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第68話『孤独な物語』

 偶然…なのでしょうか?

 それとも運命なのでしょうか?


 セタ様が家出をして…この宿に来て…

 出会って…あのノーラという少年を

 探して…その流れで私は…


 奴隷から今の"身分"になった…


 それは喜ばしいことです。夢のような

 ことです。心のどこかで常に望んでいた

 ことです…


 生きる希望は…目的は、ただ常に…

 セタ様の元でセタ様の為に生きる

 ことです


 神様…お願いします。主のセタ様と、

 一生付き添えるようにして下さい


 死ぬまでお供をさせて下さい…

 お願いします…。あとは何もいりません

 それ以外は、望みません…。だから、

 どうか…。最後の日まで、ずっと一緒に

 …幸せなまま…居させて下さい。


 ・・・

 

 セタの従者である少女、ディルベット

 の仕事は奴隷時代と何ら変わらない


 変わったのは立場だ…。平民…しかも

 村主の娘であるセタの従者だ…


 ディルベットは誰に何か余計なことを

 言われるでなく基本的には自由だが…

 セタの為に尽くす…という原理原則が

 常にあり、そこから行動が外れること

 はない…


 が…。短い旅を終えて、別の目的が

 生まれてしまったと感じている


 ブルーノの妹と弟のことだ…

 半分は…。連れ帰ると言ったファルの

 せいではあるが…。ディルベットも

 その意見と行動を支持した


 ブルーノにはファルから説明したが

 彼女は母親に愛情を抱いているらしく

 何とも言えない表情をしていた…


 少女はその顔をみて…

(なんであんな母親と呼べない酷い人間

 を…愛しているのだろうか?)


 と率直に思い、

 その理由をファルに聞いてみると


「それは、色々あるのよ…。血の繋がり

 もさることながら、まあ…こういって

 はなんだけど…。うまく使われている

 ということね…。


 でもそれが本当であるか、嘘であるか

 …は本人にとってはどうでもいいのよ…


 確かにあの酒飲みのロクでなしの母親は

 言葉では"アイシテル"と言っている…


 それを信じたいと思うじゃない…

 良くないところは、可能な限り目を

 瞑って、あまり見たくないモノなのよ…」


 例のよくわからない酒飲みの男のことも

 ブルーノには伝えたが…


「アレは、ただの母の飲み友達だと

 思います…」


 という認識でいた


 その男も含めて、酒と金をせびっている

 だけ…とファルが遠慮なく伝えても…


「頼られるのは悪いことではないので…」


 と返答をした

 少女はもどかしさや苛立ちよりも…

 ただただ疑問が浮かんでいる状態だった


 自分の認識が間違っているのでは?

 という気にもなった


 生まれ落ちたときから奴隷の身分で

 母親の顔など覚えてはいない…

 名前も声も…何もわからない…


 ただセタのことを母に見立てて

 甘えてしまうことが…以前は多くあった


(今の自分は…なんなんだろう?)


 と考えてしまうと…少し身震いして

 しまう自分がいる


 ディルベットは、少女は…


 アイデンティティ、自我の芽生え…

 等と事象を説明しても…答えの見えない

 怖さがあらわれていることを…自分では

 ない自分という存在を、認識して…


 意味を持たせようとする、別の自分が

 それを見ているように感じながら…

 ぼんやりとした意識が、徐々に現実に

 重なって、合わさり、"自覚"をする…


 そんな多感な時期に…

 現在(イマ)、差し掛かっていた

 


 

 ・・・



『なあ?…ディルベット』



「はい…なんでしょうか?」



『実はな…。ブルーノとファルには

 許可を取っているのだが…


 あの連れ帰って来た"幼い二人"…

 名前が無いのだ…。付けてくれ』



「はい?…」と少女はセタの髪を

 梳いている手を止めた



『……名付け親だ』



「………親…?ですか?」



『そうだ…。名付けの…親』



「そんな…。無理ですよ…。

 私はまだまだそんな…


 とにかく無理です…。セタ様か

 ファルさん、もしくはお姉さんの

 ブルーノさんが付けてあげて

 下さい…」



『…だからはじめに言ったろう?

 ブルーノもファルもそれで

 いい…と言っているのだから

 今、お願いしているところだ…』



「では、セタ様の方でお願いします」



『いや…それは筋が違う。あの二人は

 ファルとディルベットのお姉さま達が

 その場の"熱い想い"のままに…

 連れ帰ってきたのだから…まずその

 責任を取るのはファル…もしくは、

 ディルベット…。お前だ…』



「………ファルさんは?」



『ファルは…ディルベットでいいと

 言っている。何度も言わせるな…

 諦めろ…。頑張って考えてくれ』



「…ひとまず。ファルさんに

 聞いてみます。それから

 決めます…」



『そうか…。ではあとは、ファルと

 ディルベット、二人のお姉さま達の

 中で決まる…ということだな。

 うん。よかった…』



(もぉ…。よくないですよ)

 とディルベットは思いながら

 セタの髪を梳く手を再度動かす



『………名前を付けるのは、すごく、

 大変だぞ…。私も…従者の名前を

 付けるのはとても大変だった』



「でも、ノーラは…。早かった

 ですね…。それと…私のかなり

 あとに来たはずの、イーシャは…」



『…………イーシャのこと

 知っていたのか?

