第77話『日向ぼっこの慣れのあと…』
いつもの食卓…
宿一階の客間
人間七人、ネムコ二人
前神官のサラ、その従者のクロとアミス
は村から居なくなり、食事を共にする
人間はだいぶ入れ替わった
人数の割には、特段の話題は無い…
ファルが買い物という体で旅に出て
いるくらいだ
そんな中、長身細身の坊主頭、
半従者の男が
「今日はずっと晴れそうですね…」
と"何気なく"を装って
セタに天候の話題を振った
村の主の娘であるセタは、
『ほうだなぁ~…。はぁ~あ…』
と少し長めのあくびで反応してから、
周囲をみて
『なんだぁ…?私だって、アクビくらい
はするんだぞ。人間だからな…
それはそうと…』
と言ってから足元のネムコ達を
チラとみて
『今日はいい天気みたいだから、
ノーラとイーシャと一緒に
庭で日向ぼっこをしようかな?』
と独り言のようにいった
以前はネムコが外に出てしまうことに
神経質になることがあったが…
もう大丈夫だ…という確信があった
ネムコは自分の領域から出ていかない
ことがわかった
宿の庭からセタの研究場の小屋
"人工楽園"までの道中、そして
小屋の周辺までが、ノーラとイーシャ
の外部の領域となっていて、そこを
外れて出てしまうことが無いとわかった
だが、"慣れ"というのは恐ろしいもの
で…
セタが村特産の絹を使用したネムコの
肉球模様入りのハンカチを顔に掛けて
日差しを遮り、庭の長椅子に足を投げて
横になって休んでいると…
ネムコがお腹に乗ってくるのがわかった
ちょうど日差しが雲に隠れていて、
爽やかな風が、現実を忘れさせてくれる
"淡い夢の如く"さらりと吹き…心地よい
(んん?…この座った感じと重さは…。
間違いなく…"私の"ノーラだ)
とセタは手探りで柔らかであたたかい
獣の毛を撫でながら…
(あ…?
イーシャは…。すぐ近くにいるの
だろうか?…)と気になり、顔の
ハンカチを取り、横を向く
…が、庭には誰もいない
目の前、自分のお腹の上にいるのは
やはり"ノーラ"であり、イーシャは
見える限りでは近くには居ないよう
であった…
(ああ…。もしかしたら
宿の中に入ったのか?)
と思いセタはノーラを落とさないよう
に慎重に起き上がり、再度庭の周囲を
確認してから、ノーラを連れて宿に
入った…
宿の扉は開いていて…受付には
いつもの老婆の奴隷がいて、
手のひらにおさまる大きさの
藁人形を作っていた
『なぁ?…ネムコ、"イーシャ"は
見なかったか?』
「はい?…」と手元に夢中でセタに
気づいていなかった老婆が顔を向けて
「…ネムコ?…イーシャ?……
いいえ…通ったのは見てないです」
『そうか…。だが、その様子からして
通り過ぎたのを見過ごした可能性も
あるな…』
「あっ…。そうかもしれません。
もうすぐ完成するので夢中になって
しまって……うん?
あら…こんな近くにノーラちゃん♥
日向ぼっこをしていたの?」
受付の台にひょいと上がっていた
ノーラが「あ~ん」と老婆に鳴いて返し、
老婆の手元にある藁の人形の匂いを
スンスンと嗅いでから…その持つ手に
顔を擦り付け…人形がコテンと台の上
に倒れる
『その人形は?』
「ああ…コレですか?…
見ての通り、ノーラちゃんですよ」
と老婆はノーラを撫でながら答える
『………コレが?』
「はい…」
『ふぅん…。なるほど…
う~ん…。…そうか。
ネムコは"そう"見えているのか?』
「はい…。四足で耳と尻尾がある」
『"小さな馬"かと思った…』
「まぁ?…そうですか?」
『………いや。だが、愛情を
注いでもらっているのだから
感謝すべきなのだろう』
とセタは言ってから
『ノーラ…もういいだろう
部屋に戻るぞ…』
とノーラを呼んだ
セタの方を振り返ったノーラは
「あーん」と一鳴きして台から降りた
今のノーラは、やんちゃな感じで、
少し気分が高揚しているようだった…
セタは、何となく…イーシャがまだ
いなかった頃の甘え上手で子供っぽい
ノーラに戻ったようにみえた
『ところで、その"動物の"藁人形
…完成したらどうするんだ?』
「はぁ…。そうですね。気まぐれで
作ったものですし。用途は決めて
なかったので…
この受付にでも飾って置きます。
もしかして、この人形…
セタ様、欲しいのですか?」
『いや…いらない』
「そうですか…。藁でもこんなに
可愛いのに…」
セタは苦笑をしつつ
『……まぁ、そうだな…。作るなり
飾るなり、好きにしてくれ…
ああ、そうだ!
そんなことよりも…
"イーシャ"は多分、上に上がって
いるのだろう…?
だが、もし…"外から"戻ってきたら
教えてくれ…。ディルベットか
男に伝えてくれればよい』
と伝えた
「はい。わかりました」
『頼むぞ…』と念を押すように言って
セタはノーラを連れて階段を
上がっていった




