第62話『控えめで優しい、ノーラの虜』
セタは夢をみた…
それは二人の幼い子供が意味の
わからない詠唱のあとに発光し…
消失したと思ったら足元にいる…
二人のネムコに変身してしまう夢を…
その朝の食事の後のこと
『おいブルーノ…。本当に
いいのか?』
「はい…。もう家に帰らせます」
『……二人はどうなんだ?』
「セタ様…。それは…」と
ブルーノが反応するも
二人は「わたしは大丈夫だよ…」
「うん。僕たち、また来るよ…」
と健気に答えた
『そうか…。また来るんだぞ…
いつでもいい…。ネムコも
私も、ファルも、ディルベットの
お姉さんも…
待っている』
セタは昨夜のことを思い出す
二人はまたセタの部屋に泊まった
だがネムコが光り輝くことは
無かった。子供の立場である
二人にも、それは見えなかった、
わからなかったと思われる…
(なんだったんだろうか?…)
と考えるも今のところ答えはなく、
もう二人が帰ってしまうので…
試す機会は二度とないかもしれない…
『…明日なのか?』
「いいえ。急ですが、このあと
今日にしようかと…。荷物の便と
一緒に南メイガンに届けてもらいます」
『………ほんとに急だな。
名残惜しい…』
「極力そうならないように…
と思いまして」
『…………そっか。わかった。
では"一人"付添いを出す…
私の従者だ…頼りになるぞ』
「おっと…。俺の出番ですね?
任せて下さい…」
と坊主頭の男が手のひらを
みせて声を出す
『いいや…。今回はディルベット
に行ってもらう…』
「えっ…。何でですか?…
アイツは以前よりも頼もしくは
なりましたが…まだ子ども
ですよ…」
『いや…。大丈夫だ…。ディルベットも
ちょっとした旅の経験が必要だろう』
「…まあ、遅くても半日の
往復ですから。一日…。街に二人を
送って、そのまま帰るのでは、少し
ばかし疲れるのではないでしょうか?」
『ほぅ…。それもそうだな…
では…泊まるとなれば…
"もう一人"連れて行くか』
「へへ…。ですから俺が一人で…
まあ経験を積ませるのであれば
邪魔にならない程度にお守りを
しますよ…」
『いや…。お前じゃない。
ファル…。少し旅をして来て
くれ…。ディルベットと共に
南メイガンで一泊して
ゆっくりと帰ってきてくれ…』
ファルは自分が選ばれるとは
思っておらず「うぅ…」と
変な声を出してから、
「なんなの?…突然。別に
私は構わないけど…。寂しがり屋
の赤子のようなセタちゃんが…
急に"夜泣き"をしたら、誰が
いい子いい子してあげるの?」
セタはファルの冗談に苦笑いを
しながら
『……ふふっ。それも、そうだな…
ではいい子で待ってるよ。帰ったら、
思う存分甘えさせてもらうから、
頼むよ…ファルのお母さん』
「…ふぅ~。しょうがないわね…
では、そういうわけなので…
お二人さんよろしくね?」
『ところで、ディルベットは
何をしている?…朝、あいさつ
したきりで、そのあと顔を
見ていないが…』
「いや…。ちょっとですね…
二人が帰るのを知ってしまった
もので…。駆け足で外に
出ていきましたよ」
『ほう…。そうか…
う~ん…。では戻ったら
伝えておいてくれ…』
「はい、わかりました
しっかり伝えておきます」
『…ファル。準備は大丈夫か?』
「はぁ…?"いつでも"旅に出られる
準備は出来ているわ…。それより
もセタ…。宿泊代をちょうだい
…安っぽいところには泊まらない
から、駄賃含めて多めに貰っておく」
『……そうだったな。そろそろ親父殿が
宿の周りをウロウロしている時間だから
ちょっと出て、財布の元を捕まえること
にしよう』
親父殿とは村の長でありセタの父親の
アル・ブルウノスのこと
以前に比べると頻度はだいぶ減った
が、セタのことが心配で宿の周りを
