山の頂
さて、一旦話は纏まった感じになったが、僕のせいでここをグチャグチャにされるのは流石に可哀想なので、ここにも従魔を配置することに決めた。
「まぁ、流石に申し訳無いからここも守らせるよ」
僕が言うと、泉の精霊は首を傾げた。
「守らせるとは、誰に守らせるのですか?」
「あれ、言ってなかったっけ? 僕は魔物使いだからね。沢山の仲間が居るんだよ」
僕が言うと、精霊は僕を守るように佇むロアやアースを見て納得したように頷いた。
「なるほど、そういうことですか。分かりました。しかし、一つ聞いても良いですか?」
精霊の問いに僕は頷いた。
「何故、貴方は命を狙われているのですか?」
「んー、暇だからじゃない?」
精霊は固まった。
「……暇、ですか?」
「うん。僕を襲ってくる敵っていうのが、実は次元の旅人なんだ。それで、彼らは、まぁ……次元の旅人を殺す専門っていうか……うん、それが趣味の人達なんだよ。で、僕はそれに何となくで狙われてるって感じだね」
僕が言うと、精霊は顔を顰めた。
「つまり、同族を殺すことを生き甲斐にしている人……ということですか?」
「まぁ、そうだね」
残念なことに、PKとはそういうものだ。
「私には少し理解し難い感性ですが……まぁ、分かりました」
ふんふんと泉の精霊は頷いた。
「なるほど。でしたら、私も協力して差し上げましょう。話を聞く限り、理不尽に襲われているようですから。……とはいえ、守るのはこの泉周辺だけですが動きませんよ?」
「いやいや、それで十分だよ。ここを通る敵は必ず死ぬって考えて良いんだよね?」
僕の挑発的な問いに、精霊は微笑んで頷いた。
「勿論です。期待しておいて下さいね?」
「うん、存分に期待しとく。お礼に今後もここの泉を守るよ」
「ふふ、それはありがたいですね」
さて、今度こそ話が纏まった。
「じゃあ、後でまた来るからその時はよろしくね」
精霊はコクリと頷いた。
♢
あれから十数分、僕らはこの島の脅威を跳ね除けながら山を登っていた。そして、目標としている山頂まではあと僅かというところまで来ている。
ここら辺まで来ると、木々というのは殆どなく、平ための岩場のようになっている。
「……ネクロさん。さっきから一切触れませんけど、そろそろ現実を直視するべきだと思いますよ」
エトナが目を細めて僕を見た。彼女の言葉が示さんとしていることは、この距離まで来れば嫌でも分かる。
「マスター、そろそろ対処を考えるべきです」
メトが真剣な目で僕を見た。彼女の言葉が示さんとしていることは、もう既に気付いている。
「……分かったよ。でも、対処って言ってもなぁ」
僕は、そこで漸く山頂を……いや、山頂に佇むその魔物を直視した。
「────だってあれ、ドラゴンじゃん」
それは全生物の頂点とも言われる魔物、ドラゴンだった。
「飛ばれたら対処のしようもないし、寧ろ向こうの攻撃をこの落ちたら即死みたいな場所で避け続けられる気がしないんだけど」
僕の視線の先に居る者。それは、真紅の鱗を持つ立派な竜だった。幸い、今は僕らが居る場所の反対を向いているので気付かれてはいないようだが、レッドドラゴンなどと呼ばれる最もポピュラーな種類のこの竜は、その知名度に相応しい強さを持っている。
赤い鱗は強靭で、物理面だけでなくほぼ全ての属性に強い。この鱗の前にはどんな剣も魔術も意味を成さない。
白い爪牙は鋭利で、物理防御も魔法防御も突破する。この爪牙の前にはどんな盾も鎧も、なにも意味を成さない。
なんて、そんな感じの文句も有るくらいには強力な魔物と言う訳だ。流石にどんな剣も盾も無意味なんてのは言い過ぎだが、実際に高水準の多属性耐性を持っており、特有の魔力を纏った爪牙は物理防御も魔法防御も突破する。
「……うん、どう考えてもキツイよ。何より、空を飛ばれるのが面倒すぎる」
空中の相手に対する追撃の手段が殆ど無い僕らは、竜に飛ばれれば終わりだ。
「しかし、この山頂は丁度良く開けていて拠点にもしやすく、防衛面でも有利です。ここを拠点に出来れば、多くの問題が解決するかと」
「いや、それは分かってるんだけどさ。あれ、ドラゴンだよ? しかも、明らかにこの山頂をねぐらにしてる感じだよ?」
僕が言うと、メトは自信ありげに首を振った。
「いいえ。確かにこの山頂はあの竜の拠点の一部かも知れませんが、ねぐらと言える部分は恐らく地下でしょう。竜種の多くは寝床として洞窟などを好みますので」
「うん」
「なので、睡眠の際には地下に潜っていくはずです。そこを狙いましょう」
「あー、夜まで待つってこと?」
なるほどね。確かに、寝込みを襲えば先制攻撃を仕掛けられるし、狭い洞窟の中だから飛ばれて逃げられる心配も無い。
「却下かな」
「何故ですか?」
即座に聞き返してくるメトに僕は苦笑しながらも、答える。
「単純に、夜まで待つって退屈だからね。しょうがないから……ここは、ゴリ押しちゃおうかな」
あの竜を突破するのが難しいというのは、飽くまで今この場にいる戦力での話だ。
「従魔空間」
突如溢れた気配に、反対側を向いていた竜が振り返った。
すみません、また遅れました。お詫びに明日も投稿します。恐らく。多分。





