第86話『予感。こうなるだろうな…』
目の前にいる気品のある青年は…
ミロハンと名乗った
待たされたことを微塵も感じさせない
気にもしない、"好"と名の付く青年と
言ってよい
ミロハンは、真っ直ぐに
セタを見つめてから、
「綺麗な瞳をしていますね…」
といった
セタは『あっ…はい。そうですか?』
と咄嗟の言葉に、無意識にしおらしく返す
しばし沈黙の空間。セタは素直に喜んで
よいものか?どうかを考える
そしてふと…思い浮かんだことを
『………あの?』と伝える
「はい…。なんでしょうか?」
『この格好…。大丈夫ですか?
変では無いですか?…
自分ではそれほど変では無いと
思っているのですが…』
「…はい、そのままで良いと思います。
きっと何か理由があるのでしょう?」
『…はい。色々と、実利的にも』
ミロハンは微笑み、そして
「…あとで、こっそり教えて下さい」
その表情をみてセタは、遠い過去を
思い出し…。切なさと嬉しさが
入り混じった何とも言えない
"異性を想う…"という、今まで
否定しがちであった、気持ちになる
宿の一階にある、客間に二人…
沈黙の時間が流れる…
(なるほどな…。この人は今まで
会った異性の中でも、
"まとも"な部類だ…)
とセタは思いながら…
『あの……ちょっと"まとも"
過ぎるかと…。本性はどこに
ありますか?…隠れてますか?』
と聞いた
ミロハンは、しばし考えてから
「わかりました…」と言って、束ねて
いた長い黒髪を無駄の無い動作で
ほどき…
「少しだけ、"不"真面目になりました…
でも、これ以上のモノ、自分は
今のところは存在しない。
…出来ません」
セタはミロハンをみて
『…そういうアレではなかったのですが』
と自分が聞いてしまった質問について
後悔をする
ミロハンは再度、長い黒髪を束ねると、
セタをじっと見つめて
「今度、僕の村に来て下さい…
何もないところですが…いいところ
ですよ…」
『………はい』
ミロハンは「よかった…」と言ってから
立ち上がり、「またお会いしましょう」
と伝え残して宿を、ブルウノス村を
あとにした
・・・
その夜…。セタは(こうなるだろうな…)
という自分の"予想通り"に眠れず、夜
(これが、恋なのか?…)と
らしくない自分と、
定義が曖昧な"人間らしさ"を
どこか遠くに思い出しながら…
ノーラとイーシャを視界に入れる
二人は寝台の上、いつもの場所で
休んでいた
ミロハンには、今日会う前に、事前に
ネムコという小さな動物と一緒にこの村で
暮らしてもらえるようにお願いをしていた
が…。今日の会話の中ではネムコ
についての話題は出てこなかった
(彼は…。ネムコについて、興味が
無いのかもしれないな…。聞いて
みないと本当のところはわからないが…)
その点だけが、不安だった…
試してみたわけではなかったが…
ネムコを連れて会いに行かなった
こと、話題に出さなかったことを…
少し後悔をした
あとは今のところ、問題がないように
思えた…
(このまま…彼と。夫婦として、一緒に
暮らすのだろうか?)
漠然とそう思いながら、彼の…ミロハンの
笑みを見たときの得も言えぬ感情の
正体が、セタにはまだわからないでいた
セタは夜が明けて、早朝になり
うつらうつらとしながら、睡魔に負けて
眠る寸前
(ノーラ…。一緒にネムコを飼おう)
と呟いていた
・・・
次の朝。ディルベットがセタを起こしに
来たが…。彼女はそのまま起こさないで
セタの寝台の端に座ると…
眠っているセタ、そして
ネムコとイーシャをみて…
(ごめんなさい…。今日は従者として
立場を忘れます)
と寝台の外に足を投げたまま、
セタの傍にゆっくりと音を立てない
ように…横になる
(どこまでも、一緒に…。私と、
ネムコ達と幸せに暮らしましょう)
その願いを込めながら、自分でも
よくわからない、制御できない悔しさの
感情が出て来て、目から溢れる涙に
その姿を変える
・・・
「あ~お」「なぁ~お」とネムコ達が
鳴いているのにセタは気づき…
目を覚ますと、
傍にいるディルベットの存在に気づく
ネムコ達の食べるものが欲しいという
合図は、すやすやと寝息を立てるディル
ベットに向けられていて…
セタはネムコ達に、
「ごめんな…。私の従者も、主人と
同じく"夜"は眠れなかったらしい」
といって、ディルベットの髪を撫で、
優しく包み込むように腕を回す
(どれだけ考えても、苦しんでも、
もう…朝なんだな。この"みえている"
世界は…いつまでも、ずっと)
陽の光が窓越しに部屋の中に
入って、今日の
"わかりやすい"天気を決めていた
(今日は、ディルベットと二人だけで
散歩をしよう…)
そう予定を決めるのに、セタは迷う
ことはなかった




