第52話『がんばれ、僕の主様』
アミスのいる"セタ様の部屋"
そこから出てきたサラが右を向くと
…。部屋を繋ぐ廊下に小さな体躯の
ファルがいるのがみえた
ど真ん中で杖を付いて立っている
ファルを視界に捉えながらサラは
何食わぬ顔で黙って横を通り過ぎ
ようとしたが…
『"サラ"でしょ?…ちょっと私の
部屋まで顔を貸してくれない…』
と捕まってしまい、
「ちょっと急がしいから、
話しは"あと"にしてくれ…」
とサラがいった。それに対し、
『はぁ…?"私達の"
セタのことよ…』
とファルが苛立ちを抑えながら
念を押すように伝えると
「…そうか。実はちょっと、
これからセタのところに行こう
と思ってな…」
『何をしに行くの?…"多分"セタ…
昨晩ほとんど眠れてないから
今日はまだ寝ているのだけど…』
「…そうなのか?」
『そうよ。"多分"と言ったけど…
まあホントよ…。何故なら私は
ずっと…。一緒にいたからね…
それでもセタの為に…アナタを
こうして眠気を抑えて
待っていたんだから…
"通り過ぎずに"…話くらいは
するべきね…』
「そうか…。で、なんだ?」
『はぁ…?
恋は盲目。だ・か・ら、
破廉恥神官さんは気づかないの?』
「だから、"何を"だ?…
今朝アイツがいなかったから
心配しただけだ…。それでちょっと
顔をみようと…
でも、眠かったから…という理由なら
それほど問題ではないんだろう?」
『……私は"ずっと"セタの傍に
いたのよ。なんで私達がそんな親密な
関係になっているか?…わかる?』
「………それは単純に。ファルが
セタと一緒に居たかったから、
だろう…。私には関係無い…。
好きにしたらいい…」
『へぇ…。じゃあ、もうセタは…
身代わりの"天気の彼女"でなく、
"本物のセタ"は…
私が一生好きにする…。触れ合いを…
温もりを独占する…。そのまま全部
すべて、もらってもいいのね?
…出会った頃から続いている、長く
続くと思われていたアナタとの勝負は…
私の"完勝"…ということで決着…。
それでいいのね?』
「……………ああ。別にいい。
勝手にしてくれ…。
もう、そんな
"くだらない勝負"は、私には
必要ないからな…」
『…………"くだらない"?
"必要ない"?
私が本気で相対していた勝負が
そうだというの…?
それは"本気で"言ってるの?…
アナタは確かに本物のサラよね?
別の人間じゃないわよね?』
「………さあな。偽物かもしれない
ぞ…。人は変わるものだ…」
『………その縫い付けたいくらいの
フザけた言葉と声を発する口のついた
憎っ…たらしいであろう顔…。
おもいっ…きり、ぶん殴りたい
気分だけど…。今のアナタの恋人、
"天気の彼女"が、悲しむから……』
と言いながらファルは歯噛みして
杖を握る手を握りしめて…
ゆっくりと振り上げ、
『今から、コレを怒りに任せて
"優しい先生"である私が…。
"少し時間を置いて"無造作に
ぶん投げる…
だから…。今、
馬鹿で破廉恥なアナタは…
うまく避けて…。逃げて…。
どこでも好きな場所に行きなさい…』
と目の前にいるサラに伝えた
サラは素っ気なく、
「ああ…。では、遠慮なくそうするよ…
寝不足のセタのところには気が向い
たらあとで行く。まあ…でも、
私が行かなくても…お前が"ずっと"
面倒をみるんだろう?
…じゃあな。幸せになれよ」
と返して、クロの部屋に向かい
僅かに空いている扉を掴んで、
開け…。入っていった
残されたファルは、床に杖を
叩きつけると…
『あの…。破廉恥馬鹿っ!!!』と荒げた
声を出し…
大きく息を吸って、吐いてから
『この前まで、あんなに凹んで…
悄気て、"先生が…"とか何とか、
情けない声を出していたくせに…』
と憤りをまじえての独り言を吐いて
言いようのない悔しさをぐっと抑えた
・・・
クロの部屋に入ったサラ…
クロは『ねぇ。何か廊下で話してた?
