第51話『私との約束』
際限の無い物質的には空っぽ
の内に秘めた自分だけの世界…
その狭間の底。逆らわずに欲する
もっとも深い心の奥に辿り着き…
「希求すべきは"幸せ"
その一言に尽きる…」
そう…それっぽく、何となく
黄昏を演じて述べてしまうと
ちょっとしたエンドロールが流れ…
切り取られた上質な一頁を映して、
"おしまい"の雰囲気になりそうだが…
人生は長く、今のところ
終わりそうにない
続くことを前提に物事を考えるのが
最善、現実的な選択ではあるが…
忘却の時間もまた必要である
・・・
ファルがセタの部屋を訪れて
出迎えたセタに「……ちょっと
話しがあるんだけど」と伝えた
言わずもがな、セタは、
ファルが"らしくない"自分に…
それっぽい感じの"お話し"が
あるのは、わかっていた…
今日の朝のことだ…
セタがほとんど会話に参加せず
無言であったからだ…
サラの「どうした?…お腹でも
痛いのか?」との冗談にも
『…あ。痛くない』と返すだけで
覇気がまるで無い。大袈裟に言って
まるで死人か人形のようだった
アミスはその理由を察していたが
そのことについては何も言わずにいた
・・・
ファルは寝台端に座ると、トントンと
セタに隣に座るよう促し、
座ったのを確認してから、
「いつもの無節操なセタらしく…
"もっと"くっつきなさい…。
なんなら、その延長で…
何も見えない私を…押し倒して
口づけをして勝手にどうぞ…
と。滅茶苦茶にしてもいいわ」
『……いや。そんな激しすぎる
"行い"をする元気はない』
ファルは"わかりやすい"…
感情を伝えるための大きな溜息を
ついてから、
「くっつくぐらいは出来るでしょう?」
と言って、ファルの方からセタに
グイグイと寄って密着して、
「これで少しは落ち着くでしょう?」
と言って頭と上身を預けるように
横に傾ける
『……ああ。ちょっとは』
「ん?…"ちょっと"は?……
可愛いファルが隣りにいて
"すっごく安心する"
と…嘘でもいいから言って欲しいわね」
『……すっごく、安心。
ファルは、すっごく可愛い』
「よろしい…。ところで……今日は
出迎えが無かった。ネムコ達は…
相変わらず、いっつも、ここで
安眠…よく眠っているのね」
『ああ…。よく寝ている。羨ましい』
ファルは調子の上がらないセタに
「ふぅ~…」と吐息をついてから
頭をぐりぐりとセタに押し付けて
「何かあったのは、わかる…。あえて
はっきりとはいわないけど…。どこぞ
の破廉恥神官様は、セタ以上に鈍感で
あった…。ということね…」
『………へぇ。破廉恥なのか?
…アイツは?』
「そうよ…。破廉恥の塊。裸が祈りながら
馬鹿を着て歩いているみたいなものよ…」
セタはその姿を想像して、
『ふふ…。それは滑稽だな』と小さく笑った
ファルは「ふふん…」とセタの様子に
安堵しながら、さらに密着の度合いを深め
「だから、こっちも馬鹿みたいな破廉恥を、
やり返してあげましょう…?」
と囁くようにいった
それに対し、
『…いいのか?そんなことをして…』
とセタが声を発すると…。ファルは、
太腿の上で自然と重なっていた手を
握って、
「こっち向いて…もっと近くに」と
少し急かすように言って、
セタが顔を向けると…。その顔に触れ
首を伸ばして頬に軽く口づけをした
「ふふっ…。ねぇ、セタ。
どう…?私達の破廉恥具合は?」
とファルが言うと
セタも『ふふっ…』と笑って
『まあまあだな…』と答えた
「じゃ…。まだしてもいいでしょ?
満足は"少しだけで"いいの?
