第96話『優しいクロの"この感じ"』
「セタ様っ!…はぁ…あの。
クロさんが…帰ってきました!」
と長身坊主頭の男がセタのいる
宿の四階に伝えに来た。その声は
階上までの段差を駈けた疲れよりも
高揚が勝っていた
『おお…!』と発して返すセタ
(この場所に帰ってきた…。
とは、ちょっと違うが、まあ、
あっている面もあるのか…)
と思いながら、セタは寝ている
ネムコ達を部屋に残し、階下に
向かう。ファルはすでに一階に
いるようで、クロと話している
とのこと
「…しっかし、クロさん。
急ですね。なんかあったのですかね?」
『さあ…?わからん。可愛いネムコに
会いに来ただけかもな…』
「…まあ、そうですね。可愛いのは
ホント"そう"ですよ…」
『ほぉ…。そうか。素直になったな…。
お前も…』
「…そうですかね?」
と坊主頭をポリポリと掻く
「でも…。俺のネムコの本音は、
セタ様の前だから
言えることでもあるのですよ」
『ふぅ~ん…。そんなものか…。
ああ、そうだ…。
"私の"ディルベットも…下か?』
「いいえ。"セタ様の"ディルベットは、
今日は午後から、
"あいつの子供"と出掛けてますよ」
"あいつの子供"とはブルーノの妹弟の
ことだ。ディルベットと共に旅をし、
宿に戻ってからは、本当の姉である
ブルーノ以上に接している時間が長く
二人にとっては姉というよりも母に
近い存在になっている
「朝食のとき、セタ様に嬉しそうに
話してたと思いますよ。
あいつらも、ネムコと同じで、
素直で可愛いんですけどね…」
『…そうか。"あいつら"とは、
ディルベットも含むのかな?』
「……それは。まあ…」
『まあ、いい。そういえばどこかに
行くと言ってたか…。
ぼんやりとしてた。
どこだ…?近くか?』
「ええと…。確か…。
ああ!…クロさん」
クロがファルを連れて階下のフロント
の階段の前にいた
『おお!クロ…!元気か?』
クロは自慢の黒髪のある頭と首を
わずかに傾げて、
「う~ん。まあまあ…かな?…」
と答える
『…そうか。で…サラは?』
とセタは伝えた
クロは一寸黙ってから
「そうだね…。元気、だよ…。
すごく元気…。
"僕が必要ないくらい"
元気だよ。お部屋行ってもいいかな?
今、"この通り"ファルと一緒に行く
ところだったの」
クロはファルの手をとっている
『おお、そうだな…。
"ネムコ様"に会いに来たのか?』
「…う~ん。そう…だね。それも
もちろんあるね。この村の唯一無二の
存在…。誰もが必ず撫でたくなる毛並みの…
かわいい、あたたかい珍獣だから…
でもね…。そうだな………」
『ううん…?…違うのか?』
「まあでも…。半分は正解にして
おくよ」
『そうか…。では、行こう』
「うん。…ファルも一緒で
いいよね?」
『うん?…ああ。クロが
いいなら、それでいい』
「では、ファル。行こう。
セタの部屋に案内するよ…」
ファルはその言葉に少しだけ笑みを
浮かべると
「うん…。ありがとう。
懐かしい…。
優しいクロの"この感じ"」
と返した。




