第55話『天ではなく』
ディルベットが四階に辿り着いたとき
廊下にはファルとアミスがいた
「セタ様は…中に?」と
セタの所在を"念の為"
確認する少女に対し、
『今…サラが中にいて、大事な話しを
しているところよ…。ネムコと言えど
…。出てくるまで今は待って上げて』
と返すファル
ディルベットは「はい…」と小さく
頷いて足元にいるネムコを拾い上げ…
ノーラは少女の手元に…
イーシャはアミスの足元に擦り寄って
から、壁に掛けてある杖に喉を擦り
つけると…その杖が傾いて落ちるのを
ファルが手で止めて、その手に
ネムコの顔が触れ…そのままの流れで
「おいでおいで」とイーシャを
膝の上に置いて、ノーラのとは違う
匂いを嗅いでから、軽く抱き締めた
・・・
続いてクロが部屋から出てくると
「おっ…。なんか"みんないる"…
こんなところで集まるなんて…
"奇遇"だね?」
と知っていながらの場を和ます
冗談をいった
ファルは『そうね…奇遇ね』
アミスは「ええ…。奇遇です」
ディルベットは「…そうなのかな?」
と答えた
しばらくすると…
男がやってきて、
「おっ…。これはこれは…みなさん
こんなところで集まって…
"奇遇"ですね…」
と言うと
クロ、ファル、アミスは笑い出し
一度呼吸を整えたクロが…
「僕がさっき言ったことだよ…
みんなセタとサラを待ってるの」
といった
男は「そうですか…。みんな
同じようで。仲がいいですね」
と、おどけた演技をまじえて
返したが…
ディルベットだけは笑わずに
ただノーラを抱いたまま…
セタの部屋を心配の眼差しで
じっとみていた
男はそれに気づいてからは
何も言わずに、少女と同じ空気を
共有して、ただ皆と一緒にこの
場所で二人のことを待った
それはクロやファル、アミスも
同様だった
★
サラが部屋から出てくると…
廊下で待っている五人とネムコ
をみて…
『ははっ…。なんだ……。
待っていたのか?…"私達は"
"宿の"人気者だな…』と言った
ディルベットがまず近くに
寄って
「サラ様…"私達のセタ様"は、
無事ですか?」
と聞いた
サラは少女の頭をぽんと触って
抱いているノーラを撫でて
『ああ…。お前たちの主様は
寝不足だが…。
無事だよ…』と答えた
その返答を聞いて、ディルベットは
軽く頭を下げるとノーラを抱いたまま
急いでセタの部屋に向かった…
扉はサラが半端に開けたままだ
ファルはそれをみてイーシャを床に
そっと置いた。イーシャは少女を
追って部屋の扉から入っていくと
…扉が閉まった
男はその一連の流れを見て、少し
考えた後、扉の前まで歩いて、
立ち止まり、
(いや…やはり。この場合は…
ちょっとだけ待つか…)と決めて
吐息をついた後に、部屋の前の壁に
後退し…もたれかかって腕を組んだ
ファルは「…どうだったの?
まあセタは"私のモノ"だし、
別に言わないでもいいけどね…」
といった。怒っている苛立っている
様子は微塵もない
サラはその言葉に…。ゆっくりと
アミスとクロとファルに近づいて…
先にアミスとクロをみて
『終わったよ…。私は"最愛の人"に
フラれた…。もう悔いは無い…。
あとは…。アミス、クロ…
私達のことを片付けよう…』
「"アミス"は…もう、
いいんだね?」
とクロが彼女の本名に言及すると
サラは、アミスをみて
『…アミス、もういいだろう?
クロは私の従者だ…』と聞いた
アミスは「…ええ」と頷いてから
「私は、"アミス"でいい…。
"お姉さん"が…それでいいと。
思わせて…くれた」
と椅子に座っているファルを
ちらとみる
『お姉さん?…コイツが?
