竜の本気
竜の懐まで潜り込み、何発もの鉤爪を喰らわせることに成功したエクスだったが、それによって付けられた決して浅くない傷は既に回復し、その攻撃に伴って竜を蝕んでいた氷と炎もその勢いを弱めていた。
「クッソ、オレの攻撃は無駄だったってワケかよ」
吐き捨てるように言ったエクス。すると、僕の影から執事服の男が現れた。
「いえいえ、氷狼族……いや、珠狼族の英雄よ。貴方の与えた傷は無駄ではありませんよ? 竜が回復の為に使用したのも竜気、貴方の氷と炎を弱めるために使用したのも竜気。そして、竜気というのは単なるエネルギーの一種であり、無限に湧いてくるような代物ではありません」
クフフ、と悪魔が笑った。
「竜気を消費させ続ければいつかは回復も自己強化も限界が来る。竜気を消費させるという行為は、一切無駄では無いんですよ。それにほら、そもそも貴方の氷と炎は消せてすらいませんよ? クフフ、全く貴方はどれだけ厄介な力を持っているんですかねぇ?」
笑う悪魔に共鳴して、人狼も笑みを浮かべた。
「なるほどなァ……オレの鉤爪は、オレたちが受け継いできた力は、無駄じゃねェ。それどころか、竜にすら通用するってことかァ」
自身の鉤爪を見つめて笑う人狼。
「ハハハッ、ありがとなぁ。ヒツジ野郎。元気出たぜ?」
「いえいえ、構いませんよ。ですが、ヒツジではなく執事です。まぁ、悪魔といえば山羊ですから多少は惜しいかも知れませんねぇ? クフフフ」
よく分からないツボで笑う悪魔を見て、人狼が思い出したように口を開いた。
「つーか、ヒツジ野郎。なんで珠狼族を知ってんだ?」
「クフフフ、簡単ですよ。私は悪魔ですから、長生きなんですよ」
ピタッ、と人狼は固まった。
「ハッ、ハァッ!? テメェ、悪魔なのかッ!? おいネクロッ、この悪魔とどんな契約したんだッ!? 魂取られちまうぞッ!」
「んー? どんな契約って……死を強制するのは禁止とか、そんな感じ?」
「ハァッ!? なんかッ、軽すぎんだろッ! お前ッ、魂取られちまうぞッ!」
二回も言うじゃん。魂取られちまうぞ、って二回も言うじゃん。
「取られないよ。そういう契約じゃないから。ていうか……そろそろ、前線厳しそうだから行ってあげてくれない? あ、ネルクスは僕の護衛ね」
「あァ、そうだなッ! じゃッ、行ってくるぜッ!」
そう、既に竜は暴れ始めている。エクスによる氷炎は未だに消えておらず竜を蝕んでいるが、それを無視して竜は戦闘を開始していた。
前線はエトナやメト、ロアにグランなど耐久力や回避性能が高い子たちが請け負っており、彼らがやられる心配は今のところなさそうだが、彼らを支援するゴブリンゾンビやウィスプ達は流れ弾のブレスや広範囲の鉤爪攻撃、尻尾攻撃に巻き込まれて数を減らし始めている。
『ぬぅッ! 邪魔だッ、邪魔だと言っておろうが屑共めッ! このッ、ゴブリン風情がッ! 死に損ない共がッ!!』
バフやデバフ、回復や有効な攻撃手段を持たない者たちは、割り切って竜の体に張り付き、無理矢理刃を突き立てているようだった。
と言っても、近距離戦に特化した構築にしている子たちは剣術などのスキルレベルが十に到達しており、上位スキルを持っているので、スキルを使用すれば竜気を纏う竜の鱗と言えど少しの傷を付けるのはそう難しいことではない。
『クソッ、鬱陶しいぞッ!!』
そして、幾ら浅くても傷は傷だ。竜気による回復はこの乱戦ということもあり常に発動しているようで、浅い傷でも自然治癒力に任せずに回復してしまう。
つまり、浅い傷でも竜気を多少なりとも削ることが可能ということだ。
「カタカタ」
「クゥ」
クレスが杖を掲げると氷の騎士や氷で武装したフロストスケルトン、そして氷で創られた蛇や狼などの魔物達が無数に出現し、アースが鳴くと地面から無数のゴーレム達が出現し始めた。それは一般的な人型だけでなく、小型の竜のような見た目のものや、腕が六本もあるものなども含まれている。
「ブモォオオッ!! ブモォオオオオオオオッ!!」
『ッ!! 豚がッ!!!』
召喚によって戦力を供給し続ける二体のアンデッドを尻目に、ドゥールは竜に真正面から立ち向かう。彼は仲間が竜の攻撃を受け切れない時、その攻撃から仲間を庇うと言った立ち回りを続けていた。
「ブモォオオオオオオオッッ!!!」
『耳元で煩いぞ貴様ッ!!! いい加減に死ねッ!!!』
竜の鉤爪を受け、牙に噛まれ、尻尾に弾き飛ばされ、ボロボロになりながらも立ち上がり、また棍棒を振るうドゥール。
しかし、HPを全回復できる再起する闇の効果は既に発動しており、再発動には暫くの時間がかかる。ただ、竜の攻撃を耐受強身で受けていることもあり、ステータスが凄まじい速度で強化されているのでなんとか耐えられているようだ。
「グォオオオオオッ!!」
「グオオオッ!!」
と、ドゥールを殺すことに躍起になっている竜にオーガの大斧と巨人の結晶拳が襲う。
『ぐぬぅッ!? い、痛ッ……貴様らァ!!!』
圧倒的な力と質量の一撃が竜を地面に叩きつける。竜は悲鳴をあげるが、巨人は気にもせずに竜の背に馬乗りになった。
「グオオオオオオッ!!」
『なッ、やめろッ!! 貴様ッ、我は誇り高き赤竜ぞッ!!!』
じたばたと暴れ、爪を突き立てて何度も引っ掻くが、結晶化したグランの防御力と再生能力を突破することは出来ない。
寧ろ、その隙に他の魔物からボコボコに袋叩きにされている。
『ガァアアアアアアッ!! 貴様ァアアアアアアッ!!!』
「グオオオオオオオオオオッ!!!」
抑え込む巨人、暴れる竜。他の従魔の協力もあり、地面に固定される竜だったが、炎のブレスを吐き出すことで巨人を吹き飛ばした。
『ハァ、ハァ……貴様らァ……クソッ』
穴の空いた翼、欠けた角、纏わりつく炎と氷、少しずつ再生してはいるが満身創痍の赤竜は、よろよろと後退する。
『覚えておけッ、屑共……ッ!』
ボロボロになった赤い翼を広げ、赤竜はぶわりと浮き上がった。
陽性でした!!!!! でも熱はもう殆ど下がりました!!!
遅れましてすみません、皆さんご心配おかけしました。





