※アボン荒野の三銃士【3】
取り敢えず、やるべきことは観察だ。相手の弱点を、隙を、見つける必要がある。と、考えていると鵐螺菩が話し出した。
「堕苦蘇、狭鬼爐。恐らくだが、さっきの重圧は重力魔術だ。話に聞いただけだが、あれはかなり魔力を消費するらしい。それと、奴はそれを自分の飛行にも応用しているかも知れない……となれば、魔力的に見ればあの重圧を何度もつかうことは出来ないはずだ」
重力魔術。確かに、聞いたことがある。大蠍が地中に潜っていくのを睨みながら、思い出す。
「……なら、さっきの狭鬼爐を狙った突撃も、絶対に仕留めるつもりでやってたってことか」
俺たち三人を全員重力で止めてまで突撃したというのに、まだ三人とも生きている状況はアイツらからしたら、面白くない状況だろう。
「そうだな、三人を同時に止めていたからな。魔力はそこそこ消費している筈だ。少なくとも、さっきの様なものを連発することは出来ないだろう」
「……あの結晶も、多くの魔力を消費すると聞く」
結晶。禿鷲の頭部が変化したり、大蠍の全身が変化したり、厄介すぎる力だったが……そうか。となると、少しは状況がマシになったと考えるべきか。
「……堕苦蘇、後ろだ」
「撃つぞ」
思考の海に沈みかけていた途中、狭鬼爐の言葉に慌てて振り返ると、そこにはひょっこりと地面から大蚯蚓が顔を出し、その上に直径三メートルくらいの大きな水の球……水球が浮かんでいるのが見えた。
と同時に、鵐螺菩の短銃から放たれた弾丸が地中に引っ込みかけた大蚯蚓の体を貫いた。しかし、殺せてはいないようだ。
「水球?」
あの大きさの水球を今から避けるのは難しい。スキルを使えばいけるかも知れないが、この程度の殺傷力の低い魔術を食らったところで、問題は特に無い。
「守りの剣」
大剣を斜めに構え、盾を使うものと比べて性能の低い防御スキルを使う。すると、俺の大剣は少しだけ土気色の光を放った。
まぁ、あれに対してパリィは出来ないので、これが最適解だろう。
バシャッ。直径三メートルくらいの水球が直撃し、俺の全身に水がかかった。
「ッ!? な、何だこれ……体、が」
溶けてる? これ、溶けてるのか!?
「毒か? いや、でも俺の装備には毒も麻痺も防げる効果がある。……クソ、分かんねぇ」
分かることは、俺の体が、溶けているということだ。幸いにも、装備は溶けていないが。
「堕苦蘇。恐らくだが、それは溶解液だ。大蚯蚓は溶解液を出せるからな。そして、溶解液に状態異常としての性質は無い。つまり、状態異常を防ぐ装備も意味を成さない」
鵐螺菩が冷静に解説した。
「……クソ、してやられたな」
あぁ、そういうことかよ。完全に、ただの水球だと思っていた。だが、あれにはあのクソミミズの溶解液が大量に混ざっていたってことだろう。
しかも、色が普通の水球のままだったということは、溶解液は透明だ。普通は黄色いはずのアレが透明ということは、スキルレベルもそこそこ高いってことだ。
「魔物の癖に、随分頭を使うじゃねぇか……」
と、そろそろ体が溶けるのは終わった。とはいえ、既に俺の体は半分くらいグチャグチャになってしまっているのだが。
「……動きづらいな」
体に、凄まじい違和感がある。恐らく、痛覚設定をオンにすれば地獄の苦しみを味わえるのだろう。そう思いながら少し鎧の中を覗くと、腹部辺りに白い物が見えた。
「骨、見えてんだが」
ステータスを見れば、HPは半分ほど削られている。まぁ、あれだけの溶解液をモロに浴びてこれだけで済んだことに感謝すべきだろう。
「……堕苦蘇、後ろだ」
振り返る。岩禿鷲。
「キェェェェッ!!」
「ッ!? パリィッ!」
「貫きの弾」
ギリギリで突撃を弾いた直後、体勢を崩しながらも大空に舞いもどろうとする禿鷲。突撃が終わったからか、頭部の結晶化は解かれている。……そこに、鵐螺菩がスキルを乗せた弾丸を放った。
「キェェッ!?」
「無心流・一文字」
鵐螺菩の弾丸が、結晶化が解除された直後の禿鷲の頭を貫く。思わず体勢を崩して落ちてきた禿鷲に狭鬼爐が斬りかかろうとする。
「ィィィィッ!!」
「キシキシ」
が、狭鬼爐の影から無数に生え出る闇の腕に掴まれて斬撃を阻止されてしまう。続けて、背後の地面から飛び出した結晶化した大蠍が鋏を振り上げる。
「破城大剣撃ッ!!」
しかし、大蠍が鋏を振り下ろすよりも早く、俺の大剣が奴の鋏をかち上げた。
「血の狩り」
そして、その横をすり抜けていった鵐螺菩のノコギリ鉈が、飛び上がった瞬間の岩禿鷲の翼を切り落とした。





