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第89話『夕闇に映える、鈍い鎖の音』

 ミロハンの村の中央には井戸があり

 放射状に住居が並ぶ構造で…


 セタとファルが着いたときには、

 その風情は、既に夕闇の中に融けて

 いて、石畳の舗装された路面には

 濃い夕陽と夜に消える前の暗い影が

 映えていた


 井戸水を汲んでいる幼い姉妹がいて

 その帰り際…セタとファルの存在に

 気づくと、逃げるように去って行く


 その二人の互いの足には鎖が繋がれ

 ていて、同じ速度でジャラジャラと

 鈍い音を鳴らし移動しているのが

 わかった


 後ろでその様子を見ていた

 ミロハンは、


「アレは、価値と信用を落とした

 奴隷ですよ…。

 屠殺場で働いているのですが、

 血を見るのに慣れず、一度

 脱走をしているのです…。


 まあ少し不便で可愛そうですが、

 自業自得ですね…

 猶予の期間を無事に終えれば、

 あの鎖は外す予定です…」



『………』セタは何も返事をせず


 ファルは「ふぁ~あ。何だか

 すごく眠いし、お腹すいた…

 この村は、お肉が美味しいの?」


 とミロハンに聞いた



「ええ…。そうです。

 何にも無いところですが…

 お肉だけは美味しいですよ…

 牧畜が盛んで、弱った奴隷が

 豚に食い殺されたこともあります。


 その豚は食わずに殺しましたけど

 …一度味わってみたいですね。

 人と豚の肉…というものを」



「ふぅ~ん。そうね…。それは、

 可愛そうな奴隷の味って、

 ところかしら?」



「…どうでしょう?」



「ねぇ…セタ。早くごちそうに

 なろう。この村に来たかいが

 少しはあったわ」



『…………』



「…同情しているの?

 奴隷に…」



『………別に。でも、ちょっと

 不愉快になって何も言えなかった

 だけ…』



「…そう。なら、よかった…

 ミロハン、セタを案内して…」



「はい…。ファルの姉さん…

 少し段を登ったところに

 屋敷があります…コチラです」



「お~い。セタ…?

 聞いてる?…案内されるセタが

 動かないと、私は怖くて心細くて

 一歩も動けないわ」



(……嘘つけ)とセタは思いながら

 ファルの肩に触れてミロハンの

 あとを歩く



 ・・・



『この村の統治は…どうしているの?

 "真面目な"アナタが、うまくそう

 しているの…?』


 丘を削る段差を登りながらセタは

 ミロハンに曖昧さを含んで訊く



「……いいえ。僕は少し真面目過ぎた

 ようです」



『…というと?』



「わかりませんか…?先程の井戸に

 居た姉妹…。次は…猶予の期間を

 終える前の仮定の話しですが…


 また懲りずに僕の村から

 "逃げる"なら…


 雇い主が何を言おうとも…僕の

 "教え"に忠実な従者達が、躊躇なく

 足を切るでしょう…。


 統治の為には奴隷の管理を万全に

 する必要がありますから…」



『………』



「まあ…その前に。ただ…奉仕する。

 働く…。愚かな行いをせず、

 日々不自由なく過ごしてもらいたい…。


 代償を払う前に、悔い改めて欲しい。

 逃げずに従順なままで居て欲しい…

 "愛情"故の罰…。


 …浮浪者とは違って、奴隷は大切な

 価値のある存在ですから……


 そろそろ着きますよ。"ファルの

 お姉さん"…」



(ファルのお姉さん…?)


 セタはミロハンが語っていたと思って

 いた対象が自分でなく"ファル"で

 あると知った


 ミロハンが心を許し、ファルを取り

 込もうとしているのか?それとも…

 ファルが、彼を取り込んだのか?


 少なくとも、ミロハンが、自分よりも

 ファルの存在に気を遣っているのが、

 セタにはわかった



 ・・・


 セタは最後の段差を登り終え、

 足を止めると『ふぅ~…』と息を吐く


 ファルは「疲れた…?」と訊く


『ちょっとね…』とファルの肩から

 手を離し、前方の屋敷と背後にそびえる

 大きな鐘の付いた黒く巨大な櫓を

 見上げると、何気なく振り返る…


 陽が沈む寸前の空をみて…

 眼下に広がる景色…


 歩いてきた段差から繋がる井戸を中心に

 した住居の群れ…。住居の外周にある

 柵に囲われた牧場と宿舎…


 離れて見るとわかる…村全体を高低差

 不揃いに囲む、入り口から繋がる黒石

 の壁と柵をみて


「さあ、行きましょう…」と促し、

 歩き出そうとするミロハンにセタは、

『ミロハン…待って』と伝える


「なんですか…?」とミロハンは

 足を止めて、振り返る



『この丘から見える景色は、

 アナタが望んだモノなの…?』



「……すみません。セタさんの

 質問の意味がわかりません。


 僕が望んでいるものはこの場に

 は何もありません…


 恐らくは永遠にみつからない…

 そう思います」



『……そう。わかった。

 行きましょう』



「…はい」



『ほら…ファル。歩くよ、行くよ』



「……」



『ファル?どーしたの?…』


 ファルは黙ったまま動かずに…

 このあとに"来る"何かを想像…

 察しているようだった



『ファル…?』



「ううん。大丈夫よ…

 少し…ね。時間を置きたかったの…」

 セタ…私から離れないでね」



『うん…。わかった』

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