第81話『王女を守る騎士として』
肥沃な土地
農奴達は、いずれ収奪される作物…
得ることのない"不毛の成果物"を
黙々と育てる
そんな、報われることの無い暗雲
たる心地の中"ただ、生きる"という
日々を続ける…
皆、表情は無いに等しく
肌が日に焼けている様子からは苦労を
通り越して鈍く変色した…
"苦役の色"が濃くうかがえる
あるとき脱走をした少年二人が捕まり
皆の前、晒し者の如く裸で連れてこられ
この場で殺すように命じられた…
誰もやろうとはしない…
その子の母親の慈悲を求める必死の
懇願は…冷酷な人間達には通用しない
そこで…
祖父母両親、親族、"すべてが"
いない"僕"が手を挙げて
「必ず殺すから、一日だけ
待って欲しい」と頼んだ
その時…。所有者の使いの男が僕のことを
「お前は女か?…男か?…子どもに情が
残るのは、困るのだがな…」
と聞いてきた
"理由は"その瞬間は、あまりよく
わからなかったが…
「僕は男です。約束は守ります」
とはっきりと答えたのを覚えている
僕は勇気のある人間でも物語の主人公
でも無い…。ただ別れの時間を作りた
かっただけだ…
農具で少年二人の首を刺し…殺したあと
未熟な体躯の遺体を前にしても…
涙の枯れた少年の母親の絶望の顔をみても
…その時の僕はもう何も感じなかった
失われていたものが、本当に枯渇した
状態になった
誰も僕のことを呼ぶ人間はいなくなった
孤独から完全な孤立…。"人殺し"に近寄る
人間はいない…
その後
肥沃な土地を巡る現在の所有者と外敵の
争いの最中、農奴達は戦禍を逃れる為、
各地へとバラバラに散っていった
僕はこの欲望に塗れた、呪われた土地から
離れる前…
殺した二人の少年の母親に顔を
切りつけられた…
僕は無防備のまま、何も声を発せず
(このまま、ここで殺されてもいい…)
と"死んだ心地"の中、純粋にそう
思っていたが…
その様子を見て、僕のことを憐れに
思ったのかも知れない…
殺されることは無く…そのあと手当を
してくれた…
その時の…
僕が殺した少年の母親の表情…。何とも
言えない感情の入り混じった…滲み出た
様子…
僕の罪が許されることは
"永遠に"ないのだろう…
片目を失った僕は…。独り…
当て所無くとにかく遠くへと歩いて、
森の中…。彷徨い力尽き、空腹、ふらふら
の状態で休んでいると…声を掛けられた
食料と水を与えられ…
「…野宿が"得意"なのか?」と意味の
わからない質問をされて
「"得意"も何も…家も帰る場所も
待っている人間も家族も、何も無い…
全てを失った孤独な人間が、ただ遠く
に暗闇の中、歩いているだけだ…」
と答えると…
「ならば、その孤独の闇の中…
もう少しマシな待遇を与えてやろう…」
と言われ、その人間に付いてきた
その人間は"木の葉の野宿"と呼称
される集団だった
・・・
「僕の名前は…
アッツ…。フリード…」
片目に傷を負った…銀色の短髪、
焼けた肌を持つ長身の女性であり
自称青年の…アッツ・フリードは、
村外れの人工楽園と村を結ぶ細い
路の真ん中…
かぶりをとって日に当たりながら、
買い物という名の旅から戻った
帰り道のファルを真っ直ぐにみて…
自分の名前と過去のコトを伝えた
「もうだいぶ昔の話だけど…」と
いってから一度空をみて…
視線を戻し、
「フリード家は、先祖代々その
広大で、肥沃な土地を管理していた…
僕はフリードの家で従者をしていた
アッツという名前をくれて、
よくしてくれたけど…
外部から来た野蛮な連中に
全てを奪われた…
フリードの家の人間とは血の繋がり
は無いけど…。僕は家族だと思って
いた…。フリードの家には女子しか
おらず、僕は何故か男の子役として
接することが求められたんだ…
声を低くする為に、お酒でうがいを
