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第67話『正解』

 帰りの馬車の中…

 遠ざかっていくメイガンの街…


 通り過ぎる景色と住人をみながら

 ふと…。ディルベットは思い付いた

 ように、小さな窓から目を離して、

 横を見て、

「ねぇ、ファルさん…」と呼んだ



『うん…?どーしたの?』



「ファルさん…。さっきまでいた

 街は…ストーン教の信仰があって

 成り立っている…と、

 以前、神官のサラ様が言って

 いるのを聞きました」



『……ふん。それで?』


 と返すファルは、先ほどの"千年花の

 果実"の瓶入りの飲料をちびちびと…

 未だに飲み終えずに口をつけている


 酸っぱいものがあまり好きではない

 とのことで…別途購入していた水で

 薄めながら、少しずつ飲んでいた


「もしそれなら、信仰心から

 …あのような振る舞いが

 街の中で生まれ、許されている

 のは…何ででしょうか?」



『"あのような"…とは?』



「……その。寝ていると思います

 けど、二人が隣にいるので」


 ブルーノの妹と弟は、少女の

 両隣にくっついて休んでいる


 二人は歩き疲れていた…

 朝から少女と一緒に街の中を

 歩いて回っていた


 ファルはそれとは別に行動をして

 物珍しいモノを探していた

 すると…少し前に流行っていた

 という"目玉の真珠"を二つ拾った


 拾ったあとに物知りのブルーノ

 の弟が教えてくれたのだ


 売っていた露天商はだいぶ前に

 街から居なくなっていて、その後、

 街の中にはポツポツとその少し

 気味の悪い真珠が落ちているの

 が発見されるようになっていた


 ファルはその真珠の廃れていく経緯(いきさつ)

 何となく気に入っていたが…。

 幼い二人の物欲しそうな声に負けて、


『"子ども"はこういうすべすべの

 丸っこくて小さな"石ころ"が

 好きだからね…』


 と二つともあげることにした

 ファルはサラとセタがこの真珠の石ころ

 を買っていることは知らなかった


『…寝る子は育つ。私の可愛い子供…

 寂しがり屋のセタちゃんも、夜泣きを

 せずに良く寝ているかしら?


 帰ったら"いい子いい子"して

 愛を込めて撫でてあげないとね…』



「セタ様は、ファルさんの

 ネムコなんですね…」



『…ふふん。そうよ…。もう

 誰にもあげないんだから…』



「…………はい。で…その

 出来たら、さっきの答えを…」



『…………ああ、そうね。信仰から

 生まれる"愚行(アレ)"を許すという

 云々についてね…。


 まあ…答えになるかはわからない

 けど…。人間は所詮、人間なわけ…

 人間を脱しきれないの…


 欲望があって、欲求があって…

 それを理性で我慢する、抑制する

 それが出来ない輩がたくさんいるの…』



「……はい。それはわかります

 でも信仰がそれを何とかすることが

 出来ないのは何故でしょう?」



『…そうね。何故なんでしょうね?

 全員が教えに忠実に従う、

 敬虔な信者、立派な人間であれば、

 それも可能かも知れないけど…


 そんなことは絶対にないから…

 私のような神を信じない人間もいる

 し、度合いは人それぞれ違う…


 あの酒飲みの女と男は元はどうだか

 知らないけど…信仰から遠くにいる

 存在なのは確かね…


 フレアの…

 特に上の連中のように…


 表向き信じているように装い、

 教団に多額の寄付をして、商いを

 独占し、利益を享受する人間もいる


 あからさまだけど…。組織を維持する

 上で、お金は誰にとっても大事だから

 ね……。もうここで信者にとっては

 聞きたくはない不純な動機、矛盾が

 生じているでしょう?』



「…………」



『まあでも…。無いよりはマシね…

 信仰心が人を救うこともある…

 悪い人間をみて、その行いはいけない

 ことだと正義を語ることもある…


 でも、悪いことを正すには、

 愛や優しさとは別の、力がいるの…


 鞭打ちの罰を与えるとして、それを

 執行するには捕らえるための腕力と…

 報酬。何よりもその行いが正義である

 という証明が必要で…。


 それは、平等で客観的な視点…モノの

 見方が無ければ出来ない…


 そしてそのモノの見方と下された結論

 結果の正当性を担保するのが…多数の

 信仰の総意であり、信じる者の教義と

 なる…』



「…………」



『ちょっと難しい?』



「はい…」




『そうよね…。私は目が見えないから

 余計なことをいつも考えているの…

 …正解がありそうで無い…そんな

 意味のない考察が好きなのよ…


 ……うん?考えごとしてる?』


 ディルベットは時間を置いて

 口を開く


「………信仰はある程度役に立つけど

 それはすべての人間を救うには

 足りない…ということでしょうか?」



『………』



「…どうしました?"あたし"…

 変なことを言ってますか?」



『……いいえ。どうしてセタの従者で

 ある、まだ若い少女のアナタが…

 そこまで物事を考えているのか?


