第75話『最初』
宿に戻り階段を登り
セタの部屋の中に…
今はかぶりをして隠れているが…
"銀色の短髪"の長身の女性は
二人のふわもふの小さな獣である
ネムコと対峙して
「コレがそうですか…」
とセタに聞いた
『ああそうだ…。可愛いだろう?』
「………どうでしょうか。じっと
瞳をみて、人間を恐れ…
警戒しているように見えますが」
セタはその素っ気ない、状況をまるで
理解できていない"一方的な"思いのまま
の返答に、ため息を付いてから
『なぁ…。さっきは"外"でありながら
開放感無く、非常に重苦しい雰囲気
だったぞ…
それでは相手のココロに重石をのせて
いるようなものだ…。会話をしていて
辛く嫌な思いをさせるだけ…
恐らくは、孤独かどうかは知らないが…
"個人"で動いている期間が長かったの
だろう?…オマエは?』
「…………」
『目の前の対象が…、相手側が何を
考えているのか?考えたことは
あるのか?』
「………ありますよ」
『そうか…。ならば、だいぶその
認識にズレがあるようだな…』
「………どうでしょうか」
『…まったく。話にならないヤツだな…
目の前の情報をありのままに伝えるの
だけは得意かも知れないが…
裏にあるものを読み解くことが
出来なければ…他人と深く関わる
上で、色々と大変だぞ』
「……………」
『すまない…。説教みたいに
なってしまって…。だが…。
ちょっとでも相手のことを
断定せずに考えて上げてくれ…』
「……………」
『私の可愛いネムコ達は…
オマエのことを警戒している…
それは、"何故"なんだろうな?』
「………人間が怖いからでしょう」
『……………初対面のよくわからない
"重い気"を纏った人間をみれば…
人間の私だって警戒する…。
そうじゃない!』
そう伝えてから、セタは二人のネムコ
ノーラとイーシャに近づいて、屈んで
から、微笑みを浮かべ…額から
背にかけて優しく撫でる…
『こうやって、警戒を解くんだよ…
私の子どもたちは…基本的に
人間には慣れている…
初対面であっても、心を開いて
接してくれる人間には、逃げずに
触れさせてくれるんだ…』
「…………」
『すべてを開く必要は無い…
ちょっだけでいいんだ…
優しさが伝われば、受け入れて
くれる…
それは、ネムコだけでなく、人間で
あっても同じだろう?』
「……………今日は帰ります」
『……そうか。"今日は"…というの
ならば、"次も"来るのだな?』
「……………考えます」
『………別に無理はしないでいい。
心を開け、優しさを見せろ、と言うの
は…こちらから望んで叶うモノでは
ないからな…。自然と溢れ、出て来る
感情の代物だ…。私の言っていることが
間違っていると、否定してもらっても
構わない……。だが、それでは……。
今の心持ちでは、ファルに会わせる
ことは出来ない…』
「……………僕は」
『…………何だ?』
「………僕は、彼女を好きになった
だけです。なのにそこまでの
ことを言われる筋合いは無いと
思います」
『………………そうか。
わかった…。受け止めたよ…
オマエの気持ち…
ならば私はもう一切、関わらない、
好きにしてくれ…』
「はい…。また会いに来ます」
『…………』
セタはネムコ達を撫でる手を
止めて、立ち上がると…
窓際に移動して、窓を開け、
金髪を撫でる風を感じつつ…
気分を替える為の呼吸をしてから
『ふむ。いい天気だな…
雲ひとつ無い…青空だ……
こんな気持ちの良い風の
吹いている日は、
それだけで、
幸せになれる気がする』
そう独り言のように呟いてから、
振り返ると…
女性はかぶりをとって、
床に手と膝をついて、
四つん這いの状態になっていた
『…………どうした?』
とセタがその様子について
尋ねると
「…………あ"あ"~ん」と
低い声で鳴いた
どうやらネムコの真似を
しているようだ…
セタはその意味を考えながら
しばし黙ってその様子を見守る
女性は長身であるがゆえに
四つん這いになっても視線が
だいぶ高いことが気になったらしく
さらに床に顎が付くくらいまでに
姿勢を低くした
『……………』
そして、
「…あ"あ"~ん。ゴロゴロ…」
と鳴らしながらノーラとイーシャに
近づこうとしたが…案の定、
二人のネムコは怖がって、
セタのいる窓際にトトトと移動して
セタの足元に擦り寄り、その後ろに
隠れてしまう
女性はその様子を見て
ガクリッ…と頭を垂れた
一連の"奇妙"と呼べる行動の理由が
何となくわかったセタは、足元のノーラと
イーシャに(大丈夫…)と小声で伝え
触れてから、四つん這いの状態の女性に
近づいて、その頭に触れて、撫でる…
女性が「はっ!」と顔を上げると
セタは、
『まっ…。"最初"にしては…
いいじゃないか?』と言って
微笑んだ




