第53話『ファルお姉さんと…本物のアナタ』
前足で砂をかいて、せっせと自らの
"後始末"をする異世界の猫…ネムコ
客間にも、そんな排泄用の砂箱が
置いてある。予備のモノも含めると
徐々に増えて今では計六つある…
セタの部屋に"二人用"の大き目の物
が一つと予備一つ…。客間と廊下の
奥に一つずつ。あと二つの予備は、
庭のひさしの下の砂置き場の横に
置いてある
ノーラとイーシャは
朝食を一階で摂ると…セタのいる
部屋へは戻らず毛づくろいをして
その後、セタの従者である少女
ディルベットと戯れる…
ノーラとイーシャは食べ物を与えて
くれる存在として認識しているから
…というわかりやすい理由もあるが
ディルベットのことが大好きで…
今ではセタの次に甘えるに値する
存在、対象となっている
(セタ様、どうしたのかな?…
来ると言ったのに来ない…
一緒にいる、ファルさんも…)
朝食前…いつものように
セタのことを男が呼びに行ったが
部屋からは"ファル"が出てきて
『セタは寝てるから、先にご飯を食べてて
あとで必ず行くから…。あっ…そうだ。
ネムコ達だけよろしく…。お腹が空いて
鳴いているから』
と伝えられ、ノーラとイーシャ、
クロ、そしてブルーノとウーノス
(アミス)を連れて戻ってきた
ディルベットは
(セタ様…。もう少ししたら、お迎えに
上がろうかな…)
と考えながらネムコ達を撫でて
その感触を確かめ…柔らかい毛を
纏った不思議な存在を愛しむ
「おい…。ディルベットさんよ」
と男が少女にいった。男は使用済み
のネムコの砂箱を抱えている
「なに?…今考えてたところ
セタ様のこと…」
「まあそれは、見てればわかる…。
俺は部屋の砂箱を交換したいんだが…
俺よりも"従者さん"の方が
お伺いするのにはいいと思ってな…」
ディルベットは少し考えてから
「……わかった。聞いてくる
この子達も一緒に上がった方が
いいかな?」
「うん…?そうだな…。まぁ…
いれば扉を開けてそのまま入る
理由にはなるだろう」
「そうだね…。ネムコはあたしと
違って、セタ様の大好きな…
"可愛い"子どもだから…」
(ちぃっ…)と男は小さく舌打ちを
打ってから、
「たくっ…よぉ。こんなときに
なにしんみりしてんだよ…。
お前もセタ様の"可愛い"子ども
みたいなもんだろ?俺が思うに、
大して変わりねえよ…。
んなことより…。さっさと行って
こいよ…。まあ俺もモノを回収する
から四階には上がるけどな…。
先に砂箱を"ゆっくり"庭に置いて
くる…。あとから行く…。ディルベットは
ネムコを連れて先に向かってくれ…」
「うん…。わかった…。ありがと。
では、ノーラ、イーシャ…。
愛すべき主様の元へ…。
誰よりも…キレイで優しい"私達の"
お母さんの所に…。帰りましょう」
・・・
『どう…?明日は晴れそう?』
「今日のように…このまま曇りが
続きそうです。小雨が…降って
は止んでの…繰り返し
明日も同じです…」
『そう…。晴れたらいいこと
思いついたけど…
晴れるのを待つ…それしかない
残念ながら、今は…』
「………はい」
廊下には端に置いてある小さな椅子に
腰掛けるファルとアミスがいた
アミスは廊下での出来事に気づいて
部屋から出てくると…ファルが放って
落ちていた杖を拾って…。床を這って
探していた本人に手渡した
ファルは『ありがと…。けっこう
遠くにいってしまったのね…
ちょっと苛立っていてね…。罪のない
杖にあたって、やってしまったの
…うるさかった?』
「……いいえ。特には」
『…うるさいに決まってる。
ごめんね…。天気の人…本当の名前が
あるのなら、秘密で教えてくれない?』
アミスは少し考えてから
「………サラとセタ様には。本当の名前
は…伝わっています。もう…この宿の
人には…言ってしまった方が
いいでしょうか?」
『逆になんで自分の名前を教えてないの?』
「それは……」
とアミスが返答に窮しているとき
クロの部屋からサラが出てきた…
アミスとファル、二人がいた場所は椅子の
置いてあるクロとファルの部屋のちょうど
間の位置で…サラは二人は気づくと
立っているアミスと視線を交わし…
続いて椅子に座るファルのことをじっと…
みつめてから、何も言わずに横を通り過ぎ
セタの部屋に向かい扉を小突いて
中に入っていった
アミスはファルにサラのことを伝えるべき
か?迷っていると
『…クロではなく、間違いなくサラでしょ?
