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第87話『一人称:セタ。ネムコの居ない道中にて…』


 "らしくない"もう一人の自分に会えた

 ことに感動を覚える


 それは、心のどこかで望んでいた…

 淡い結論であったのか?


 今が通り過ぎて、過去を振り返ったときに

 "いずれ"わかるのだろう…きっと


 それは…。



 ・・・


 ミロハンが明日…迎えに来る。



 この村から出て、私はネムコを

 おいて、旅に出る…


 今までの自分であれば、考えられない

 ことだ…


 以前の自分であれば…。そう…

 間違いなく…。"早く戻って、出来得る

 限り、最短で…戻って…


 抱きしめて。日を浴びた毛並みを

 撫でて、その匂いを嗅いで…


 そのことを旅立つ前に何度も

 想像しただろう…


(だが…。どうしたものか…。

 これは…。私は…)



 ・・・



 夕食後…ファルが会いに来た


 ファルは「明日は付いていかないから…

 よろしくね」と素っ気なく言ったあと、

「じゃあ…おやすみ」と残し自室に戻る


 私は、引き留めること…触れることなど

 せず、ただ『…わかった』とだけ伝え、

 廊下に半身を出し、ファルが自室に戻るの

 を見届けてから、扉を静かに閉めた


 ・・・


 次の日。ファルが旅に出ていることを

 知った。あっという間…。またこの村から

 離れて、どこかにフラッと…今回は、

 いつも以上に無機質に…その存在を消す

 ように宿を…村を、出ていった


 ファルの事とは別にして、

 なんだか周囲(まわり)の人間が不自然に…

 それは戸惑っている…というのがわかった


 "変化の前触れ"を感じ取っていたのかも

 しれない。でも…。それは私の変化なのだ…

 

 この村の立場としては、あるべき正しい

 姿なのだ…


 あらためてノーラとイーシャを置いていく

 ことを伝えると…。ディルベットだけでなく、

 他の人間すべてが、どこか寂しげな様子で

 私の顔をみる…


(ああ…。そうなんだな…)


 と"やっぱり"ネムコは特別な存在なの

 だな…。と他人事のように認識をする

 自分がいる


『また、戻ってくるのだから…

 心配はいらない。ノーラとイーシャを

 頼むぞ…』


 そう伝え残して、迎えに来たミロハンと

 共に彼らしい飾り気のない荷馬車に乗る


 振り返ることなく。ただ、黙って

 余計なことは言わないで…村を離れる


 ネムコから自分が離れていくのがわかる

 引き裂かれた訳ではない…

 自分からそうしたのだから……

 耐えるしか無い…


 気分が優れない…。実際、そういう

 心地ではあったが、この判断は間違って

 いないと自分に強く言い聞かせる…


 ミロハンは真っ直ぐに前をみている

 あえてこちらを見ない…


 村から離れていく景色を見ながら、

 またノーラとイーシャのことを

 思い浮かべ…


 再度、隣を…ミロハンの方をみる


 …目が合う。彼もこちらを

 見ていた。これはもう…アレだ…


 何か会話を始めないと駄目なヤツだ…



『今…。景色を眺めながら、ネムコの

 ことを考えていました』



「ネムコ…?」とミロハンは

 少し間を置いて

「ああ、例の動物ですね」

 と言った


『さっき、玄関にいました…

 可愛い獣が私の旅路の無事を祈り

 見送ってくれました』



「……………そうですか。

 それはよかった」



『あまり…。興味が無いのですか?』



「…………………正直。

 これは本心です。悪く思われ

 たくないと…下手に装う、誤魔化

 すことはしません。今のところは…

 それほど興味は無いです。


 ですが、もっとよくみて、触れることで

 この気持ちが変わるかもしれません…」



『………………』



「いや…違いますね。セタさんが好き

 なのであれば…。僕は必ず好きに

 なると思います!」 



『………いいえ。言い切らないで

 いいです。"必ず"というものは

 この世に存在しないのだから…』



「………………」



『……ごめんなさい。こんな言い方を

 すれば、何も言い返せない…

 ズルいですね…』



「……いえ。僕の伝え方が

 下手だからです。


 すみません…」



『……』



「……」



 と…ここで、馬車が停まる


 ミロハンが「ちょっと…様子を

 見てきます」と外に出る…


 しばらくして…

 ミロハンが戻って来て


「あの…。セタさん…。

 浮浪者が一人、道の真ん中で

 寝転がっているのですが…


 僕の村まで乗せて欲しいと

 言っているみたいで…」



『…私は別にいいですよ』



「…えっ?…そうですか

 本当にいいですか?…」



『はい…。"ついで"であれば、

 迷うことは特に無いと思います』



「……そうですか。では、

 荷台に放り込んでおきます。

 途中、変な真似をしたら捨てて

 いきます」



『…ええ。それでよいと

 思います』



「………バカ!良くないわよ」


 と聞き覚えのある声のあとに…

 ミロハンを杖で退けて馬車に入って

 きたのは、旅立ったはずの

 "ファル"だった…


『……ファル?どうして…?』



「よい…しょっ…!

 あぁ~ほんとっ!"待ち"疲れた!」



「あの…。お知り合いですか?

 この浮浪者?」とミロハン



『……はい。この浮浪者は私の

 知り合いです。"ファル"と言い

 ます。よく村の宿に出入りして

 いる者です』


 その返答を聞いてファルは

「ふんっ…」と発してから


「人のことを"浮浪者"だなんて…

 失礼ね…。哲学を持って旅をする

 者よ…。この私は」



『ファル…。一緒に行くつもり

 なの?』



「えっ?…何?…別に付いて行か

 ないわ。私はただ"彼"と……


 え~と、"名前"…なんだっけ?」



『ミロハン…』



「ああ、ミロハン?…ていうの?…

 まあ、何でもいいけど。彼の村に

 用事があるのよ…」



『…どんな?』



「それは"内緒"…。それはそうと…

 奇遇ね…。こんなところで

 セタ"様"に出会うなんて…


 やはり私達は熱い運命で結ばれて

 いるのかしら…?


 まあ、そんなことで…。よろしく。

 早く出発してちょうだい。お腹が

 空いちゃうじゃない」


 ファルは既にくっつくように隣に

 座っている。降りるつもりも、離れる

 つもりも無い


 それは、ネムコの何倍も強引で…


 でもそれは、出会ってから、今に至る

 までの、変わりない存在…

 "ファルらしく"て…どこか憎めない

 心地よく、心強く。安堵する光景、

 我の強い応対で…


 私は、


『……"このまま"お願いします。

 今の私にとって、大切な存在なの

 です…』


 とミロハンに伝えると、

「わかりました…。

 では、村まで共に行きましょう。


 二人きりの場を邪魔されるのは、

 正直、不本意ではありますが…」


 とファルの押しの強さに観念をした

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