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最終夜~真夏の夜の夢

ひとまず、夏祭り話はこれでおしまいです。過去話と後日談に続きます。



※凌司視点です。


 こんなにも、お前のことが好きなんだって――この4年で散々思い知らされたんだ。




 高校を卒業する頃、カンナの兄と名乗る男が、わざわざ会いに来た。

 澪音(レオン)という名のソイツは、ニコニコと胡散臭い笑顔を振りまき、突然俺に、死んでくれない? と抑揚のない声で言い放ちやがったのだ。さすがの俺も、言葉を返すのも忘れ、呆気に取られてしまったが――当然の反応だと思わないか?



『キミ、ウチの愚妹と付き合ってるんでしょ? 悪いけど、ウチって特殊な掟クサいモノがあってさぁ。カンナは隠してると思うけど、結構ヤバい家業やってんだよね。オヤジなんか、国際的に命狙われることもあるくらい、裏社会の有名人だったりもするワケ。俺もカンナも、卒業後はそのオヤジの片腕になるべく、今まで修行とかやってたんだしさぁ……キミ、ぶっちゃけジャマなんだよね』


 こちらの返答など聞くつもりもないらしく、ヤツはベラベラとお家事情ってのを暴露するだけしまくった。そこで漸く、それまでの数日間のカンナの挙動不審さに気づいてしまった訳だ。


『何やら言いたそうにしてたのはそのことだったんですかね』

『へぇー。キミに暴露するってことは、死んでくれ、と同義なんだけどね。カンナもキミに死んで欲しかったんじゃない?』

『何、嬉しそうに言ってんですか。――アメリカ(あっち)に帰るのは聞いてて、遠距離になっちまうって話もしてましたが。本当のことを話したら、俺を巻き込んじまう。それがイヤで悩んでたんじゃないかと思いますが?』


 そんな掟がなんだってんだ。――正直、その時はただのシスコンの戯言だと本気にせず。隠された殺気にも気づかずに、ダラダラ気楽に構えてしまったのだ。

 次の瞬間繰り出された、背後の壁を崩落させる程の渾身の拳を辛うじて避けるまでは。


『あっれー? おっかしいなぁ? 一発で仕留める予定だったのに。一応、剣道日本一ってのはマジみたいだね、瞬速のプリンスって呼ばれてるらしいじゃん?』


 本気で殺られるところだった――背筋を流れていく嫌な汗を感じ、そこで今度こそ澪音の話を真剣に聴こうという気にさせられた。


 幼少期から剣道を始めて、10余年。同年代には敵なしだった俺が、初めて敗北の二文字が見えた瞬間だった――。





※栞菜視点に戻ります。


「え、ちょっ、何なのよ、ソレ!? じゃあ、凌司はウチの事情も知ってたってこと?」

「条件出されたんだよ、澪音に。……ってか、実際はお前のオヤジさんかららしいな。しっかり俺のこと調べ上げてやがるし」

「パパまで凌司とのこと知ってたっていうの……え、条件って?」

「んー。まずは、カンナが一人前になるまでは妨げになるような付き合いは厳禁ってことで、意外に簡単に思えた――んだが、なぁ」


 言葉を詰まらせ、凌司が目を逸らす。


「何か、あったの?」

「お前、卒業して最初の夏に、俺に嘘ついて仕事すっぽかして日本に来ただろ?」

「え、最初の夏、って……バレてたの!?」

「や、知ってたら全力で止めてた。とにかく、俺に会うために仕事サボるなんざ――オヤジさんたちの逆鱗に触れるには十分だったみたいだぜ?」


 頭が真っ白になる。じゃあ、私は、自ら墓穴を掘っていたってことじゃないか!


「それで、別れるって言い出したの?」

「そんだけって訳でもねぇけどな。――お前に見つからねーように澪音が俺んとこに来て、変な指令書つきつけやがったからな」

「指令、書?」

「カンナを本当に愛してるんなら、俺にもエージェントになるための修行しろってさ」

「はぁっ!?」


 エージェント――それはつまり、私やレオンのような捜査員になるということ。強靭な身体能力を誇るパパの血筋である私たち兄妹ならいざ知らず(実際、メイフィールド家は代々身体能力がバカみたいに高い)、一般人である凌司に修行を強いるだなんて……。


「表向きは国際探偵つっても、極秘任務も多いって? 暴露してもカンナと別れさせもしなければ、俺を始末しようともしなかったのは、つまりコッチの世界に俺を引き込もうとしてたって訳だ。あの夏がきっかけで、俺も覚悟決めなきゃならなくなったんだよなぁ……。そもそも、カンナと一旦別れろって条件出されたしな。信じてんなら大したことじゃねぇ、とか。オヤジさんも極悪だよなぁ」

