十七死天
死霊の軍勢を滅ぼしていくイヴォル。イヴォルの殺害を命じられている十七死天達は焦りを感じていた。
「どうするのだ、エズ」
紫色のローブを纏った男が、白色のローブを纏った男に聞いた。
「……どうするもこうするも、隙を突いて暗殺する以外には無いよ」
紫の男は老爺と言って良いほどに歳を取った見た目をしているが、その真逆に白いローブの男……エズは少年のように若い見た目をしていた。
「ギオウ、君もそろそろ出た方が良いかもね」
「儂がか? 出たところであの賢者が居る以上、大したことは出来んぞ」
「分かってるよ。でも、どうせ今行かないと全滅するから」
「……それは、そうかも知れんな」
紫の男、ギオウは魔術士である為、圧倒的に実力差のあるイヴォルが居る以上は戦場に出る意味は無いと判断していた。しかし、このまま戦えば十七死天の壊滅が見えている以上、出ない訳にもいかなかった。
「正直、戦力差はかなりある……でも、あの賢者を暗殺するだけなら付け入る隙はある。僕はそう判断した」
「それは、ここで決めるということだな?」
「うん。ジィラに関しては出撃させる許可を貰えたから……七人の十七死天でイヴォルを暗殺する」
「……相分かった。ならば、儂はもう出るとしよう」
暗黒に隠された空間から、ギオウは歩いて出て行った。
「……はぁ」
一人になったエズは、溜息を吐いた。
「七人って、完全におかしいよ。正に捨て駒って感じ」
駆り出された十七死天の中で唯一、エズは冥王の意図に気付いていた。
「戦力の確認は済んだって認識なのかな。ジィラの許可が出たのは、対軍団用でもう要らなそうだからかな……まぁ、盾くらいにはなってくれると良いけど」
さて、とエズは背筋を正した。
『着いたかな? ギオウ、ジィラ』
エズの能力は感覚の共有。十七死天同士の視覚を共有し、意思を念話として繋げることが出来る。要するに、エズの役割は司令塔だ。
『ギオウだ。今は透明化の魔術で潜伏している』
『ジィラだァ。着いたぞォ。相変わらずオメェの念話は気持ち悪ィなァ』
二人の声を聴き、エズは一先ず安堵の声を漏らす。
『賢者は今、固定砲台のような術式を展開している。つまり、隙を晒しているってこと。狙い時は今なんだ』
『じゃァ、いつ突っ込みャ良いんだァ?』
エズは闇に紛れ潜伏している黒いローブの十七死天の視界を通じ、戦況を見る。
『先に作戦を説明するよ。先ず、ギオウとジィラは真逆の位置に居て欲しい。僕が指示したらギオウが魔術でイヴォルを攻撃する。これで護衛とイヴォルの気を引ければ良いけど、多分足りない。だから、続けてジィラが突っ込む。全力で行って良い』
『おォ、良いのかァ!?』
『勿論、構わない。これだけすれば、流石に護衛の気を引ききれる筈。だから、二人が気を引いている間に……残りの全員で仕掛ける。二人以外はイヴォルを全力で狙って欲しい。良い?』
『オッケ~! あのワンちゃんもムカつくけど、賢者を倒してからにしてあげるね~?』
『おれもそれで良いと思うナァ』
皆が了承するのを聞いて、エズは頷く。
『この作戦で肝要なことは一瞬で終わらせること。護衛以外の奴らが助けに来たら、終わりだと思って欲しい。良いね?』
「……行ける。これが最良。流石の賢者も、ただじゃ済まないよ」
エズは目を瞑り、共有された視界に意識を集中させた。
♢
魔転術式場展開によって宙に浮き、魔術を放ち続けるイヴォル。その横で補助するように魔術を放つ青く透き通った骸骨、クレス。その横でゴーレムとアンデッドを量産し続けるアース。彼らを守るように立つネロ、ロア、レタム、アスコル、ボルドロ。
『作戦開始だ、ギオウ』
『相分かった』
闇にはためく紫のローブ。ギオウが杖を掲げ、言葉を紡ぐと、空に大きな魔法陣が浮かんだ。
「『墜ちろ、紫天星隕』」
巨大な魔法陣から、巨大な隕石が落ちてくる。紫の炎を帯びるそれは、真っ直ぐにイヴォルへと落ちていく。
「まだまだ行くぞ、賢者」
更に展開される魔法陣。透明化を解いたギオウは次々に魔術を放っていく。
『ジィラ、出番だ』
「りょォォかいィィィィッッ!!!!」
迫る軍勢の中から突出する膨れ上がる肉体。ビリビリと継ぎ接ぎのローブが破れ散る。巨人と言うに相応しい大きさになったジィラは猛スピードでイヴォルへと突進する。
「……あれは、十七死天か」
「グォオオオオオオオオッッ!!!」
呟くイヴォル。その横を飛び出していったのはロアだ。
『ッ、今しかないッ! 全員行けッ!!』
賢者に向けて飛び出した黒色、桃色、青緑色、橙色。
「はははっ、闇そのものである僕を捉えられるかなッ!?」
「どうも~、またまた登場! ラミスちゃんでーす!」
「……次元の刃を喰らえ」
「さぁさ、虹の賢者! 爆ぜてもらおうかナァ?」
飛び出した四人。その横でジィラの首が大斧に刎ねられた。