定期的に歩いている
『よし…。ではブルーノ、二人の
準備は出来ているのか?』
「はい…。いつでも…」
『では午後すぐの便にしよう…。
夜に着いてそのまま二人を
送る…。あっそうだ…フレアの
人間に言って、もっとマシな
荷馬車を用意するよう伝えて
おこう…』
「…はい。では私が…」とブルーノ
『いいって大丈夫だ…』とセタは男を
みて『フレアへの使い、頼んだぞ。
私の名前を出して"当主のミールに
よろしく"とも伝えておいてくれ…』
と言った
「…はい。わかりました。
本当は、黙ってこっそり
付いていきたいところですが、
今回はファルの姉さんに任せます」
「まっ…任せておいて。珍しい
"お土産"でも買ってくるわ…」
("お土産"か…。そうか…
ディルベットは…)
とセタは思ってから、
『ちょっと急用が出来た…
すぐに戻る…!ディルベットには
私から伝えておくから』と言って
急いで外に出ていった
ファルは「では…少し面倒だけど
私達は、上に荷物を取りに行き
ましょう!旅は道連れ、世は情け
無用の"無情"の極み…。
久しぶりの遠出、楽しみだわ…」
とほのかな笑みを浮かべ述べてから、
ブルーノの妹と弟を連れて四階に戻り
ブルーノは「まだ時間があるから…
やっぱり私もついていきます」
と男と一緒にフレア商会の事務所
兼、宿舎に向かった
そして、一人…。目立たない存在の
"木の葉の野宿さん"と呼称されている
金髪で目元を隠しているセタの身代わり
の小柄の女性が…。食事を終えて寛いで
いるネムコ達と共に客間に残された
しばらくすると…。ブルーノの妹が
少し慌てた様子で降りてきて、
「あっ…。ごめんなさい。ノーラと
イーシャを忘れてた…」と扉を
開けて言うなり、ノーラの方を抱えて
イーシャを探す…すると、
「あれ…。お姉さん…いたの?」
と椅子の上で横になっているイーシャを
屈んだ姿勢で撫でている金髪の女性の
存在に気づいて
「ちょうどよかった…。お姉さん、
イーシャを上に連れて行ってよ…」
と頼んだ
金髪の彼女は抱え方がよくわからず
触れ方もぎこちない…。イーシャは
スルリと手元を離れて、トトト…
と歩いて逃げてしまい、少女の足元
に擦り寄った
「ごめんね…。私は今ノーラを
抱えているから…イーシャは…」
と女性をみて
「そうだ…。ノーラの方がおとなしくて
あつかいやすいから、こっちをお願い」
と言って、金髪の女性に近づきノーラを
渡した。ノーラはセタと同じ色の髪の毛
と衣服の匂いをクンクンと嗅いでから…
何となく落ち着いたのか?その腕と
胸の中におさまった
女性は安堵しながら、鼓動を鎮めて
「ノーラ…可愛い」と伝えた
イーシャはすでに少女に抱かれて
いて…。その慣れている腕と体の
使い方、感覚から安心ししきって
いるのがみてとれた
女性が「すごい…」と呟くと、
「ディルベットのお姉さんに教えて
もらったんだよ…。わたしも
はじめはそうだったの…」
と少女は返して
「ネムコ…あたたかいでしょ?
とてもいい"幸せなきもち"に
なれる。わたしはだいすき…」
と、すりすりと…自分の顔を
イーシャのふわもふの毛並みに
優しく擦り付ける
金髪の女性もそれを真似て
すりすりとしてみると
ノーラはじっと顔をみて
「あっ…」と、かすれ声に近い
発声…。控えめに小さく鳴いた
なんて言っているのか?
わからなかったが…。たぶん
嫌がってはいないのだろう…
少女は笑顔を浮かべながら
「…お姉さんのこと、キライじゃない
スキよって…いってるの」
「…ほんと?」
「うん…。ほんとうだよ…
ノーラはだれにだって…
やさしいんだから」
こうして、異世界の猫である
ネムコの…というよりも
"ノーラの虜"がまた一人増えた




