第59話『それだけ』
くりくりお目々がそっくりの
ブルーノの妹と弟は今日もセタの
部屋で主のセタと一緒にネムコと
過ごす
欠伸を抑えながらセタは
(今日はどうしようか?…
二人もこの村には飽きてきた
だろうし…)と考えていると
「ねえセタのお姉さま…
わたしたちの姉さんは
好き?」
と妹の方から今頭の中で考えて
いるのとはまったく別の突っ込
んだ話題が飛んできた
『うん…そうだなぁ~…
好きな部類には入るぞ…
ネムコ好きでもあるし、
悪い人間ではないからな…』
「そうなんだ…。じゃあ
いずれこのムラをでないと
ダメなんだね?」
と今度は弟の方が話題に入る
セタは眉をひそめ…二人が何を
言わんとしているのか?を考えながら…
『もしかして…。自分の家に…
メイガンの街に
戻りたくないのか?』
とふとした疑問を述べると、
妹の方は「…ううん。別にそんな
ことない……けど」と返して
伏し目がちになり、
一方の弟の方はわかりやすい態度…
暗い寂しげな表情を浮かべて
黙ってしまった…
セタは『ふぅ~ん…』と思案してから
『ならば……。"好きなだけ"
いていいぞ!…お前たちの
お姉さんにも伝えておこう!』
二人の表情が明るくなる
「そうなの!」
「……ほんとぉ?」
『ああ、ほんとだ…。ところでな
…。ブルーノもそうだが…
"お前たちも"名前が付けられて
ないんだよな…』
再び表情が暗くなる二人
「うん…そうだよ」
「…"姉さん"も、そうだから」
セタは『ふむ。そうか…』と
言って寝台の上のいつもの場所で
くっついて休んでいるノーラと
イーシャをみる
「…姉さんの名前はブルーノなの?」
「…ねぇ、なんで?」
『……それは…だな』
とセタは返答に困ってしまう
このムラの名前から適当に
付けたことを無垢な二人に
教えるのは気が引けた
「ねぇ…セタのお姉さま。
わたしたちも名前をつけて」
「……僕も、おねがい」
『はぁ…。それは…だな……
"普通は"親が付けるものなんだ』
「…しってるよ」
「うん。僕もしってる」
『そうか…。それは馬鹿にしている
みたいですまなかった…。では、
"お姉さん"に付けてもらうのは
どうだ?』
「………姉さんは疲れているから」
「うん…。僕は、姉さんにめいわくを
かけたくない」
『う~ん。……………わかった。
では、このムラにいる間に
思い付いたら…』
とセタはひとまずこう言って
二人を納得させた
・・・
セタは帰ってきたブルーノを
『話がある…』といって捕まえた
彼女の妹弟はセタの部屋で
寛いでいる
そのため階段前の
"セタ様の部屋"に入って
寝台端に並んで座って…
いつもの"密着"をしながら
『なぁ…。実はな』と名前の件
をブルーノに伝えた
ブルーノは「そうですか…。
困りましたね…。セタ様に
付けさせるのは」と言ってから
「ですが…。大丈夫ですよ。
ブルーノという仮の名前も
気に入ってますから」
『それは、私に名前を"付けろ"
と言っているのか?』
「いいえ。そういうわけでは…
こういっては何ですが…
二人は何でもいいんです…」
『…どういうことだ?』
「セタ様が名付けの親になって
くれれば…。もしかしたらネムコの
ように(セタ様の)愛着がわいて、
そのままこの村に居つけるのでは?
