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第78話『家出先の安心感と、二人の親として』

 ブルウノス村の若い神官、

 ライト・ミズ家の五女で前神官サラ

 の妹であるクリスは祭壇で祈祷を終え、

 休憩をとってから、軽い食事をして

 村の中を散策する


 歩くのが好きなクリスの日課である


 この日は、フレア商会の雑貨屋に立ち寄り

 メイガンの街から取り寄せた古本を受け

 取ると…宿舎に戻り、頁を捲った


 童顔で幼い顔の彼女ではあるが、姉の

 サラと比べると、真面目で優秀である

 と言うのが誰の目から見てもよくわかる


 その所作や行動は均一で無駄やムラが

 無い…。思いついたように動く、という

 ことは無いので神官宿舎にいる従者達、


 …そして何気ない散策時の挨拶や、

 さり気ない会話に加え、いつものように

 自然体に生きていると感じられる

 "変わりない様子"から、


 村の住人達は彼女の存在に対し安心する

 …というよりも、彼女からその得も言えぬ

 "感"を与えられていた


 これも彼女が優秀であるが故の効果で…

 それは短期で役目を終えた印象の宜しく

 ない"前神官"の姉であるサラとは違い…


 その結果は、もちろんのこと

 驕り無く気負うこと無く神官の役目を

 平然と果たし、日々務めている…という

 正当な評価に繋がっている


 だが、村の主の娘であるセタは…

 サラと比べて"真面目すぎる"…

 と見えているスキの無いクリスの

 ことをやや苦手にしていた


 そんな彼女が分厚い本を閉じて、後ろで

 束ねていた癖のある赤い長髪を解いて

「ふぅ…」と息を付くと…


 足元に不思議な…

 柔らかな接触があった…


(なんだろう…?)とビクつくこと

 なく冷静に思いながら足元を確認して

 みるが、何もいない…


 視線を左右に転じてから

 椅子から立ち上がり振り返ると

 後ろで「なぁ~ん」と鳴き声がした


 再度振り返ると、机上にある厚い本

 の上に立っていたのは、見覚えのある

 フワモフの不思議な存在、小さな獣… 


 白味の掛かった薄い灰色の長毛…

 そして目が合うとわかる…

 ターコイズ色の綺麗な瞳…


(ああ…コレは、セタ様のところの)


 とクリスは思い出し、

「どうしたの?…こんなところまで

 来ちゃって…"迷子"になった?」


 と小さな獣に尋ねながら、椅子を

 僅かに引いて腰掛け、目線を合わせる


 視線を交わすと「なぁ~ん」と何かを

 訴え求めるように小さな獣が鳴いたので

 クリスは「よいしょ…」と座っている

 椅子を近づけて本の上の獣に触れよう

 と手をのばす


 すると…膝上と机の間の狭い場所に

 獣は少し強引に移動して胸に擦り寄り…

 ゴロゴロと喉を鳴らして甘えだし…

 

 彼女は抱きしめるように腕の中に

 おさめると…その滑らかな毛並みを

 優しく撫ではじめる


(ふふ…。久しぶりの感触だな…)


 何度かセタに会う際に宿で触れる

 機会があった


 名前は(イーシャ…)ノーラの方では

 無いというのがクリスにはわかっていた


 初めて会ったとき、ノーラよりも先に、

 自分に熱のある挨拶をしてくれたのが

 イーシャだったから、よく覚えていた


(この子は…どうして、こんなに

 寂しそうにしているのかしら?)


 と思いながらクリスは暫くの間、

 愛らしい甘ったれに変化している

 小さな獣の心境を感じ取りながら、

 その切なる想い、求めに応じていた


 ・・・


 換気の為に開けていた窓を閉める


 クリスは(ああ…忍んで音もなく…

 ここからかな?)

 と今は自分の寝台で休んでいる

 小さな獣の侵入経路を考えてから


(こういう"こと"もあるのなら…

 雨の日であっても…毎日開けて

 おいた方がいいかな?)


 と思った


 


 ★



 

 部屋に戻ったセタは…。イーシャが

 宿のどこかに隠れているのではないか?

