立ち向かうなかれ、戦うなかれ。
すみません、また遅れました。
♦︎……ニラヴル視点
来た来た来た! 遂に来たぜ、この展開が!
「見渡す限り敵、敵、敵……ハハッ、好き放題斬りまくれるってこった」
ゴブリンばっかだが、中には歯応えがありそうな奴もちらほら見える。結構、期待できそうだぜ。
「行くぜオイ……自己強化。餓狼の雄叫び。重剣化」
俺から血のように赤い凶悪そうなオーラが立ち昇り、二本の大剣が青黒い光を放つ。
「ハハッ、ハハハハッ! 脆い、脆いなぁ、テメェらァ!!」
ぶっ飛ばす、ぶっ壊す。俺の二本の大剣が、振るわれる度にゴブリン達を蹴散らしていく。
「おっと、テメェは中々強そうじゃねえかッ! 勝負しようぜぇッ!!」
薙ぎ倒しながら進んでいく俺の目に留まったのは、大きめの猿だった。
「……ウキ?」
一直線に向かってくる俺を見て、猿は首を傾げた。つーか、こいつどっかで見たことあるな。
「破城大剣撃ッ!!」
「ウキィッ!?」
振り下ろされる大剣の速度に驚きながらも、猿は自分の足元に爆発を起こし、その反動で回避した。
「あぁ、思い出したぜ。お前、炎熱樹林のボスか。爆猿王だったか? ……おー、やっぱりテイムされてんなぁ。つーことは、テメェも特殊な力を持ってんだろ? なぁッ!!」
ギンキィ・クノム。名前付きの魔物だが、こいつはれっきとしたエリアボスだ。いや。だったはずだ。今はもう、ネクロの野郎の支配下に堕ちちまってる。
「……ウキィ」
爆猿王は、静かに息を吐くと、体の毛を数本引きちぎった。
「あ? テメェ、何を……はぁッ!?」
引き抜いた毛を爆猿王がパラパラと散らすと……地に落ちた毛たちは姿を変え、爆猿王となった。
「なんだこれ……爆猿王が、十体?」
知らねぇ、知らねえぞこんなスキル。俺が困惑している間にも、猿たちは散らばっていく。
「い、いや……関係ねぇ。俺ならやれる筈だ」
十体に分かれる分身なんて、どうせハリボテのはずだ。本体だけ、本体だけ見極めれば……クソ、もう分かんねぇ!
「ウキィッ!」
「あっぶねぇッ!?」
俺の背後から飛んできた猿が、爆発の力を込めた拳を振り下ろした。ギリギリで回避が間に合い、猿の拳は地面を爆発させた。
「爆発が使える……ってことは、テメェが本体だなッ!」
「ウキィ!?」
小跳躍、瞬歩! よし、これで距離は詰められた!
「喰らえクソ猿ッ! 双極大破ッ!!」
クロスするように振り上げた二本の大剣を、目の前まで迫った猿に思い切り振り下ろす。
「ウッキィイイイイイッッ!!!」
「何ッ!?」
瞬間、目の前の猿が逆に俺の方に飛び込んで……黒い波動を放つ二本の大剣にぐちゃぐちゃにされッ!?
「ぐはぁッ!? なんだ、今の……」
大剣と猿が交わる瞬間、爆猿王の体が膨張し、凄まじい爆発を起こした。自爆、というやつだろうか。
お陰で、数メートル離れた木まで飛ばされてしまった。
「あー、クソ。HPがやべ、ぇ……?」
ポーションを取り出し、顔を上げたそこには……余裕そうな顔でこちらを見る、九体の爆猿王の姿があった。
「「「「「ウキィッ!」」」」」
散開。固まっていた猿たちが、一斉に散らばる。
「分かんねぇ。クソ、どういうことだ? 本体は、どれだ?」
HPは残り三割、状況は圧倒的不利。
「どこだ……畜生ッ、どこから来るッ!」
周りをぐるぐると回りながら警戒する。木の上、ゴブリンどもの背後、木の後ろ……どれだ、どれが攻撃を仕掛けてくる。
「クソ、こっちからは動けねぇ……いや、待てよ」
こっちから動けないのは当然だ。下手に動けば死ぬからだ。だが、向こうが仕掛けてこないのは、何故だ?
「……ッ! クソ、そういうことかッ!」
孤立している、囲まれている。最初のアイツの自爆で味方と引き離されて、この僅かな時間で包囲された。
「腐れゴブリンどもに、クソ猿。完全に包囲は完了した……ってことは、来るッ!」
後ろだ。気配が近付いたのを察して横に回避。すると、さっきまで俺がいた場所を長剣を持ったゴブリンが通り過ぎた。
避けられたことで体勢を崩しているようだが、その隙を突く暇は残念ながら無い。
「ウキィィィィイイイッッ!!」
上だ。上から手を赤く輝かせた猿が落ちてくる。避ける以外に道は無い。
「瞬歩ッ!」
スキルを使い、すんでのところで回避する。さっきまでいた場所が爆発しているのを尻目に、俺は踵を返した。一秒の迷いも今は捨てなければならない。
「小跳躍ッ!」
完璧だ。奴らの連携の一瞬の隙を突いて、逃げ出せ……ッ!? なんだこれッ、体が重いッ!
「象でも乗ってんのかってくらい、体が……重いッ!」
突然体にかかった謎の負荷で、俺の体は地面に叩きつけられた。
「や、めろ……クソ、おい、近付くなッ」
憎たらしい顔でゆっくりと近付いてくる猿たち。
「ウキッ、ウキウキッ」
先頭の猿が手を軽く上に上げる。すると、その手が紫色の光に包まれる。
「ウキィ!」
上げていた手を、猿が下げた。すると、俺の体がより深く地面に押さえつけられる。
「ぐうッ! 更に、重く……まさかッ!」
この重力も、この猿の仕業かッ!
「クソ、だったらなんで、最初から使わなかった……?」
ゆっくりと近付いてくる猿がその手で俺の頭を掴んだ。
「ウキッ、ウキウキウキィィィィイイイッッ!!」
「ぐぁッ!?」
頭を少し持ち上げて、地面に叩きつける。
「ぐッ、うッ、やッ、てめッ」
頭を持ち上げ、叩きつける。持ち上げ、叩きつける。持ち上げ、叩きつける。
「ウキィ! ウキッ、ウキキキッ!」
嗤う猿。意味のない暴力の連打で徐々に減って行くHP。そこで、ようやく俺は理解した。
「なる、ほど……な。遊んでんの、か。テメェ、ら」
爆猿は、そもそもマウントを取るのが大好きな奴らだったはずだ。だから、この無意味な行為も、きっと示威の一種だ。
「あぁ……コレも、そうか」
体にかかっているこの大きな負荷。まるで重力を数倍にしたかのような圧力。きっと、これを最初から使わなかったのは深い理由があった訳じゃない。
「舐めプ、か……ぐッ、魔物の癖に……ガハッ……」
ただ、アイツは遊んでただけだ。この重圧を使えば直ぐに終わるから、そうならないように手を抜いていただけだ。
「……あぁ、やっと、終わりか?」
少し軽くなった負荷に、顔を少し上げる。すると、退屈そうな表情で拳に爆破の力を宿らせる猿の王が見えた。
「あぁ、クソ……こんな奴らと、戦わなきゃ良かったぜ」
迫る拳。爆破を司る赤い光が視界を照らした。
レビューがひっさしぶりに付きました。レビューというのは中々に付かないものなので、いと嬉しく存じます。お礼に、投稿頑張りたいです。
うどん さん、レビューを書いて頂きありがとうございます!