 ちょっと考えていたの…。そして、

 今アナタが、ディルベットが私との

 対話を通じて考え、自分で言った

 言葉が…導き出した答えが、

 多分、正解よ…』

 


「………正解」



『そうよ…。正解。普段…どこで

 そんな知的な会話(はなし)をしているの?』



「それは…」



『…もういないけど…クロ?

 それとも、サラ?


 …私では無いわね。二人だけの真面目な

 話しは、今日が初めてだし…』



「……内緒です」



『………そう。あのお兄さんでもないわね。

 真面目な話しをしてることもあるだろう

 けど…。そこまで深い話しをし出したら、

 茶化しはしないけど…あの本音を言わない

 恥ずかしがり屋の性格。そこまで会話に

 のってくれるかしら?


 …ラナのおばばも違う…』



「………」



『残っているのは…。ネムコ…

 それも村の大きなネムコさん』



「……"ネムコでは"ないです」



『アナタにとっては…でしょ?』



「はい…。ただ一人の主様ですから」



『そう…。見かけによらず、陰では

 素晴らしい教育をしているのね…

 その主様は…』



「はい…。髪を梳かしているとき

 いろんな話しをしてくれます…」



『その"理由"は…わかる?今回の

 旅もそうだけど…』



「はい…。よくわかってます」



『………ディルベットは、

 きっと…。私よりも賢く、

 そして強くなるわ…』



「……そうでしょうか?

 まだ、自信はないです…」



『……アナタは大丈夫よ。

 "はい"と言って…』



「…はい」



『……その場合は、"いいえ"と

 言ってみなさい』



「……?」



『素直過ぎるのよ…。アナタは…

 それでは心が読まれるわ…

 ときには、特に交渉においては、

 わかりにくい思考を相手に見せ

 つけるのも重要よ…』



「………そうですか」



『……ごめんね。そんな小狡い

 ことを教えるのは、まだ早い

 かしら?』



「……いいえ。ファルさんを

 見習って、学んでいきます」




『………自分で言っておいて

 なんだけど、複雑ね。こんな

 ことを教えないといけない

 世の中があるということは…』



「……人間は複雑で、単純な

 生き物ですから」



『なにそれ?…突然、面白いことを

 言うのね。…誰かの受け売り?』



「ファルさんが以前、ご自分で

 言ってましたよ…」



『…そうなの?…いつかしら?

 …忘れたわ』



「ごめんなさい。嘘です…」



『…………"特に意味のない"

 嘘を言った目的は?…

 単なる会話上の"おふざけ"

 かしら?』



「こちらの思考を読まれない為…

 相手に何を考えているのか?

 を悟られないためです」



『そう…。わかった。

 それでいい…。上出来よ…

 ディルベット…』



「………ファルさん?」



『なに?…質問?』



「もし…セタ様がいなくなって

 しまったら、どうしますか?」



『……それは、どういう意味?

 思考を読まれないための…?』



「いいえ。違います…。そのままの

 意味です。眠れない夜や寝る前に

 ふと、考えてしまうことなんです…」



『…そうね。ま、悲しむでしょうね。

 でも…私はそのまま衰弱して死ん

 だりはしないわ…。セタの分まで、

 生き続けるから…。セタもそれを

 望むでしょう』



「…そうですよね。"あたし"も…

 私も…同じです。以前は死ぬことを

 考えたりもしましたが…。最近は、

 セタ様が望むことを考えれば…

 生きることが正解なのだと。…自然

 なのだと気づくことが出来ました」



『………そう。まぁ、もしそうなったら

 セタにソラから見守られながら、

 一緒に旅でもしましょう…』



「………それは悩みますね。

 セタ様のお世話を…

 お墓の掃除やお花の交換をする

 のは、従者の役目ですから…」



『毎日しなくたっていいじゃない…

 セタなら十年に一回でも

 怒らないでしょ?』 



「怒らないと思いますけど…

 義務ですよ。大好きな主様を

 慕い、想い続ける従者の…」



『……そう。勝手にしなさい』



「はい…。勝手にします」



 ファルは『話し疲れたから、

 ちょっと寝るわ…』と伝えてから


(腹の立つことの多い"最悪な旅"

 だったけど…


 終わりの方は、とても

 "有意義"だったわ…)


 と心中呟き、


 セタのこと…横にいる頼もしい

 セタの従者であるディルベット

 のことを想って…


 何とも言えない未来への安堵感

 を胸の中に抱きながら眠りについた

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