第57話『ブルーノの遊び心』
ブルーノが一人きりとなった
"セタ様の部屋"に帰ってきた
彼女は昼と夜の食事は"まとめて"村に
あるフレア商会系列の宿兼酒場でとる
セタのいる宿での食事よりは内容は
劣るが、商会の人間は割引が効くの
で節約の為ブルーノは毎日通っている
宿での朝の食事と宿泊費は商会の経費
として計上されているのでブルーノは
宿での朝食は必ず摂るようにしている
そんな彼女は食事を摂る度に習慣として
家族のことを想う…。決して裕福では
ない中流以下の家庭に生まれ、その後は
一気に困窮し乞食をするにまで生活が
落ちてしまった…
母が「何をやっても…うまくいかない」
とよくわからない詐欺商法に引っかかって
は、口癖のように言っていたのを幼い頃
からずっと聞いていて…今も記憶の中に
鮮明に残っている
"ブルーノ"とセタにひとまず名付け
られた彼女の名前は平民でありながら
無かった…
母はいずれ成長した自分のことを奴隷と
して売る予定だったらしい…。だから
その日に備え、愛着を持たないように
する為にあえて名付けず、愛情面に
おいては放棄に近い形で育てられた…
だが彼女は…。ブルーノは、彼女の母から
すれば"不運にも"買い手が見つからず…
彼女は奴隷として売られることを察して
その立場から抜け出したい一心で、近所の
フレア商会の雑貨屋で働く為、その店舗の
前の道の石をすべて取り除き、雨の次の日
は泥をすくって乾いた土をかぶせる等の
地道な取り組みをして"泥土"もしくは
"石ころ"と商会の人間から顔を覚えられ
自然と呼ばれるようになった
それが功を奏して、雑用から品物を売り
歩く仕事を与えられ。その売上に応じて
給与を貰う日々が続いた…
気づくと彼女は、奴隷間近の身分から
"泥土の道のり"を通して成り上がり
平民の身分を守った名無しの存在…
"泥土の平民"と呼び名が付いて、
正式にフレア商会の人間になることが
出来た
彼女はその後も南メイガンの道という
道をすべて練り歩き、物を売り続けた…
そしてその行動力と記憶力の良さから些細
な変化を見逃さずに一日の街の様子を情報
として上層部に上げ続け、その功績から
諜報活動の要員としてブルウノスの村に
配属された
彼女はとにかく認められたかったのだ…
フレアの人間に…。何よりも売物として
自分のことをみていた母に…
だからこそ("人よりも、わかりやすく
頑張る"…)を座右の銘として生きてきた
だが…。最近のブルーノは以前よりも
少し怠惰になっていた…。それなりの
給与を頂くようになってからは、家族の
暮らしはだいぶ改善された…。ミールや
上層部に対しては家族を盾にして給与に
関して大袈裟に言うことがあり、それは
半分見抜かれていた…
彼女は現状を維持する為に、
"うまくやろう""みせよう"としている
意欲はあるが…。もっと上を目指そうと
いう気概が欠けている状態であった
その理由の"一端は"…とブルーノは
名付け親のセタをみる…
村の主の娘である彼女は『今日も暇だ…』
といって主に部屋で小動物と戯れている
だけ…。自分も何となくその呑気さに
感化されているのでは?という言い訳を
してしまう自分もいた
『なぁ、お前はいつもこの村を
歩いているんだろう?』
「はい、そうです」
『何か面白いことは無かったか?』
「……いいえ。セタ様の喜びそうな
ことは特に無かったです」
『ふぅ~ん。そっか…』
という気の抜けた会話がたまにあり
ブルーノはセタ様の為に面白いことを
探すのも仕事なのかな?
…と思い始めていた
ただそう考えてしまうと…。何というか
警護の為という意味での緊張感に欠けて
しまい一日の行動に無駄や斑が出来てくる
簡潔に言ってしまえば、
(ナンか、調子が狂わされてくるぅ~…)
という感じだ
しかしながら心のどこかで自分を許す
ことを覚えるようになり、張り詰めて
活きることの虚しさを感じるようにも
なってきた
そうしていく内に、心境の変化を感じ
取ってなのか?…ネムコが自分に寄り
添って甘えてくれることが増えて…
朝の擦りつけのあいさつの後は
抱きかかえることも可能になっていた
以前は自分からあまり近寄らないように
していたが…今では小さな獣の軽い虜と
なっていた
相方の…タメ口で愚痴をぶつけて何でも
話し合うことが出来た不思議な存在…
木偶の身代わり…"天気の人"が居なく
なってから、一人宿の部屋に戻ると…
気を利かせたセタがネムコを連れて
やってくることがある。そして段々と…
可愛く思えてきたネムコ達と戯れること
が出来たあとの夜は気持ちよく眠れた……
母や妹、弟への手紙にそのことを
書くことを躊躇っていたが…
とうとう抑えきれずに伝えてしまった…
(真面目に仕事をしているのか?…)と
母に疑われることが少し怖かったが…
もう手紙は出してしまった
・・・
『ふむ…。それで妹と弟がこの村に
来たいと言っているのか?』
「はい…。ノーラとイーシャが
可愛すぎて…つい教えてしまって…」
『まぁ、可愛いのは事実だから仕方ない…。
で…いつ来るんだ?』
「えっ…。セタ様いいんですか?」
『いいぞ』
「はい。ありがとうございます…
宿泊は"内緒で"一緒の部屋で…」
『ああ、いいぞ。何なら食事も一緒で
いいだろう…。お前もその日くらい
は休んだらどうだ?』
「……いいんですかね?」
『ああ、いいだろう。フレアの上の
人間か、ミールが何か言ったら、
セタ様のネムコのお守りをして
いました!と言えばいい』
「……それで許されますかね?」
『さあ…。それは知らないけど、
まぁ、たまにはいいだろう』
「では、妥協して…。午前中だけ仕事を
して午後は"お守り"という形で…」
『ああ、お守りの仕事でいい…』
「ありがとうございます…。
妹や弟が喜びます」
『ふふん…。そうかそうか…
あっ…そうだ。ではもう一つ
お楽しみを用意しておこう』
「…何ですか?」
『前にちょっと話したと
思うが…"砂浜"だ』
「はい…砂浜?」
『そう…。ファルと砂浜を歩きたい
と言ったら、あの男が気を利かせて
庭に用意してくれてな…』
「晴れた日ですね?」
『そうだ…。砂がよく乾いていて
素足では少し熱かったが…気持ち
よかったぞ…。ファルが本物の砂浜で
拾ってきた貝殻を置いているところに
…私が"遊び心"で桶に入れた水を
ちょっと顔にひっかけたら塩が入って
いて、しょっぱくてな…
怒ったファルがお返しとばかりに
桶ごとその塩水を下手くそにぶちまけて
しまって…。私は無事だったが男と
ディルベットが被害を受けてな…。
あまりにも可笑しくて…大笑いしている
ところに貝や砂を投げつけられた…
とにかく馬鹿をやって、楽しかったぞ…』
ブルーノはその様子を想像しながら
「いや…。そこまでは…大丈夫です。
気持ちだけ受け取っておきます」
と答えた
(セタ様…このノリじゃ、何するか
わからないし…)




