第74話『得も言えぬ正体と…。身近なブルーノの発想』
喉を度数の高い酒などで焼き切る、
という通常ではやることのない行為
は、声質を変えたいと願う歌手等に
見られる
高く美しい声よりもしゃがれた声
かすれ気味の男らしい低く重い声
にする為に、"あえて"そうするのだ
・・・
ネムコの研究場であった小屋
人工楽園…その扉の外の路面
セタが青年と思っていた対象は
日陰から日の当たる場へ出て来て
粗末な深緑色のボロ服のかぶりを
取ると…
その姿は想像とはまるで違った
色白の"好青年"…ではなく
そこには片目に傷を負った
銀色の短髪、日に焼けた肌の
長身の女性がいた
『驚いたな…。声と背の高さから
女性だとは思わなかった…
…念の為確認するが、女性…
だよな?
"男らしい女性"…か?』
セタの問い掛けに
「いいえ…。僕は"男"ですよ」
と銀色の髪の人間は答える
セタは次の言葉をどうするべきか…?
逡巡、考えてから
『……わかった。そういうことに
する…。理由があるのだろう?』
「………どうでしょうか」
晴天の下、互いの沈黙の間に
時が流れる。セタは視線を逸し
中空をみて、独り言のように
『…………まぁ、とにかく
その"素顔"を伝えておくよ…
ファルは何かを感じ取ったの
かもしれないな…』
「………どうでしょうか」
セタは少し…というか"だいぶ"
会話に苦しんでいる立場の自分
がいることに気づく…
(ああ、これか?…ファルの
感じた得も言えぬ"正体"は…?)
と、感覚的に思いながら、
『…………愚問かも知れないが
"真剣"なのか?…アイツは
あのように目がみえない…
一筋縄ではいかない…。
そして、かなり…
"変なやつ"だぞ…』
「………いいんです」
と嘘偽りのない片側のみの
真っ直ぐな瞳をみて、
セタは一瞬、人間であった頃の
ノーラ少年の瞳を思い出した
『………そうか。まぁ、
頑張れ…。話しはいつでも
聞くから、思い詰めないことだ…
恋の病というやつは…自分を
見失い…変なことをしてしまう。
私もその経験があるから…
よくわかる』
「……はい。気をつけます」
『……話しは変わるが、明日、
またここに来れるか?今の
任務から想像するに…宿には
来れないのだろう?』
「………はい。ミール様の許しが
無ければ」
『ほぉ…。アイツの"許し"が必要
なら、問題無いな…。では、
今日、このまま宿に来い…』
「宿に…?いいんですか?」
『ファルのことは問題無い…
素顔を伝えれば…きっと
変なことにはならない…』
「いや…彼女のことではなく、
ミール様にバレたら、
僕はクビになります」
『ふふ…。お前はこの仕事を
終えるつもりだったのだろう?
そのほうが、都合がよくは
ないのか?』
「……彼女と一緒になれるのなら
という条件、前提があって。の…
行動の話です」
『そうか…それはすまない。
ではミールの許しは私が必ず
得られるようにするから、
来い…。断っても別に構わないが
…どうする?』
「…わかりました。ある程度知って
いますが、みせたいモノがあるの
ですね?」
『そうだ…私の子どもを紹介しよう
と思う…』
「はい…。では、いきます…
ただ、彼女には会いません」
『……わかってる。私も
会わせることはしない…
色々とその人間のことがわかって
伝えたいことを伝えるまでは…』
「…………早く行きましょう」
『…ああ、そうだな。
行こう…』
・・・
ブルーノは先に村に戻ろうと歩く
ファルを追って、息を切らして
ようやく追い付いた
「はぁ~。ねぇ~さん、すっごい
早足で…。はや~い!!」
『…なぁに?』と足を止めるファルに
ブルーノは
「なぁ~に。じゃないですよ!
何ですぐに居なくなったのぉ?
困るじゃない」
『…困る?
誰が?』
「えっ…?
うちが…」
『へぇ…相手じゃないのね?』
「…あっ。いや…そうじゃない
相手も困る…」
『いくら貰ったの?』
「……!!」
『アナタが他人に無償で恋路のつなぎ
役を担うなんて、らしくないわ…』
「…………」
『ふふ…。半分よこせなんてケチな
ことはアナタには言わないわ…。
でも恋の行方は、誰にもわからない
ものよ…』
「……じゃ、ファルさんは
さっきのやり取りの通りということ
ではなく、それ以上は無い…という
ことでもないということ?
何か、自分で言ってて
意味がよくわからないけど…」
『ふふふ…。さぁね…
私だって"乙女"だから、
どうなるかなんて、わからない…
でもさっきは、無理だと感じたの…
それであの場所に、閉じられた空間の
中で息をするのが苦しくなって、出て
来たの…。出てしまったの…』
「………そうですか。では、野宿さん
にも、まだ挽回の余地はある…と?」
『さぁね…。そんなことは…
さっきも言った通り、誰にも
わからないわ…。自分でもよく
わからないから、そう確信を持って
わからないと言えるのよ。
…わかる?』
「…………ぶっちゃけ。
あんまり…。てゆぅ~か。まったく
わからない…
性的に好きなら好きで、
嫌いなら、嫌い…。お金が好きなら
お金を得るために付き合う…
それだけでしょう?…恋やら婚姻
なんて…。対価を得るための契約や
行為に過ぎないでしょ…?」
ファルはブルーノの発言を聞いて、
しばし黙った後…
唐突に笑い出した
「なぁにが、そんなに"おかしいん"
ですかねぇ~?」
と不満顔のブルーノに
『…ごめんね。ちょっとツボに入って
自分の"変な所"にそのアナタの考え
と"発想"がハマってしまって…。
こんなにアッサリと恋という難問に
合理的に"モノ"を言う人間が、こんな
身近に居たことが無性に可笑しくて…』
「…えぇ。そぉ~ですか?もぉ…
そんなことないですよ…
普通ですよ…ふつう」
『そう…?…笑わせようと
していない?』
「してない!」
『ああ…そうなのね。
"天然物"なのね?』
「……テンネン?」
『まあいいわ。…面白かったから
よい買い物になったと思って…
"今日の全て"を納得することに
する…。うん…いいでしょう』
「はぁ…。で、もう終わりですか?
そこをはっきりさせてくれないと
お金を貰っている以上は、困ります」
『アナタが…ね?』
「はい、その通り。
そうですよ!」
『じゃあ、返金しなさい』
「いやですぅ~…絶対に
"お金"は返さない」
『そう…じゃ、
好きにしなさい。早く
帰りましょう…』
と言って歩き出すファル
ブルーノは
「もぉ待ってぇ!…ホントのところを
はぐらかさないで、
ちゃぁ~んと、教えて!
答えてよぉ~!」
と…嘆きながら、
早足で歩くファルを追った




