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第64話『欠けている者』


 去り際、帰り際…


 褐色の扉の外…。コツンと…無造作に

 転がり足元に落ちている腹立たしい存在

 の空の酒瓶…。先ほどまで対峙していた

 愚かな人間が"飲み干したと思われる"

 モノを再度手に取ると、


 ファルは…距離をとり、振り返る

 反動のまま、おもいきりぶん投げた


 酒瓶は家の扉の少し上、白塗りの壁面に

 当たって"見事に"砕け散った…


『ふぅー…』と行為そのものよりも

 それ以上の言いようのない怒りと…

 苛立ちにより"無駄に"

 乱された呼吸を整える盲目のファルは、

 その破壊音を聞いて


『"薄っぺらな素材"だから…

 こうなるのよ。このくらいの

 衝撃で、脆く簡単に壊れてしまう…

 くだらない屑以下の輩は、連中は

 常に………いつも、総じて、


 相手にするだけ時間の無駄…

 ということね』


 と台詞を捨てるように吐いてから、

(切り替えましょう…ファル、今は…)

 と自分に対して心中呟いてから

『うん…』といってゆっくりと

 深呼吸をしてから、振り返り…

 すっ…と杖を掲げ、


『さあ、行きましょう…。

 こんなしみったれた欲の渦巻いた

 連中のいる街には居たくないけど…。

 もう、遅いから一泊して帰るわよ』


 とブルーノの妹と弟、そして

 "立派なお姉さん"であるディルベット

 に伝えると、黙々と…。陽が落ちる

 間際の道を歩き出した


 

 ・・・


 南メイガンに着いてからの

 時間まで遡る…


 街には思いの外早くに着いて

 時刻は夕方になっていた…


 トロトロと進む荷馬車ではなく

 フレア商会の人間がセタに気を遣って

 上質な馬車を用意してくれたからだろう


 ファルとディルベットは、ブルーノ

 の妹と弟の案内に従い、二人の家の

 前に着いた…


 その場所は賑わいのある街の通りから

 はだいぶ外れていて真新しい白塗りの

 同じような小さな家が並んでいた


「へぇ…。ここは何だか、

 小綺麗なところだね」


 とディルベットが感想を漏らした


 ここに来るまでの気の沈むような…

 暗い雰囲気の細い路地に隣接する建物

 は、古びて朽ちた粗末な小屋が多くあり

 この場所だけが特に"異質"にみえた



 妹が「うん…。引っ越したの…。

 姉さんが、がんばってくれたから…」


「うん…。前はボロボロだった…」と弟



『ここは元々貧民の住む場所、区画だった

 のでしょう?』とファルが淡々と言った


 ディルベットが少し驚きながら

「ファルさん…。それは…」



『別にいいでしょ?ホントのことよ…

 こんな場所(トコロ)はどこにだって

 あるのよ…。匂いからして違う…。

 鈍くて悪質で安っぽい"病的"な

 空気と"酒の匂い"がするわ』



「でもここは"今は"、綺麗だし…」



『オモテを装っても…。それは

 永遠に脱しきれないモノよ…。

 粗野な貧乏人が金を得て着飾っても、

 上品な貴族様には成れないようにね…』



 ディルベットはファルの言葉を聞いて、

 自分の元奴隷という生い立ちを思い

 起こし黙ってしまう



『さて…。無駄話は止めにして

 "お別れの時間"ね…』



「…………」

「…………」



『どうしたの?家に入らないの?』



「あの…ね」

「…………」



『ここに来るまで、少しずつ

 会話が減って…。足取りも

 同様に遅く鈍くなっていた…。


 それに安っぽい酒の匂い…

 ふふ…。嫌な予感。察するものが

 多分にあるわね…』


 夕暮れに佇む白い小綺麗な小さな

 家の前には…その外観に似つかわしく

 ない空の酒瓶が一本だけ転がっていた…


 ファルは杖先でその存在を

 確認して、屈んで拾い上げると…


『中にはいったい何本あるのかな?

 …恐らくは、この家の酒飲みが

 飲み干したであろう、下衆の臭気

 を発する"コイツ"は…』と言って

 酒瓶を地面に落とし、瓶は底に

 当たる音がして倒れた



「どうでしょうか?…

 この家は、真新しく綺麗なのに…」

 とディルベットが声を漏らす



『さて…。どうしようかしら?

 セタの従者さん?…お姉さん?