したり、いつも低い声で話すように
したり…色々とした
そしたら、僕は、本当に"僕に"
なっていた…」
と"全て"をファルに知らせた
『ありがとう…。
アッツ・フリード…。
アッツは…フリードの人たちを
慕っているのね』
「……フリードを名乗っては
駄目でしょうか?」
『……ううん。いいのよ…
慕っているのなら、好きなら
好きにしたらいい…』
「……はい」
『さあ…。村に戻りましょう?』
「……いや。僕はここで
自分の仕事がありますから…」
『……そう。では、またね』
と返して村の方向に歩き始める
ファルに
「あの…」とアッツは後ろから
声を掛け、呼び止める
『なに…?』と立ち止まるファルに
「………僕は、アナタのことが
好きです。ファルさんのことが
好きです。だから…………
だから………その…」
と言葉が続かないアッツに
ファルは『ふぅ~…』と
息を吐いて、振り返ると…
『ごめんね…。まだ、アナタのことを
恋愛の感情として、好きにはなれない…』
「………そうですか」とうなだれる
アッツに、ファルは、
『でもね…』と優しく続けて
『全てを話してくれたアナタ個人の
ことは…好きだから、好きになった
から……。ありがとう、アッツ。
何でも話し合える仲になれたら
いいな…と思っている
ねぇ、アッツ…。意味はわかる?』
「はい…。なんとなく」と返す
アッツに、ファルは
『いつでもセタのいる宿に
来なさい…。私はセタのお守りを
しないといけない立場だから…
ちょっと大変なのよ』
「そう…なんですか…?」
『そうよ…。だって私は
セタのお母さんだから…
最後まで、大好きなセタを
守らないといけないのよ』
「……………はい」
『ふふ…。よくわからないでしょ?』
「………はい。ファルさんは、セタさんの
実際の母親では無いのですから…」
『"好き"とは…そういうものよ…
自分に都合の良い形で、その関係を
理由付けして納得させないと…
保てなくなる…
現実をみて、憐れな自分が、
"想像以上"に苦しくなるだけ
だから……ね。まぁ、臆病なものよ…。
人間は……常にね』
「…………はい。僕もそれは、
よくわかります」
『………ところで、
ネムコは可愛いと思う?』
「…はい!すごく可愛いです!
ものすごく柔らかくて、
あたたかくて、甘えてくる
のがたまらなく好きです!」
『……………ふふふ。
"すっごい"好きなのね?
私以上じゃない?
その情熱は…』
「……はっ。あの……その、
すみません。ファルさんのことも
好きです…。僕は浮気者ですかね?」
『……ううん。違うわ。
私も最初はそうだった…
ここに来たとき、ネムコが一番
可愛かった…。それが、時を経て
セタに変わっていただけよ』
「……そうですか。では、
コレは正常なんですね?」
『ええ…。正常よ…。
だって見えなくても、
そう感じてしまうくらい
なんだから…
それほどの存在なのだから…
仕方ないわ…』
ファルの自虐は本音であった…
(セタが一番好きなのは…
どう自分が頑張っても…
ネムコなのだから…
永遠に敵わないし、その恋は
叶わない…。でも…
好きであることに終わりは
ないのだろう…)
とファルは思いながら、
アッツの想いを受け止める
以降…
アッツは、宿を訪れた際には、
ネムコと戯れ、必然的にファルと
出会い、何気ない会話をする
日常の底流に流れる恋心と、
その行く末を淡く、どこか切なく
想いながら…願いながらも、
アッツは、野宿の夜空に誓う
(今はコレでいいんだ…
いずれ…僕は………
でも…
どうであっても…
どんな結末であっても…
僕は最後まで、
ファルさんを守るんだ…
そういう存在でいるんだ…)
今日もその一日の流れに身を
投じて、浸らせて…
アッツ青年は、暮らしていく
それはさながら王女を守る
騎士として




