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第8話『変化の理由と…いつもの空間』


 宿にあるセタの部屋には一枚の絵が

 壁に掛けて飾ってある…


 そこには椅子に座るセタと膝上のノーラ、

 控えめな位置で後方に立っている少女…


 そして、手前に"黒い靄"のようなもの


 それはミアに取り憑いていた影であり

 …ミアの見ている視線の中にいる、

 という形で、淡く描かれている


 ただセタは初めてその絵を見た時、

 ソレ以外のモノに目がいった…


 背景に薄っすらと女性の幽霊のような

 モノが描かれていたからだ…


(何だ。ミアにも…見えていたのか?)


 セタは心中つぶやくと、背後をちらり

 と確認してから、少し上をみた


 ふわふわと浮いている状態のシャーマン

 の幽霊は淡々と答える


(ただいま…。今見送って来ました…


 ハッキリとでは無いのですが…

 気づかれてはいました…。


 彼女は生まれてすぐに死にかかった

 そうですよ…。病気がちで、

 弱かったそうですが…絵を描いている

 と…。不思議と良くなったそうです


 恐らくは精霊のおかげでしょうね…

 彼女が普段は目に見えない精霊達を

 ぼんやりと自然体で描くので…


 好奇心旺盛な精霊が寄ってくるのです


 そんなわけで…彼女は、必然的に絵を

 描くことで精霊達の淡い力に守られる

 ようになっているようです


 ただ、急に生きている存在に話しかけ

 られると…例え幽霊や精霊であっても、

 困りますね…。


 その瞬間は、少し時間が止まって

 しまう感じがします)


 セタは「ふぅ~ん…。なるほどな…」

「ミアは色々あって解決した…。とだけ

 言っていたから…。まあ、なんとなく

 オマエが関与しているのは感じていた

 けど…


 そこまで直接的に…"明確に"やり取り

 しているとは思わなかった…。


 あ~あ…」


 と少し残念そうにしながら、絵を机に

 置いて…。踵を返し寝台に座り、ゆっく

 りと横になり…


 いつもの少年時代のノーラが着ていた

 衣服の置いてある箇所にて休んでいる

 ノーラを…軽くひと撫で、ふた撫でする


 そんなセタをみて、幽霊はうっすらと

 笑みを浮かべて

(フフフッ…)と愉悦を含む声を漏らした


「楽しそうだな…。でも…まあ、

 良かったよ…。多分日食が関係している

 のだろう?…あれから、ミアは変わった」


(そうですね…。ちょっと影の"帰る場所"

 を教えて上げただけですけど…。


 大昔にそれほど役に立たない

 "影の精霊"を飼っていた物好きな

 シャーマンの逸話がありまして…


 それにならって、あるべき場所に

 帰ってもらいました…


 最後の別れ…


 想いを伝える姿をみました…

 彼女は純粋でした…


 でも、彼女を、本当の意味で変えさせ

 たのは、"セタ"ですよ)


(…セタ?)


 セタは幽霊が"アナタ"でなく、自分の

 "セタ"という名前を呼んだことを気に

 しつつも、


「……そうか?…それは幽霊なりの私への

 慰め、配慮じゃないか?…私は別に、

 大したことはしていないよ…。一緒に

 眠っただけだ…」


 と目を瞑って「ふぅ~」と息を吐いた


 しばしの静寂のあと…


(みんな変わった…。幽霊である自分ですら

 変わってしまった…。


 そして気づくと…。好きになっていた…。

 幽霊でも、そんなことがある…。


 それは傍に居たいと、感じさせる何か

 があるから………)


「…………」

(…………)


 しばしの無言の後。セタは休んでいる

 ノーラをじっとみてから…

「うん…。そうかもな…」


「変わってしまったのかもな…。良い

 方向で…」


 セタはシャーマンの女性の幽霊の主語を

 あえて抜いた発言の内容が、自分に対しての

 ことだとは思わずに…


 ただ自分を変化させた対象を、愛でる瞳と

 安らぎを得た表情でみつめていた


 その対象はネムコであり、ノーラであった


 

 ・・・



 ミアとの別れの間際の会話。 



『私にも…"帰る場所"が出来た…』


 と…。ミアは寂しさと嬉しさを

 まじえてセタと自分自身に向けて

 ハッキリといった


「"帰る場所"は、師匠のところじゃなく

 てもいいのか?」


『もちろん、師匠のところには帰る

 日が来る。でも…"ほんとうに"帰り

 たいと思って帰るところ……


 そう…。"温かい陸の港"が、

 出来たの…。わかる?』



「………ふぅん。なるほど、そうか…。

 わかる。…うん、わかった」



『ふふっ…。セタって優しい。

 "誰にでも"…かな?』


「ふふん。……そうかな?」


『違う?』


「…うん。そうかもな…。でも違う

 かもしれない…。ミアが決めてくれ」


『………もぅ(ばか)』とミアは小声で

 言った


 最後に…。ミアはセタに向けて

『部屋から出てはダメ…。ここでお別れ

 …。ノーラ…サヨナラ。また触らせて

 ね…』と伝えた


 ノーラは寝台に腰掛けるセタの膝上で

 眠っていた。セタは一度ノーラをみて

 から、再度ミアに視線を移し、


「またな…。ミアが出ていったら

 絵を確認するよ…。楽しみだ…」


『…ふふん。セタ…また会いましょう。

 戻ってくるからね』


「ああ…。ミア…。また会おう」


 ミアは荷物を背負って、軽快な足取り

 で部屋の外に出て、ドアを閉める…


 セタは軽く振っていた手を下ろすと…

 

 ノーラと二人きりのいつもの空間と

 なった部屋を見渡し…


「ノーラ」と小声で呼んでから…

 再度、ノーラを優しく撫でた

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