 "お前の前に付けた"とは言って

 いなかったはずだが…』



「セタ様がイーシャと呼んでいるのが

 …部屋から聞こえてました…。


 あと、セタ様がイーシャとみんなの

 前で呼んでいるときもありました…」



『…そうか。う~ん。

 まったく覚えていないな…

 呼びかけは、"小声"ではなかったか?

 気を使っていたつもりだったが、

 すまなかったな…』



「…別に怒ってませんよ」



『……そうか?』



「そうです…。もうそんな

 終わったことを思い出して

 怒ったりはしません…」



『…ふむ。前向きなのは…

 よいことだ』



「………"ネムコ"は…なんで

 すぐに名付けることが出来た

 のですか?」



『それは…。不思議なんだがな…

 うん…?


 いや…。ちょっと待てよ…

 違うな…。私は"ネムコ"を

 名付けたわけではないぞ…


 ネムコの前の状態から

 名付けたんだ…。意味が

 わかるか?』



「……ちょっと、わかりません」



『そうだろうな…。もう元の状態から

 だいぶ変化してしまったから、

 あとは信じるか…信じないか、

 の単純な話になる』



「……何ですか?信じますから、

 教えて下さい」

 と伝え、手を止めるディルベット



『……………う~ん』


 とセタは自分の髪を触ってから

 振り返って、少女をみて…

 ついで、寝台にいる"二人のネムコ"

 をちらとみて…視線を戻し


『あの姿は…本来のモノでは無い』

 

 少女は「あの姿…?」と言って

 寝台のネムコをみて視線を戻し


「今の小さなふわふわの獣の姿が

 …?ですか?」



『元は人間だ…。"ノーラの方"が…

 この宿の奴隷であった少年…

 失踪後、探すのを手伝ってくれた

 …お前も覚えているだろう?』



「…はい。もうおぼろげですけど」


 セタは少し寂しげな表情をして


『そうだろうな…』と返してから


『で…"イーシャの方"が、この村の

 養蚕場で働いていた…。こちらも

 奴隷の娘だ…


 正しくは、ノーラの方は、私が

 あとで買い取ったので、元奴隷で…

 今は立派な…

 "平民のネムコ"だがな…。


 そして、イーシャがもし元の姿に

 戻ったら、私は買い取ろうと思って

 いる…。今買い取るとなると…色々

 と理由を付けるのが面倒…という

 よりも、難しい…。あの獣の姿では

 説明が出来ないだろう…』



「…………あの。セタ様?」



『なんだ?…信じられないか?』



「………あの。すみません。

 申し訳ありません。


 何だか……

 セタ様が"ネムコの遠い夢"を

 見ているのかと…思ってしまって」



『…………ネムコの遠い夢か。

 夢であって欲しいと…心のどこかで

 思っている。だが、夢がさめたら、

 二人のネムコはどこにいってしまう

 んだろうな?


 せめて元の姿の…ノーラとイーシャは

 返して欲しいな…。そして一緒に

 ネムコを飼いたいな…』



「……………」


 ディルベットはそんなセタをみて

 言葉を失い。何も言えなくなっていた…


 嘘を付いているのではない…

 と思いながらも、セタがどこか別の

 領域(ばしょ)に意識がいっているのでは?

 と思ってしまった



『この話しは、"内緒"にしてくれ…

 お前の顔を見て…。やはり、誰で

 あっても、ネムコについては、

 "本当のこと"を話すべきではない…

 ということがわかった


 幽霊にはわかっても…生きている

 人間には理解出来ない範疇なのだろう…


 ファルにも、サラや、クロにも…

 誰にも言っていない…


 伝えたのは、私のただ一人の従者で

 ある…。ディルベットだけだ…』



「…………セタ様」



『忘れてくれ…。この話は、

 私の夢の中で完結する…

 もしかしたら完結しないで、

 終焉(おわり)を迎えるかもしれない…

 孤独な物語だ』



「…………」



『だから、私のことを変な目で

 見ずに、普通にしててくれ…』



「………はい」



『……それでは、二人の名前の件、

 頼んだぞ…』



「…はい。わかりました……。

 やっぱり、"私が"考えます…

 ファルさんが私で良いと言った

 のは、何か理由があると思うので」



『そうか…。頑張れ…

 ただ…悩みすぎないようにな…』



「はい…頑張ります」

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