今の…?』
「………はい」
『"えらく"振り切った…。覚悟を決めた…。
馬鹿正直の颯爽とした風が通り過ぎたわ…
という表現は…ちょっと格好良すぎる、
"言い過ぎ"かしら…?』
「…いいえ。的確です…。
少し…。"虚しさ"を感じましたが…」
『……それは"アミス"
アナタが…。でしょう?』
ファルの言葉にアミスは驚きながら
「そうです…。私の感情…。名前、
アミスだと…。知っていたのですね」
『そうよ…。私は何だって知っているん
だから…。というのは嘘よ。セタが昨夜に
うっかりね…。まったく、ボロは伝播する
のかしら…。セタはサラから、私はセタ
から…。もしかしたらサラからクロと…
伝わっているかもね…』
「………手遅れ。ですね」
『まぁ、そうかもね…。セタもサラも
嘘をつけない人種だから…』
「………ですね」
『過去に何かあったのでしょう?…
それはわかる…。私もいっぱいあった…。
"この通り"…生まれたときから理不尽の
嵐、連続よ…。ここまで生き延びて来た
のが、自分でも不思議に思うくらい…。
でも、過去を捨てようとは思わなかった…。
すべて引き摺って。疵痕を記憶に留めて
くだらない世界を創り上げた神様と運命に…
その足掻いている様を見せつてあげない
と、私が可愛そうだから…。ねぇ…ファルさん
頑張らないとね…。とまあ、そんなドス黒く
"始末の悪い"感じよ…』
「…………」
『…ごめんね。こんなくだらない人間の、
くだらない生き方に、何も返さないでいい。
聞いてほしかったから、言っただけ…』
アミスは下を向いて、じっと床を…
壁に掛けてあるファルの杖先をみて
「………私は…。アミスは…
……私、私は…」
と零しながら、涙が出てきそうな自分を
抑えて…その後の言葉に詰まってしまう
『……ごめん。いいのよ。何となく
わかってる…。捨てたい過去があるのは
…。そんな過去が運命の上に偶然あった
から…。仕方ないのよ』
「…………はい」
『……さて。サラは今ごろ、どうして
いるでしょうね?』
「………わかりません」
『まぁ、どういう結果になっても
私はセタも、サラも…
慰める?…違うか、見捨てない…
それも違う。なんて言ったらいいんで
しょうね?この場合…』
「…優しく、見守る」
『……そうね。それが一番…
アミスはよくわかっている
じゃない』
「…そう…。ですか?適当な…
ことを言っただけ…かも」
『…すっ、と。言葉が出るのは
アナタが過去の自分から…
素の優しさを胸に秘め、
引き継いでいる存在…
"アミス"だからよ…』
「………」
『…自己紹介しましょ?
私はファル…。海辺の潮騒の
音を聞いて祖母に育てられた…
"この通り"盲目の旅人であり、
占い師…。アナタは?』
「…私は」
『…うん』
「私の名前は…。アミス…ロッド
それなりの家柄で生まれ…親を失い
生まれてきた罪で…捕まり、
罪人として牢で暮らし
誰もいない天をみて…
…その後は、元奴隷の…人形。
愛玩の…"お姫さま"でした」
互いの沈黙の時間のあと
ファルは口をひらき
『………そう。よくわかった…。
そうね…。では約束をひとつ、
"晴れる日は"…私に教えてね…
"天気の占い師さん"…
"天気屋さん"でもいいかな?』
「……はい。お任せを…
ファルの"お姉さん"」
『あら…"お姉さん"?』
「はい…。お姉さんみたい…。
だから…」
『そう…。まっ別にいいわ…。
女王様でも、王様でも、神様でも
なんでもいい…。好きにして♪
…可愛い妹さん』
「……はい。私の可愛い…小さくて
大きな…お姉さん。
好き…。大好き………」
とアミスは椅子に座るファルを
上から覆うように抱きしめる
『ちょっと…』とファルは反応しながらも
拒否は全くせず、自然とアミスの手
に触れた後に、
("可愛い妹"…。やっぱり"偽物"
セタではないのね…)と心中にて
ついで
(アミス…。そんなアナタらしい
"本物のアナタ"が…)と呟き、
『私も好き…。大好きよ』
と温もりの主である彼女に…
素直に生きる純真を失わない妹の
ようなアミスに…
優しくそっと…。囁いた