…しかも今さっき物騒な音がしたよ…』
と聞いた
「ちょっと"ファル"とな…。
まぁ…。お互い色々とあるんだよ」
とサラが返すと…クロは
『今日…セタが朝御飯のときに来な
かったね…。理由を知ってる?』
とファルと同じように
セタの話題を出した
サラは「"寝不足"だって…。そう
ファルが言ってた…。アイツが
一生四六時中死ぬまで面倒を見る
から心配いらないって…。だから、
私の面会は不要だと言っていた…」
『そんなこと…。ファルが言ったの?』
「…冗談だ。嫌味や嘘に聞こえたのなら、
謝るよ。…ごめん」
クロは『別にいいよ…。サラも、
きっと。"理由があって"そう
言いたくなったのだから…。
でも…。心配だよね…。セタが…』
「………うん。そうだな」
『僕のことはいいからさ…
ちょっと様子をみてきたら?』
「…私が?」
『うん。僕の目の前にいる…"私が"…
決まってるでしょ』
「いや…。ファルがみてるから…」
『違うでしょ…。多分ファルも…
意地を張っているだけで
裏返しの"本音"では…。
僕と同じようなことを言いに来たん
じゃないの?』
「………さあな。意地っ張りなアイツ
が、勝手に怒って…。勝手に喧嘩腰
になって、別れたから…
"何とも"言えないな…」
『……………』
「何だよ…。私は別に何も
悪いことはしていないだろう?」
『………"何となく"サラは、
察している。わかってるんだ』
「……わかっている、
つもりだ…」
『……でも。どうすれば、
いいんだろうね?』
「…………わからない」
『………もう戻れないからね。
もう…サラは…』
「………"クロは"
それで平気なんだろう?
今の関係で…。その第三者の
俯瞰した見方…。様子では…」
『えっ…。あ?僕…?』
「そうだ。黒髪の"僕"に聞いている」
『まぁ、僕は"従者"だし…。
サラのことが大好きで…一生傍に
居たいと思ってるけど…
じゃあその延長で婚約するとか、
関係を持つとか
…そんなことを考えたことは無いから
…セタのとはだいぶ違うと思うな』
「…そうか。違うのか…なるほど」
『うん…。多分だよ…。サラとセタは、
"親友"と言っても…。今はその度合が
どれほどかはわからないけどさ…
どこか普通の恋人。恋愛の対象として…
お互いにお互いをみていた時期もあった
んじゃないかな?
サラの真っ直ぐで熱い性格から
言って。…幼かった頃、大真面目に…
本気で結婚しようとか?セタに
いったことあるでしょう?』
「……………」
『ああ、あるんだ…。わかりやすい…
じゃあ、僕とはまったく別物…
まったく違うものだよ…』
「…別物か。私の特別な…旧友、親友だ
…。セタは…私の大好きな存在。
これからも…。一生、それは変わらない」
『……そうだよね。それは、そう…』
「………」
『………サラ』
「………やっぱり。
そうだな…。うん…。行ってくるよ。
話してくる…。どうなるかわからない
けど…。わからないからといって
何もしないよりはマシだ…」
『………うん。今日はもう
セタの為に、親友の為に
尽くして上げて…
僕はここに来て、セタに何度も
助けられた。僕とサラのことを
いつも気にかけてくれた……
僕は、そんな…。憂鬱な陰を照らす、
陽の光のような存在のセタが元気で
いると、嬉しくなる…。
説明不要の安心感が得られる…。
もちろんサラもおんなじ…
二人が幸せそうにしていたら
僕はちょうどいい陽の当たる中に
いて、穏やかにただ日々を過ごし、
幸せでいられる…。
そんな気がする…』
「……わかった。よくわかった
何が出来るかわからないけど…
行ってくる…。クロ…ありがとう
私の従者は"誰よりも"優秀だ…」
クロは笑みを浮かべて
『うん…。そう言ってくれるのは、
"従者として"すごく嬉しい…。
僕はサラが大好き…。
ずっと付いていくよ』
「……ああ。頼む。クロがいないと
私はいつも判断に迷いそうだな…」
『"天気の人"のことでしょ?…
二人の関係も…
僕のおかげってこと?』
「ああ。そうだ。"アミス"との
ことも、クロのおかげだ…」
『…………』
「あ…。"ウーノス"だ…」
『………へぇ~。そうなんだ…
ほんとの名前
…"アミス"って言うんだ』
「………すまん。それは、
内緒なんだ…。忘れてくれ」
『うん…。わかった。でも僕は
サラの従者だから優しい彼女は
許してくれそうな気がするけどね…』
サラはセタとのやりとりを思い出し
「…………かもな」と返して
「よし…。では、それはそれとして
行ってくる」とクロの部屋を出よう
と立ち上がり、歩き出す
クロはその出ていく後ろ姿に
『がんばれ、僕の主様』と声をかけ、
サラは「よしっ!…」と自分に
気合を入れて、その声に答えた




