第61話『幸せは…。人間としての頃よりも』
シャーマンの幽霊がセタに
話しかける…
「…どうしたのですか?」
セタはその声に反応し
窓際をみる…
『どうした?…というのは意外だな…
お前は見ていなかったのか?』
「何をですか?」
『ネムコが月夜に光り輝いて
いたということだ』
セタは少し大袈裟に伝えた
ブルーノの妹と弟が言って
いたのはネムコが夜に
"光っていた…"ということだけだ
「みてません…。そんなことは
今まで無かったので…」
『一回もか?…お前は眠らずに
夜に起きているのだろう?』
「起きてますけど…。ずっとネムコを
みているわけではありません…」
『…そうか。ならばよい。しかし
不思議だな…。一番近くにいる
私が気づけないとは…』
落胆の色を隠せないセタ
幽霊は思い当たる節があるようで…
「もしかしたら、セタは気づけない…
気づけたのは…無垢なる"小さな存在"
だから、ではないでしょうか?」
セタはため息をついてから
『だがな…私だって、無垢な部分は
ある…。もうあのときの…ノーラや、
イーシャのようには…。
"子ども"の自分には永遠に
戻れないがな…』
といいながら、膝上にて交互に
くっついて並んでいる仲の良い
小さなふわもふのケモノ
少年少女からネムコに変身した…
"二人の"ネムコを撫でる
「もし…。方法を知っている状態で、
子供の頃に戻れたら…。
セタは、ネムコになりますか?」
セタは窓際の幽霊をみて…
それから中空をぼんやりとみて
視線を膝の上のネムコに落とし、
『………………ならないかも、な。
仮になっても私のことを…ネムコを
このように愛し、可愛がってくれる
私やノーラのような人間がいなければ
…。ただ、可愛そうなだけだろう?
もし、どこかにいたとしても…
巡り合うことが出来るかどうか?
わからないだろう…』
「………ここにいますよ」
セタは幽霊の迷いのない言葉に
笑った。嬉しさはあるが…何だか
心中、可笑しくなった。そんなセタを
みて幽霊は真顔で返答を待っている
『…そうだな。では、もし私が
ネムコになったら、世話を頼むぞ…』
「はい…」
『美味しいご飯と、綺麗な砂を毎日
用意してくれ…。毛玉が出来ない
ようにクシで梳かすのを忘れない
ように…。それと喉を鳴らしたら
甘えているから目をみて、優しく
声を掛け、撫でて上げてくれ…
あと…壁や扉を引っ掻いてしまう
ことがあるが…許して上げてくれ』
「…………はい。わかりました」
『………すまんな』
「いいですよ…」
『で…。何の話をしていたんだっけ?』
「ネムコが光ったという話しです」
『そうだ…。で、何の合図だろう?
見ることが出来る、
その対象の限られた"変化"とも
いうべきか?…』
「………わかりません。ただ…
見える対象は、あの二人です…」
あの二人とはブルーノの
妹と弟のことだ
『……月夜に私の部屋に泊まった。
それが鍵になるかもな…』
「……そうですね。もう一度
同じことすればまた光るのが
見えるかも知れませんね…」
『幽霊のお前には見えるだろうか?』
「さあ…。試してみないと…」
『月は今夜出るかな?…』
「さあ…。天気の人ではないので…
月が"雲隠れ"しなければ、
夜に晴れれば、出るでしょう」
『…そのまんまだな。では、
また泊まってもらえるように
頼んでみよう…。見張ってて
くれ…。私も起きているから』
「…………うまくいきますかね?」
『どうだろうな…。警戒していると
中々に出ないモノがあるのは知って
いる…。流れ星や、虹や、蜃気楼など…』
「たまたま、偶然、自然と…
気づくといつの間に…ですね」
『ああ…そうだ』
「とにかく今夜…。楽しみです」
『…楽しみ…かな?…変な予兆で
無ければよいが…』
「……また変身してしまうかも?」
『それは無いと思うがな…
それをする"素材"が無いだろう?』
「精霊を使える、シャーマンに限らず
…特定の人間の力の宿った髪の毛と
…純粋無垢なる存在の血。
…そして"すべてを捧げる"意思、
すなわち自らのカラダ。生贄が必要
なようです」と…"素材"の説明を
淡々とする幽霊
『…………ノーラとイーシャは
すべてを捧げたのか?』
「…そうです。すべてを捧げて…
精霊として散らばって存在している
はずの集合体…。結晶化された
ネムコを、奇跡的に得たのです」
『………ノーラとイーシャは、
それで"幸せ"だったのか?』
「……わかりません。もう人の言葉は
話せないので…。ですが、みていれば
わかります。今もセタの膝の上で
幸せそうにしていますよ…」
『…………』
「…………」
『すまない。少し、しんみりとして
しまった…。泣いてしまいたい
気分だ…』
「………セタ。
また今夜会いましょう」
『ああ…。また今夜』
セタが伝えると、幽霊は律儀に
窓から外にふわりと出ていった
セタはひとつふっ…と
息をついてから
『幸せ…。幸せか…。
ノーラ…。イーシャ…。お前たちは、
人間として生きていた頃よりも…
この世界で幸せに暮らしているのか?』
ネムコの二人は…
セタをちらとみて…
"誤魔化すように…"と思いたくなる
欠伸をした…
セタは二人を撫でるのを止めて
足をそのまま投げた状態で
寝台に仰向けになる…
ノーラはその変動に際し、膝上から
柔らかな胸の大地に辿り着き…。大好きな
セタの顔をみて控えめに甘えだし…
イーシャも負けじと、同様にして
ノーラ以上に顔を近づけて声を出し
ゴロゴロと喉を鳴らして甘えてきた……
(わかっているんだな…
私の気持ちが…。
いつも繋がっているんだな…
私達は…)
と思いながらネムコ達を引き寄せて
口吻をして、抱いて、懸命に撫でる…
そして世界一"愛らしい二人"に…
その存在を授かっている"幸せな自分"
に対し…。誓うことがある
(幾度考えてみても、決して答えの
みえない日々、時間の連続…。
よくわからない感情を孤独と
共に抱えながらも…。
お前たちの為にも、自分の為にも…
"出来る限りのこと"をして…
ネムコを世界一愛する存在、人間と
して…。最後まで、見届けるまで……
運命の終わりを迎え入れるまで、
必死になって、生きないとな……)
ということを…
そんな…
生きる意味を考える真剣な眼差しの
セタをみて、ノーラとイーシャは
"感じ取る"ことが出来ていた
その誰よりも深いセタの愛情は
確実に、二人に伝わっていた