…と"ほのかに期待"
考えているのかも…」
『はぁ…。なるほど……
その理屈はだいぶ都合がよく…
少々強引に思えるが…な』
「………だから姉が付けるのでは
ダメなんです」
『…そうか。それはそれは…
難儀だな』
「はい…。それで…その件は
また別にして…。お話…報告が
あります」
『ん…?なんだ?』
「すでにミール様から話しを聞いて
いると思いますが…。身代わりさん
の"代わりの人間"についてです」
『ほう…。そうか…
いつ来るんだ?』
「実はもう"既に"来ているのですが…」
『どこだ?』
「この宿の…すぐ上にいます」
『…上?屋根の上か?』
「いいえ…。この寝台は二段に
なっているので…」
『あ…?』とセタは座っている
寝台端から立ち上がり、その
二段目をみる
『……誰もいないじゃないか?』
見る限り誰も寝台の二段目には
いない
「あ…セタ様。ちょうど今…
"素早く"降りて来ました」
『降りて…?』とブルーノの
座る下の段をみると…
彼女の後ろに背を向けた状態の
あぐらをかいて座っている
頭巾をかぶった人間がいた
『…恥ずかしがり屋なのか?
顔を見せてくれ』と頼むと
時間を少し置いて、コクリと
頷く仕草のあと振り返るも…
顔を伏せてブルーノの背後に
隠れる
『だから…顔を』と再度寝台に
座って顔を覗き込むと…
今度はブルーノの背面に
顔をつけてしまう
『はぁ…。どうしたらいい?』
とセタはブルーノに聞くと
「この人は"木の葉の野宿さん"の
一人です」
『うん?…
"木の葉の野宿さん"…とは?』
「実は…森に囲まれたこの村の周囲
に居て。外からの情報を伝達する
役目と…。警護の役目を負っている
フレアの人間達です」
『…ほう。そうか…。ミールからは
内部と外部で警護を強めると伝えら
れていたが…。"裏で"そこまで
しているとはな……
しかしなぜその人間なんだ?
そのうちの一人…ということは、
まだ他にもいるのだろうが…
数が減るのは問題ないのか?』
「…数は問題ありません
他の人間が来ます」
『そうか…。で、顔をみせて
くれないシャイな"こやつ"が
選ばれた理由は?…ミールは、
身代わりの代わりという以外には
特に何も言っていなかったが…』
「………その理由は」と言って
ブルーノは振り返り、背後に隠れて
いる小さな体躯の人間の頭巾を外した
その女性の目元は髪でみえなかったが
その長い髪はセタと同じ金色であった
『………もしかして、"それだけ"か?』
とセタはブルーノに聞いた
「はい…。"それだけ"でも大変だったの
です。身代わりさんの代わりは…。
そう簡単にはみつからないみたいです」
『………髪が邪魔して顔がよくみえない
似ているのか?…というのは野暮か…
髪の色だけ…ということは、似ては
いないのだろうな…』
「…はい。残念ながら」
『…まあ残念と言うのは、こやつの
親のことを思うと"違う"と思うがな…』
「…ねぇ?アナタ、本名はあるの?」
とブルーノは目元を髪の毛と手で
隠している小さな女性に聞くと…
女性は首を振ってから、ブルーノの
耳元に口を近づけて何かを言った
『…何だ?』
「セタ様の方で…つけて下さい
と言っています」
『………"名付け"』とセタはこぼして
から、ふぅ~と長めの吐息をついて
『…名前の話題は、今日はもう…
たくさんだよ』
と独り言を述べてから立ち上がり、
『まっ…。テキトーにやってくれ…。
私は"二人を"連れてくるけど…
こうして一人増えたのでは…お前の
寝床が狭くなるぞ?』
「それなら大丈夫です…。
私達は体が大きくないから
一段、"二人ずつ"で寝ます」
『……遠慮するな。隣の部屋も
空いているから使ったらいい』
「いいえ。ほんとうに大丈夫です
狭いのは昔から慣れてますから」
『………そうか。だが気が変わったら
言ってくれ。鍵は掛かっていない
から勝手に使ってくれても構わない』
「……はい。ありがとうございます」
『名無しのお前も…。何かあれば
"可能なら"顔を見せて言ってくれ…』
とセタは少し屈んでブルーノの後ろ
に隠れている女性をみていった
・・・
セタは自室に向かう廊下を
歩きながら
("変なヤツ""おかしなヤツ"
ばっかり、くるな…この宿は…)
と思いながら
『まっ…。私もおんなじか…』
と自嘲の独り言を述べてから
扉を開けた