 

 と思い、セタの身代わりであるメル

 コインと一緒に宿の中を探した後…

 再度ノーラのいる四階の奥にある

 自室に戻った


『はぁ~…。イーシャはどこに

 行ってしまったのか?』


 と寝台にうつ伏せになり

 セタが嘆くと


「多分、ひょっこり戻ってくると

 思います」とメルコインが声を

 掛け、寝台端にちょこんと座る


 セタは『………う~ん。まぁ、

 そうだよな…。待つしかないなぁ…』

 と独り言のように返してから、

 

 いつもの少年時代の衣服のある

 場所で休んでいるノーラをみて、

 何とも言えない表情のまま、

 軽く触れて撫でる


 ディルベットとブルーノの妹は

 庭と村の中を…。セタの半従者の

 坊主頭の男は、ブルーノの弟と一緒

 に村外れの小屋"人工楽園"と

 その道中を探しに行っている状況だ


 すると…

 部屋の扉を小突く音が聞こえた


 セタは起き上がり

『……誰だ?ディルベットか?』

 と言いながら扉に近づくと


「にゃお~ん…」とネムコを下手に

 真似た人間の"鳴き声"が聞こえた…


(うん…?コレは……??

 何だ??…

 イーシャ…。なのか?)


 と…眉をひそめつつも、期待を

 僅かに秘めながら扉を慎重に開けると…


 髪を下ろした見慣れない格好の

 クリスが立っていて、

 その腕の中には探していた

 イーシャがおさまっていた


『ああ…。クリスか…。イーシャを?

 どこで…?』


 と安堵と共にセタが質問すると、

 クリスは「内緒です…」と返答して

 抱いていたイーシャをセタに渡した

 

『……ありがとう。いなくなって

 心配していたんだ…。よかった…

 なぁ?イーシャ?』


 とセタがクリス、そして

 イーシャに話しかけると…


 イーシャは「なぁ~ん…」と不服そう

 に鳴いてから、するりとセタの腕から

 床に降りてしまい…クリスの足元に

 擦り寄った…


『………どうした?』とセタが

 漏らすと


 クリスは「ふふっ…」と微笑んでから

 しゃがみこんで、イーシャを撫でると

「この子…」とつぶやき、顔を上げ、

 セタをじっとみて…


「寂しがってましたよ…。

 ちょっとスネているようですね」

 と伝えた


 セタは『ああ……。そうか…

 すまん…』と身に覚えがあるようで…

 

『とにかく…。ありがとう…

 クリスに感謝する…。もう

 寂しい思いはさせない…』


 そのセタの真剣な眼差しと返答に…

 クリスはニッコリと笑みを浮かべて

「はい…。お願いします」

 と伝えると、目一杯にイーシャを

 撫でて、存分に甘えさせ…

 優しく抱えながらセタの部屋に入る


 そして寝台の上、ノーラの傍で横に

 なって休んだのを確認してから

 セタの部屋を後にし、すぐ近くの

 神官宿舎に戻っていった


 メルコインはその一部始終をみて、

 クリスが帰った後…


「何だか…。すごく若いのに…

 落ち着きがあって…

 すごい人ですね…。神官様…」


 と感嘆の声を漏らし、セタは


『……ああ。そうだな…。

 イーシャが家出先に選んだ

 理由がわかったよ…。(接触が)

 少ない中でも、よく人をみて

 いたんだな…イーシャは…


 前にここにいた同い年の神官と…私が、

 まるで子どもみたいだ…』


 と言ってから、ため息をついて


『何にせよ…。アレだな…。

 当たり前なんだが…二人いる場合は、

 "人間の子"と同様に、ネムコにも

 愛情を均等に与える、注がないと、

 駄目なようだな……』


 セタは、イーシャのことを"子ども"

 であると考えながらも、ノーラを

 好きになって変身してしまった経緯

 から…同じネムコ好きの同士という

 よりも"ノーラ好き"の同士とみていた…


 つまりは、イーシャもノーラが好きなの

 だからノーラを優先するのは当然である

 と考えていた…


 そしてその積もりに積もった心の反動と

 反発が、ネムコであるイーシャの今日の

 わかりやすい行動にあらわれた


 ノーラに寄り添い…くっついて眠る

 イーシャをみて…


(お前も立派なネムコなんだよな…)


 とセタは認識を改めると…ノーラの側

 に偏り過ぎていた自分の無意識、過剰

 な愛情の加減と、その至らなさを

 "主"として、二人の親として…悔やんだ

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