い出しているんだこの女――自分が知っている先生とは違う、先程まで座っていた椅子に別人が座っているような錯覚さえ感じてしまう。視界が歪み、見えるはずの無い自分が見える。頭の中をぐるぐるとかき回されるような感覚と、知り得ない情報の流入。目の前に居るのは誰だ、こんなのは知らないし知りたくもない。ああ、逃げ出したい。どこに逃げ場があるというのか。


「こうなる事を望んでいたのかもしれません。」

 終曲が近いのだろう。いや、近い。聞いたことが無いのに知っている、あと一小節。


 最後の鍵盤が鳴らすドの音が、私の緊張の糸を断ち切った。

他の方の作品をいくつか拝見し、なぜこの人物が動くのか、どう思っているのかという部分に注意して書きました。

しかしまだまだ平坦である印象のままで、お題を無理やり消化してる感もあります。蟹座なんてとってつけたような文。もっとうまくなりたいし、その為の足場としての一段。

これの50倍をポンと書くことは到底今の私には無理ですが、時間を掛けてでもやり遂げてやる。

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