「じゃ、じゃあ。ホントに修行してたの?」

「大学行きながらって結構キツくて、2年目は留年しちまったけどな。周りにはバイトしてることにしてたんだ、誰にもお前の家の事情はバレてねーから。あ、バレたら今度こそ殺られるか?」


 日本には、私とレオンも修行した養成所っぽい所があって。私の知らないうちに、総悟はそこで修行を積んでいたらしい。……剣の腕を生かして、真剣も扱えるようになったとか。大概のモノは一刀両断出来るとか、平然と言ってのけたけど。もう既に、一般人の発言ではないだろう、ソレは。


「高校の時みたく、闘り合ってみるか? お前、手加減してたんだろ。ちっとムカついたが、あんな修行してたんじゃ仕方ねーか。まあ、今なら勝てると思うけどな?」

「なっ……こっちは20年以上修行漬けのベテランなんだから!! 新米になんて負けないわよ!」

「ハハッ。相変わらず負けず嫌いじゃねぇか」


 4年の間、私は凌司に振られたことで、凌司の真意を知りもせずに……それでもずっと、忘れることなんて出来ずにいた。


「――私が、心変わりしたらどうするつもりだったのよ?」

「何言ってんだよ。無理だろ? カンナは俺のこと心底愛しちゃってるから」

「むがぁっ! その通りだけど、何かムカつくぅっ!!」

「……俺も、絶対にお前のこと好きで居続ける自信があるからな。お前の気持ち、疑ったりもしなかったよ」

「りょーじ……」

「ダブったせいで、俺はまだ大学生なんだ。ホントは春までカンナには内緒のままだったんだからな? 澪音の奴、ぜってー面白がって実戦がてらとか何とかほざいて襲撃してくる。ってか、その辺から見てっかも」


 げっ。さすがの私も、クソ兄貴の殺気を殺した気配は見抜けないんだ。ヤツなら――正面から来るかも、だけど。


「で。取り敢えずなんだけど」

「な、に?」

「より戻す前に――事情伏せなきゃならなかったとはいえ、カンナを泣かせたことには変わりねぇ。すまなかった」

「っ!」

「俺も、カンナに会えなかったこの4年はスッゲー辛かった。気が狂いそうだった。心配なんざしなくても、俺の頭ん中はカンナでいっぱいだった」

「凌司っ……私、私もっ」


 会いたかったの。抱きしめて欲しかった。この手で触れて、キスをして、繋がり合って――。


「卒業したら、俺がアメリカ(そっち)行くから。あと半年、泣かないで待ってろよ?」

「うっ……もう泣かないもんっ。ってか、本気でエージェントやる気なの?」

「まあ、就職活動もしてねーから、オヤジさんが拾ってくんなきゃプー太郎になっちまうなぁ」

「ちょっと待て。そんな理由!?」

「ばーか。お前とこれ以上離れたくねぇからに決まってんだろ。それとも、言わなきゃ分かんねーの?」


 凌司の両手が頬を挟む。ちょっと乱暴に引き寄せられたけれど、それが全然不快なんかじゃなくて。むしろ、その力強さにときめいたりして。


「言ってよ」

「はぁ?」

「何遍でも、私のこと愛してるって言いやがれ。泣かせた罰なんだからね!」

「ったくお前は……後悔すんじゃねーぞ? これからベッドの上でいくらでも囁いてやっからな。足腰立たなくなるまで張り切ってヤルつもりだから期待しとけよ?」

「の、望むところよ! こっちだって負けないもん。覚悟すんのはソッチかもよ?」


 お互いに吹き出すと、引き合うように、啄むキスを繰り返す。好き、大好き、愛してる。言葉なんかじゃ足りないの。


 人通りから外れた、裏道――ざわめきが遠くに感じられて。4年前には、別れを告げられたけれど。でも、今はそんな悪夢のようなことはもう二度と起きないんだと、力強い腕が教えてくれる。


 真夏の夜に見る夢は――――目覚めても、幸せなままで。この次の夏も、きっと続いていくんだ。


裏話的な『夏休み』を後日投稿します。過去話3話+後日談1話の予定です。


元ネタの設定が随所に残ってるので、現代話と言ってもファンタジーくさいです。開き直りです。

二次創作時代は、オリジナルを二次創作キャラに変換するのを多用しましたが、今回は初の逆輸入(?)。

もう秋も深まり寒くなってきましたが、夏ネタでいってみました!

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