何があったんだ?…』と
サラはファルをみた
ファルは「まあ、今はそんなこと
はいいじゃない…。それよりも、
見事にフラれたのね?アナタ…?
すごく可愛そうね…。アミスと私で
優しく見守って上げるから、
感謝しなさい」といった
サラは意に介さない感じで
『………ああ。そうしてくれ。
それで、今後のことだがな…
ファル…"お前に"セタは任せる』
「それは…どういう意味?
…吹っ切れたアナタの言葉から、
それとなく感づいてはいるけど」
『そのまんまだよ…。私は、神官の
サラは…このムラを離れる。一年
も経ってないが…。このムラには
もういられない…。決めたんだ』
「……………そう、ね。ま…。
そうでしょうね。アナタの性格から
いって…。"隣り"が静かになって
いいかもね」
と寂しさをあえて出さない
ようにするファル
『…アミス、クロ。私に付いてきて
くれるか?』
「うん…。すごく寂しいけれど…
大丈夫だよ…僕たちは…ね?
アミス…?」
「はい…。クロさんの…言う通り
私も…。寂しいけれど、サラと
どこまでも…一緒に。決まってる…」
『そうか…。では、準備に入るから…
追って連絡する。アミスのことは
フレアの人間に話す…。無理を言って
すまないが…。私は身勝手でわがまま
だから、しょうがないだろう』
「…はい。でも…。その件は…
私から…フレアの…。ミール様に
自分から…話す」
『そうか…。だが、ダメと言ったら
私の名前を出すんだ…。すべて
私の責任だからな…』
「…はい」
『クロは…。まあ名残惜しさを
感じさせないように振る舞ってくれ…。
明るくつとめて…な。無理をしない
範囲で…』
「うん…わかった」
『私はもうこの宿には来ないだろう…
ちょっと寂しいかも知れないが…
アミス、クロ…。我慢してくれ…』
「いいよ。僕は大丈夫…」
「はい…。わかりました」
そのタイミングで、話しを聞いていた
男が近寄って「ちょっと、いいです
かね?」話しかける
「サラ様…。いやサラさん。別に
宿に来ないからと行って…
そこまでする必要は無いですよ…
中に入るのがダメなら、たまに日を
浴びていたときのように、外の、
庭の長椅子を使ってください……
それぐらい、いいと思いますよ…
俺はね…」
『………うん。そうだな。わかった。
では…出ていくまでの期間、
お言葉に甘えさせてもらう。
"晴れた日"は、庭にいる…
引き継ぐまでの間は、
祈祷が続いているから…ちょっと
休んでから、庭に来るよ…
居たら、ちょっと億劫かも知れないが
庭まで降りて来てくれ…』
「ずっと…外を…。"天ではなく"…
庭を…みているから、すぐ
気づく…」
「僕もちょくちょく確認するよ…
二人で居たい時は正直に
言ってね…。…アミス」
「はい…。いいます」
『おっ…。そうだ。ファルも
私に話しがあれば、庭の様子を
誰かに聞いてくれ…』
ファルは首を僅かに
左右に降ってから、
「いやよ…。しばらくは
セタのことを優しく見守るの…
外の様子なんて確認しないわ…
セタにもさせない…」
といって立ち上がると…
「そろそろ…私達も
お邪魔をしても…
いいんじゃない?」
といった
サラはその発言の"私達"の
対象に自分やアミスが入って
いないことを悟り
『……アミス。部屋に戻ろう。
少し話そう…』と伝えた
クロは「そうしなよ…。僕は
セタの顔を見てから、部屋に
戻るよ…」といって
ファルの手を握って
「ほら…。ファル、行こう!」と
誘導をしてセタの部屋に一緒に
入っていく
男は背伸びをしてから
「俺もセタ様の顔をみて、
さあて、いつもの仕事だ……」
と独り言を呟いて、扉の開いた
部屋に入って、最後に扉を閉めた




