第76話『木の葉の存在』
彼女にとっての…ネムコへの
"最初の行為"の日から時は経ち
人間と小さな獣は通じ合って
いなかった…互いの心の警戒を
解くに至る
ノーラとイーシャは徐々に
彼女との距離を縮め、
今では会う度に、セタと同様に
挨拶の擦り付けと、続いての…
喉を鳴らした触れ合いが始まる
そして彼女の日に焼けた肌…
そこにあった無に近かった表情は
自然と緩やかに穏やかになっていた
『ふぅん…。もうお前は
立派な同士だな…』
とかぶりをとり、床に膝をついて
ネムコを迎え入れるように
手を広げ…中に入ってきた柔らかな
存在を夢中に撫でている銀色短髪
の女性にセタはいった
「同士…?ですか?」
『ああ、そうだ!』と
セタは寝台端から立ち上がり
窓際に向かい振り返り…
『ノーラ…』と優しく呼ぶと…
ノーラは反応し、トコトコと
歩き、セタの胸元にひょいと
飛び乗った
『昔な…』とセタは抱えている
ノーラと視線を合わせてから
少し憂い気な表情に変えて…
『ネムコ好きの少年がいて…
そいつが初めての私の同士だった』
と言った
「………はい」と女性はセタの真似を
するようにイーシャを抱えながら
立ち上がって視線を交わす
その様子をみて…セタは微笑み
『…イーシャの方が好きか?』
「………いいえ。どちらも
好きです。ただ…自分に懐いて
いるのはイーシャの方かと…」
『………まぁ。そうだろうな…
ノーラは私に一番懐いているから
仕方がない…』
「…はぁ」
セタはノーラの狭い額に顔を
擦り付けてから…
『私達は…誰よりも愛し合っている
んだ…。ずっと……。
お互いに大好きなままなんだ…』
とノーラと自分に呟いた
★
その帰り。宿の廊下を通り過ぎる
銀色短髪長身の褐色の肌をボロで
隠す、かぶりをした女性は、
ファルの居た部屋の扉をチラとみて
から…小さなため息をついた
ファルは「お母さんは…
少し遠くへ買い物に行くから、
いい子にして待っててね…」
とセタに言い残して、村を出た
セタは憂いの表情など見せずに
『すぐに戻る…。
よくあること…。何度だって戻って
くるから、心配するな…。
まぁ、持病みたいなものだ…
何かきっかけがあって、旅に出て…
またふとしたきっかけで戻ってくる
それがファルという人間なんだ』
と言っていたが…ネムコに触れて
からの帰りには必ずファルのことを
意識して、いつもの自分の"持ち場"
に戻る…
(戻ってきたら…。今度こそは…
会って話してくれるだろうか?)
そう思いながら…
ファルの帰りを淡い恋心と共に
待っていた
ファルが村に戻ってきたら…ネムコ達と
のことや…自分のことを話そうと
思った
嘘偽り無く…。素直に…
心を開いて…
自分を知ってもらおうと…
気づくと夜になり、孤独の闇に潜む
"木の葉の野宿"と呼称される
自分が望んでいたことが、何となく
わかったような気がした…
下手くそな罠に掛かった自分が
腹立たしくなり、仕返しをしようと
思ったが…止めた
傷つけない意味深な"警告"に留めた
相手が掛かることがないかも知れない
罠に…。何かしらの自分の
存在と意味を伝えようとしていた…
(多分知ってほしかったのだろう…
自分のことを…どこかで…誰かに…)
だからこそ…。ファルがその罠に
込めた想いを感じて、受け取って
くれたのが嬉しかった…
(また…。早く、会いたいな…)
彼女は毎日のようにセタのいる宿に
通い、自分を変えてくれた柔らかな
存在に触れながら、その行きと帰り…
ファルの部屋の前を通り過ぎて…
彼女が戻るのを確認する日々を
送った




