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第92話『おやすみ"な・さ・い"』

 ミロハンの屋敷内。客室での夜…


「ねぇ…セタ。その唇を

 ちょうだい」


 とファルは言った


 セタが素直に応じると…

 唇を離した後…



「アナタが教えてくれのよ…。

 好きには素直…それは、アナタが

 ネムコを…特にノーラを…

 愛でる声…。それは明らかに私に

 対してのものとは違う、声…対応…

 表現…。とてつもなく、悔しかった

 から、旅に出た…。


 セタのことが大好きだから…

 その場を離れた…。その気持ちが

 色褪せて、"変わる"のなら…

 戻っては来なかった…。


 つまり…ね。ずっと、好きなままよ…。

 アナタのこと、好き…。

 この"好き"は…ずっと変わらないわ…


 "好き"以外に、素直になることは

 私は…。永遠に無い…。

 泥臭くて、薄汚いモノでも…

 すべて食らって生きて行く…

 という覚悟は、変わらないけど…

 好きに対しては…ずっと」 



 ファルの言葉を聞いて、セタは

『好きは…ずっとか…』と呟いてから

 ファルを抱きしめる


 部屋の扉の前…。待ちきれない

 時間をファルは待ったのだろう…


 ファルの求めるもの、望むものが

 自分であることを…セタはあらためて

 "強く"認識をする



 

 ◆




 真夜中…。明かりの消えた部屋…

 仰向けに寝ていたセタは足元に

 変な感触を覚え…目を覚ます


 隣には…。添い寝の相手、

 ファルは(……居ない?)


 自分の足元にネムコの如く

 潜り込んだでいるのか…?


 と思うも…。ファルがそんなことを

 したことが無い…ということを

 なんとなく思い出す


(……………?)


 掛布を捲って、確認しようと

 するが…。身体(からだ)が動かない…


(何…?……この冷たい感触は…)


 気づくと、足元からふくらはぎへ…

 ベッタリと手と腕で、捕まれている

 しかも…その力は、徐々に強くなる


 身体が見えない恐怖で震えてきた…

 一言も発せられない…


(……自分を伝って、登ってくる)

 

 謎の物体は…上体に…。顔の方に…

 徐々に…。その姿を見せる為に…

 ベタベタと張り付くように…

 肌に触れながら…這うように動き…

 進んで来るのがわかる


 目を動かし、下をみる…

 両肩を細い指で捕まれ、

(あっ…!!!)とビクつき

 反応すると…


 すぅ…と顔が眼前に出てきた…


(アナタは……。え…誰?)


 その顔の目元には黒い布が巻かれて

 いて、長い黒髪が…両側から前に、

 太い触覚の様に、だらん…と垂れている


『…ファル?…じゃ、ないよね?』


 ようやく、セタは声を出すことが

 出来た。呼吸を整え、落ち着くよう

 に自らに言い聞かせてから、


『あ、アナタは………』とセタが

 その後に続ける言葉に迷っていると…


 眼前の顔は、セタの胸に沈み、


「胸を…打っている。音……

 清らかな…音…。鈍い鎖の無い…

 歩くことが出来る……健康な…

 カラダ…。新鮮な血が…淀みなく

 流れている…」と呟く



(……え?…何なの?)



「あの子を………。救って 

 あげて…。人を忘れた……

 わたしたちの…子を」



(……何?…何?…もしかして

 アナタは…)



「……おやすみ"な・さ・い"」




 ◆




 翌朝…。悪夢から覚めたセタは…

 自分の身体が動くことを確かめる…


 そして隣には…。"離れないで"

 と言っていたファルがいる…


 スヤスヤとよく寝ている…

  

(アレは…"夢"か…。どうして

 あんなに生々しかったのか?)


 自分でもよくわからない…

 自分のコトに対し、

 セタは『フフッ…』と自嘲し、


(変な自分だ…)と心中つぶやき、

 …ファルの寝顔をよく見ようと

 顔を近づけると、

 ファルが「んぁ…?」と目を覚ます


『…おはよう。ファル』



「…………あぁ。おはよう」



『……夜。起きるまで…

 ずっと"ここに"居てくれた?』



「…………うぅん。いた…かな」



『うぅん…?』



「……後で話す。もっと寝かせて」



『……だめ。今話せ』とセタは

 ファルの頬を指先で軽くつまむ



「…えぇ?…なんで?」



『気になるから…』



「夜…。何かあったの?」



『それを確かめたい…』



「うん…。今"すごく"眠いけど…。

 あとじゃ、だめ?」



『…だめ。寝かせない』



「………ふぁ~い。わかった。

 でも…その前に」


 とファルはセタに密着して


「ぎゅぅぅっと…強く。優しく…

 して…。抱きしめて…」

 と甘く囁くように伝える


 セタは『ふぅん…』と落とすように

 発しながらも、ファルの寝ぼけ眼の

 求めに応じた

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