 "アナタの"妹と弟は…ここに

 入るのを拒んでいるようだし…』


 ディルベットは「うぅ~ん」と

 唸って考えてから


「……ひとまず"中の様子"をみてから

 それから決めましょう」


 と返した



『…ま、そうね』



「あたしが…」と口をついたあと

「私が…」と言い直して、

 妹と弟の二人を後方にやると…

 ディルベットは進んで

 深呼吸のあとに「よし…大丈夫」と

 声を発し、白塗りに囲まれた

 褐色の木の扉を小突いた


 すると時間を置いて、気怠そうな

 男の声が中から返って来た…


 扉が僅かに開いて

「あっ…。ダレだ?…」


 と少女がいるのをジロリと確認した

 後に扉が開かれ…。無精髭を生やした

 上半身裸の長髪の男が出てきた…


 細身で色黒…手には包帯を

 巻いていて黒い血が滲んでいた


 ディルベット、そして男は

 不審の眼差しでお互いをみる


「ああ?何か言えよ…。もしかして

 オレの前歯が欠けているのが

 おかしいのか?


 この前この中にいる酔っぱらい

 と喧嘩してやったんだ…

 そしたら酒瓶で殴ってきやがって」


 とそのタイミングで中から


「ちょっと…。外にそんな物騒な

 ことを言わないでちょーだい…」 


 と声がだいぶ枯れているが

 若くはない女性の声 


「ああ?…ホントのことだろーが」


 と男が振り返って大きな声で

 返すと、


「だから大きな声出すなって…

 いってんだろー!殺すぞ!」


 とまた声が返ってくる


「で…。なんの用なんだ?

 今日から酒の配達でもして

 くれんのか?


 それなら歓迎だぜ」



「アンタ!そこにいるのは

 …だれなのぉ~?」



「知らねぇ~よ。もしかして

 お前の別の子どもじゃねぇ~よな?」



「…………"子ども"なんて

 いねぇ~し」



「ウソつくんじゃねぇ~よ。

 作っては奴隷として売り飛ばし

 てたって噂されてたぞ!

 この畜生がっ!」



「うるせぇー!勝手に出来たモノを

 どうしようがアンタにはカンケイ…

 ないだろっ!!」


 と物が床に落ちて割れる音


「てめぇー。オレ様にモノを

 投げるんじゃねー。また

 ぶん殴られたいかっ!?

 ああっ!!

 首を絞めて殺すぞ!」


 男は中にいる対象に怒号を浴びせ

「…はぁはぁ」と息を切らしてから


「で…よぉ。オマエは何の用

 なんだよ…。えぇっ?…

 こっちはイロイロと忙しいんだよ……

 用が無いのなら、酒と金を置いて

 さっさと帰れ!」



「………あの。私はディルベットと

 申します。この家の母親の

 子どもたちが、お姉さんの

 ところまで遠出をしていたの

 で、その付添いで来ました」


 と少女が言うと、男は顔を

 外に出して「うう~ん」

 と目を細くして後方をみる…


「おぉ。なんだよ…。みたことあるぞ…

 オレたちの…救いの天使だ…

 "お使い"の子どもだ…」


 男はニヤリと笑って

「よぉっ…!酒と金を持ってきたか?

 お姉さん…フレアの人間なんだろ?

 直接催促に行ってきたんだよな?

 偉いなぁ~…あとで褒めてやるよ」



「………そういうわけでは」


 とディルベットが割って入ると


「なんだぁ?…違うのかよ?…

 じゃあ、なにしに行ってたんだ…」



「大好きなお姉さんに会いに

 行ってました」



「………………はぁ?」



「………決してお酒やお金の

 ためでは無いです」



「……………あっそ。

 わかったよ…。じゃあ

 今夜は外で寝てろ…。明日まで

 餌は無しだ…。裸で物乞いでも

 してな…」


 と扉が閉められるのを

 ディルベットは「ちょっと…」と

 止めようとして手を挟まれる


 男は再度扉を開き、

 苦痛で顔を歪める少女をみて、


「なんだよぉ~…。もう用は

 ないんだろう?………

 オレたちは酒と金にしか…

 興味が無いんだよ…わかるか?


 まぁ、お子様にはわからない

 よな…大人の楽しみや…苦しみが

 それはオマエが悪いんだから

 オレのせいじゃないぞ…」


 と言って扉を閉めた


 少女は「待って…」と痛みに耐え

 ながら、手を握りしめると、

 ドンドンと扉を強く叩いた


 すると今度はやつれていて、

 目の下にくまと頬と腕に青痣のある

 短髪の日焼けした女性が出てきて


「……"さっきから"なんなのよ。

 押し売りなら、他所でやって

 くんな…。アンタが二人をここまで

 届けてくれたことは感謝するよ…

 お礼は何も無いけどね…」


 少女はその礼の言葉を聞いて

 少しだけ安堵した…


「二人のお母様ですか?