それはダメ…。
何故かと言えば、
…明日世界が滅びるかも知れないの
だから…。今"するべきコト"を
しておいた方が、大したことがない
人生において…
お釣りがくるくらい…。
得だからよ…」
『………そうかな?』
「例えばの話しよ…。明日私が死んで
いたら、私の世界は終焉、崩壊…
その後、何も出来ないんだから…
…今日の、今の時間を無駄にせず、
大切にしましょう、ということ…。
…わかる?」
『……ああ。そうだな。
…わかる』
「しばらくは旅に出ない…。もしかしたら
ずっといるかもしれない…。それでも
…いいかな?」
『ああ。是非、そうしてくれ…』
「…………では、そんなセタ想いの
優しい私への…。感謝の口づけを、
今度はセタから、優しく熱っぽく
"お口に"頂戴…」
『…わかった。
…ファル?』
「なに?…好きでも、愛してるでも、
好き過ぎて嫌い…
でも、何でも言って…」
『いや、名前を呼んだだけだ…。
口づけ前に、呼んだだけ…』
「あ…そう。ま、その天然…。
セタらしくていいわ…。今日この
瞬間は許してあげる…。
ほら、早くして…。ん~…」
『ははっ…。ファルがそんなこと
するなんてな…。おかしい…』
「ばかっ……。"これぐらい"しないと
アナタが振り向かないから、
仕方なくこうしているのよ…。
私の気持ちを無下にしないで…」
『……すまない。ありがとう…。
ファル…。私は……何というか』
「そんなこと…。今はいいの…
今日は忘れて、私に構ってよ…
好きにしていいのよ」
『…ああ、お言葉に甘えて』
とセタはファルの小さめの唇に
口づけをして「ん…」と僅かに
声を漏らすファルの体躯を包み込む
ように抱き締めた
・・・
気づくとファルとセタは
ネムコ達と一緒に寝台の上で
眠っていた
昨晩、よく眠れていなかった
セタは、
(ああ、これで夜はまた…。
眠れなくなるかもな…)
と思いながらファルの顔をみて
(でも…。今はそんなことは
どうでもいい…)と想い、
ファルの髪を撫でると…
起きてきたネムコ達が"自分も
撫でろ"と間に入ってきた
(わかったよ…)とセタは
その求めに応じながらも、
その後は、
(でも今日は…。構ってくれた
ファルを、優先させてくれ…)
と、セタはファルにくっついて
髪と額にキスをした
すると「ありがと…」と
ファルの声がした
セタが声に気づいて
『…起きてたか?…もう起きるか?』
と尋ねると
「うぅん。いい…。セタの傍で
寝たふりをしてる…。その方が
夢の中みたいで"幸せ"だから…」
『……そうか。夜眠れなくなるぞ…
私はもうどうでもよくなってるが』
「なら、それでいいじゃない…
傍にいて、幸せなら…
それで…。ねぇ…?セタ…
このちっちゃな胸だったら、いつだって
貸すわ…。泣きたくなったら、
寂しくなったら、いつでも…ね。
埋もれて"出来るだけ優しく"…」
と言ってからファルはセタの頭を
掴んで引き寄せ…。胸につけて
「こんな風に有効に使ったらいいわ…」
といった
セタは『……わかった。大切に使わせ
てもらう。ありがとう…ファル』
といって、ファルの行為に…。胸の中
に忍ばせてある、目に見えない広大な
優しさの海を感じながら…子供のよう
に埋もれて、甘えた
彼女の…ファルの故郷は、
潮騒のある海辺だった
『いつかファルと一緒に海辺を…
砂浜を裸足で歩きたい…』
とセタが、"眠れない深い夜"に
独り言のようにこぼすと
「いいけど…。それほど綺麗なモノで
はないそうよ…。とあるお母さん想い
の少女に言わせれば、空の方が
キレイなんだって…
空がキレイだから…それ以外のモノも
すべてキレイにみえる、と無垢な声で
言っていた
その人の心が穏やかで晴れている
なら…。いつだって、なんだって
キレイにみえるのかも知れないけど…
私にはまだほんとうのところは
わからないわ…」
とファルが返した
セタは『そうか…。でも、
ファルの心は、キレイだ…
私よりも何倍も…澄み渡っている』
そういってファルをまた…。愛おしく
抱きしめる。今日何度目か?は、
もう忘れた…
「ならいいけど…。心に…。どす黒い
モノも同時に飼っているのよ…私」
『……そうなのか?…そうは
みえないが…』
「みえないから、わからないだけ…
でもみえてなくてもわかることが
ある…。不思議でしょ?人間って…」
『………そうだな。誰も相手の本当の
ところは、心の中はわからないの
かもしれない。自分ですら…よく
わかっていないのだから…
尚更そうだろう…
けど…それでもキレイだと
一方的な想い、願望であっても…
感じていたいんだ
だからこそ、好きになる…
もっと…好きになっていく』
「…ふふ。そうね…。その方が…
長い目で見たら、愛情がすり減らず
"うまく"いきそうね…
ご多分に漏れず、私達も」
『そうだといいな…』
「そうなるわ…。うまくいく…
ちょっとは信じてみなさいよ…
自分を…。その相手を…
キレイだと感じているならば…」
『ああ…。そうするよ…
信じる…。ファルと自分を…
必ずそうなると…』
「うん…。そうして
その意気…。
私との約束よ…」




