竜の褒美、黒き腕。
現在、僕らはメフィラが巣としていると言う山の奥深くに居た。メフィラが持つ限定的な転移能力でやってきたのだ。
「まさか、コシュ剣山の奥に竜の巣があるとはね」
「意外か? まぁ、敢えて人を避けた場所に作ったからな」
だだっ広い洞穴の中、人の姿をしたメフィラは言った。
「さて……詫びと褒美だ。宝物庫の中から好きなものを二つまで持っていくと良い」
メフィラは言いながら、洞穴の奥にある土の壁に手を触れた。すると、壁はサラサラと消滅し、山のように積み上げられた金銀財宝が現れた。
「単なる宝石もあれば魔道具もあるね。僕は実用的なのを貰おうかな」
煌びやかな宝石、見た目だけの剣や鎧、これは僕にとって無用の代物だ。何故なら、僕は優勝賞金で財布がパンパンだから。
「んー……エトナ、どれが良いかな」
「え、私ですか? そうですね……やっぱり、剣とか鎧よりは装飾品系の方がいいと思いますよ」
なるほど、装飾品ね。確かにそれなら誰でも使えるね。
「メトはどう思う?」
「誰に装備させるかを考えて選べば良いかと」
なるほど、ロアなら斧、エトナなら短剣、メトなら籠手って感じかな。
「うーん、まぁ二つも貰えるなら割と気軽に選んで良いかな」
僕は宝の山を物色し、解析で一つずつ見ていく。
「斬れ味抜群の剣……魔術無効の盾……ダメージ三割カットの鎧……猛毒と麻痺の短剣……」
どれも十分に優れているが、なんだかパッとしない。なんて考えていた時、僕はあるものを見つけた。
「鍾鋼の腕輪」
僕は宝の山に埋まっていた黒い腕輪を拾い上げる。腕輪には鈍い鋼色の金属が走り、腕輪を一周するように茨が象られている。
「……これ、良いかも」
僕は解析で現れた表示を見ながら呟く。
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『鍾鋼の腕輪』《特異級《Unique》
【VIT+50-MND+50】
黒炉金で作られた腕輪。線のように腕輪の表面を走る灰鋼によって茨の模様が描かれている。
半径十五メートル以内の金属を、腕輪を装備している方の腕に引き寄せ、吸収することが出来る。これによって吸収した金属は戻すことが出来ない。更に、魔力を流すことによって装備している方の腕を鋼のように硬質化させ、鉛のように重くする。魔力を流している間、その腕は金属質な黒色に変化する。
また、腕の硬度と重量は取り込んだ金属の量と質によって変動するが、引き寄せられる金属は他人の魔力の支配下に無いものに限る。
[頑丈のルーン:SLv.3、鍾鋼]
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要するに、他人が装備している武具等を除く金属を自分の腕に引き寄せて吸収し、魔力を流している間は吸収した分だけ片腕の硬度と重量を上昇させることが出来るというものだ。
ついでに、硬質化中は腕が黒くなって格好いいというメリットもある。
「じゃあ、メフィラさん。これ貰っていい?」
「ん? それか? まぁ、構わんが思っているほど実用的では無いと思うぞ。他人の武器を奪ったり出来る訳ではないからな」
確かに、普通ならそこまで強くは無い。自分の武器や防具に魔力を流すというのは、超初心者以外は皆やっている常識だ。チュートリアルでも紹介されるらしい。
魔力を流すことで敵の能力の影響を受けにくくなり、錆びたり耐久力が落ちるのをある程度防ぎ、自分の魔力と共鳴することで手から滑って落としたりすることも減り、武器の間合いや扱い方を感覚として理解しやすくなるからである。
「普通はそうだろうね。でも、僕はこれを実用的に使える子を知ってるんだ」
僕は振り向き、腕輪をメトに渡す。そう、メトならこれを十分に扱えるはずだ。メトは特殊スキルで土や石などの大地としての性質を持つものを好きなように操作し、変質させることが出来る。
つまり、そこら辺の地面を簡単に金属に変えたり出来るということだ。
「はい、あげる。遅くなっちゃったけど、約束したからね」
そう、僕は前に胡散臭い店でエトナに指輪を買い与えたことがあった。その時に、次はメトにもプレゼントすると約束したのだ。
「……良いのですか?」
「勿論だよ。ほら、着けてみて。君なら十分に使えるはずだから」
お世辞にも可愛らしいとは言えない腕輪だが、メトは珍しく嬉しそうに口角を上げてそれを付けた。
「……ありがとうございます、マスター。これからも、役に立ちます」
語彙力が微妙に低下した様子のメトは、照れたように顔を背けた。
「あれれ、メトさん。もしかして照れてますか? メトさ〜ん?」
エトナが楽しそうにメトの表情を覗き見ようとするが、メトはまたプイッと顔を背けた。
「エトナ、小学生みたいなことしないでね。メト、ちょっと使ってみてくれる?」
「……了解しました。マスター」
メトがエトナの腕を擦り抜けて洞穴の中心辺りに立つと、一瞬で土の地面を鉄っぽい色の金属に変換した。
「行きます」
メトの腕輪が鈍い光を放つ。すると、金属と化した地面がメトの能力で液状に変化し、腕にズブズブと取り込まれていく。
「鍾鋼」
全ての金属を取り込み終えたメトが能力を発動すると、メトの腕は一瞬で黒い金属のような腕に変化した。代わりに、洞穴の地面にはお椀状のクレーターが出来ている。
「……かなり重量があります」
メトは眉を顰めてそう言いながら、壁に近付き、土の壁を金属に変化させ、腰を落として拳を構えた。
「ハッ!!」
黒光りする硬質化した拳が、金属と化した壁に直撃し、広い洞穴の中に轟音が鳴り響く。
「……やばいね」
「……やばいですね」
「……ほう」
結果、三メートル四方はあった金属の壁は、ただの拳によっていとも容易く粉砕された。幸い、金属の部分と土の部分が分かれていたので衝撃が洞穴中に広がることはなく、被害は金属部分だけで抑えられた。
「技でも無い、ただの正拳突きでしたが……想定以上の威力です」
メトは黒く変質した自分の腕を眺めながら言った。
「重量はかなりあるので、あまり無理をして吸収しすぎると危険があるかも知れませんが、気を付けて使えば非常に有用な能力ではないでしょうか」
まぁ、幾ら重いと言っても、メトのSTRは軽く400を超えている。今のメトの腕がどの程度の重量かは分からないが、恐らく重くて動けなくなるような心配はしなくて良いだろう。
「それは良かったよ。……じゃあ、二つ目だね」
そう言ってから、僕は考えるように目を瞑った。