 私は…ディル」


「そうだけど…。用は何?

 早く言ってちょうだい…」



「あの…。ええと…二人を…

 その………」


 と何をどう伝えようか?

 迷ってしまう少女


 そこへファルが杖を一度前に

 出して…割って入る


『ねぇ…。ちょっと聞きたいん

 だけどさ…』



「なに?……アンタ目が見えないの?」



『そうよ…。悪い?…で、母親である

 アナタに聞きたいのは、二人を…

 子どもを愛しているのか?ということ』



「…………」



『返答が無いなら、もう…アナタとの

 会話はお終い。二人を野ざらしに

 するわけにはいかないから、

 連れて帰るけど?…いいかしら?』



「…………」



『どうなの?…答えてはくれないの』



「……うるせぇ。盲のオマエには

 関係ないだろ…。かったるいこと

 をいってないで…。

 さっさと失せろよ…」



『……はぁ?言われなくても、こんな

 酒臭いところにはいたくないから、

 失せるけど…。二人はこのまま

 連れて行く。いいわよね?』



「……なんで、ワタシが生んだ子ども

 を"無償(タダ)"で知らない人間に渡さない

 といけないんだよ…」



『はぁ…?…無償(タダ)?って……

 子どもを"モノ"だと認めて

 いるのね』



「………そうだよ。モノはモノ。

 だからなに?…そのモノを使って

 何をどうしようが、所有している

 側の勝手でしょ?」



『………はぁ~あ。その言い草…

 とても気怠くて眠いわね…。

 じゃ、帰るから。中のよくわからない

 男と幸せに暮らして下さいな…

 もしかして、さっきのアレ。二人の

 父親じゃ…ないわよね?』



「…違うに決まってるだろ。あんなの

 から生んでたまるかよ」



『……そう。それはよかった。

 では、さよなら』



「ちょっと…。待てよ!

 待ちなさいよ!」



『………ディルベット。閉めて

 いいよ』


 と少女はファルに言われるままに

 扉を閉めた…が、

 再度開かれ


「…それは二人が決めることでしょ?」



『…まぁ、それもそうね…。

 どうするの?…大好きなお姉さんの

 ところがいいの?…それとも酒飲みの

 ロクでなしのお母さんモドキがいいの?』



「…"モドキ"だぁ?てめぇ…いい加減に

 しろよ。一生無能の…

 "価値の無い"盲の分際で……」



 ファルはその言葉を聞いて

 即座に杖先を眼前に向けて…


『舐めるんじゃないわよ…。アナタの

 ような腐った(まなこ)のついた輩に…

 そんなことを言われる程、

 私は落ちぶれてはいないわ……


 アナタの何倍も何千倍も、この見えない

 暗闇の中で、必死に…もがいて

 足掻いて、泥や砂を噛んで…

 生きてきた…。しのいできたのだから


 薄っぺらい存在のアナタに、わかった

 ような口で"無能"だとか"価値が無い"

 とか"盲の分際"等と言われるのは…

 ドス黒いもう一人の私が、許さないわよ』



「…………」



『ああ、そうだ…。ディルベット…

 お母さんにお土産があるんだっけ?』


 少女は村の特産である絹製の、

 ネムコの肉球の淡いピンク色の模様の

 付いた白いハンカチを母親に手渡す


「……コレ。二人にもあげました。

 とても喜んでくれたんですよ…

 お母様にも…と思って」



(……………はっ。こんなもの)

 と二人の母である女性は呟くと…

 手に持ったハンカチで汚い音を

 出して鼻をかみ、唾を一つ吐いて

 クシャクシャにして

 少女に投げつけた


 少女がそれを拾い上げると

「…気に入らなかったようですね

 ごめんなさい…」と言った


 ファルは『もう何も言うことは

 無いわ…。ディルベットのお姉さん…

 二人を連れて、行きましょう…』


 と言った


 母親である女性は、気づくとディル

 ベットの背後に密着して様子を

 窺っている二人の幼い子どもを蔑む

 ようにみて


「………どこぞの借金抱えて死んだ男

 の金にならない"負債の子ども"…


 勝手にしなさい…。でも、

 お金と酒を持ってきたら、

 "いつでも"中に入れて上げるわよ…


 フレアのお姉さんには、お母さんは

 オマエのことをダレよりも、

 "アイシテル"と言って置いてね…」


 と言い放って、ついで少女、そして

 ファルを睨みつけてから、扉を乱暴

 に閉めた

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