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第47話『こういう日。好きになる理由』


 ミールが宿を後にするのと入れ替わる

 形で、ファルが半従者の男と共に宿に

 帰って来た


 ファルは男に扉を開けてもらい

 お礼を言ってから、階段の方向に

 向かう…


 すると…ネムコの甘い泣き声と

 足元を探る滑らかな毛並み…


「あら…。どうしたの?…

 ここまで下りてきてしまったの?」


 としゃがみこみ、杖を置いて…。この宿

 の部屋で初めて会ったときのように

 迎え入れるように腕を広げ…


「おいで、おいで…」と囁くように

 伝えると…そこに吸い付いてきたネムコ

 の顔に触れて、慣れた手付きで額から

 背にかけて優しく撫でてから喉を転がす

 ように擦る


『おっ…。ファルじゃないか…。


 今、上っていたのだが…

 我が子達が扉に気づいて途中で

 下りていって私もその後を付いて

 きたところだ…

 

 お前だったか…』


 と階段上から、セタの声がした…


 続いて、後から入ってきた男は

 砂箱をセタにみせながら、


「あ、セタ様。これを部屋に置いてきます」

 と発して、


 セタが『おおっ。ありがとう!頼む…』

 返すと、


「では、ファルさん…。

 セタ様もいるので先に行ってますよ」


 とファルに声掛けてから、階段を

 軽快に上っていった



 ファルが「いつもの階段の運動かな?」

 と階段を降りて寄ってきたセタに話し

 かけると


『いや…運動では無く、ちょっと客間に

 用事があってな…』


 と、そのタイミングで、もう一匹の

 ネムコが…ファルに寄って顔と喉を

 衣服と手首、腕に擦り付ける


『どちらがノーラなのか?イーシャか…

 わかるか?』


 ファルは二匹のネムコを両手で

 撫でながら考える


「そうね……。最初に触れたのは…

 状況的に…イーシャね。その後に

 遅れて来たのが、ノーラ…。違う?」



『…………何だ。"状況的"とは、

 何ともファルらしくないな…。


 その回答は…。反対…。

 先がノーラで…その後が、

 イーシャ…。残念、ハズレだ…』



「あ、そう…。まあそういう日も

 あるかな…。ではイーシャの方が

 先に上っていたから、ノーラの方が

 先に階段を駆け下りて私を迎えて

 くれたのかな?」



『ふぅん…。まあ先に上っていたのは

 確かにイーシャだが…。単純に、

 ノーラの方が先に扉の音に気づいた…

 という方が正しい…。


 恐らくノーラの方が"外に"意識が

 向いているのだろう…。過去にも

 扉が開いた瞬間は…何度かは忘れ

 たが、"するり"と外に出ようとして

 いたからな…』



「ふぅ~ん。そうなの…。ところで、

 何の用事?」



『ああ、それか…。まぁ、アレだ…

 ミール・フレアが来てな…

 ちょっとしたお話だ…』


 ファルは一時停止とばかりに

 ネムコを撫でる手を止めて


「そう…」と興味なさげに返答して、

 再度ネムコたちを撫でる



『それで、今後についてだがな…

 ファルは面識が無いから、よく

 わからないと思うが…


 ミールの姉とその子供がこの村に

 来る…。これから親父殿とサラに

 報告と相談をする予定だが…。


 まあ…。決まりだろう』



「何だか、不本意な感じ…

 "嬉しく"は、ないようね…」



『……正直に言うと距離が近すぎる

 のは鬱陶しい部分もある。


 と…いったら怒られそうだから

 大きい声で言わないが…。すこし

 面倒な感じになるかもしれない…


 もう少し、まともに…大人になって

 いるといいが…。こればっかりは

 会ってみないとわからない』



「はぁ…。そうなの…

 でも、私は知らない…。


 セタの方で何とかするんでしょう?

 勝手にやってて…。私は一切関知

 しないつもりだから、適当によろしく…」



『ああ、それでいい…

 基本的にはそのつもりだ…

 皆に迷惑は掛けない…。と、思う』



「ふん…。まあいいわ。それよりも

 階段から、上からもう一人…

 降りて来たわね…」



『おおっ…。"ア"…。じゃなかった。

 ウーノス。いつの間に…』


 とセタの後ろに、セタからすれば

 気配無く立っていたのは…


 セタの身代わりでありそっくりさん

 の女性、ウーノス…

 本名はアミス・ロッド


「セタ様…。戻りませんの…?


 四階まで…着いて。後ろにいない

 のに…気づいて、少し急いで…

 下りてきました」



『ああ、すまない…。今部屋に戻ろう

 と思っていたところだ…。


 二階まで上がって、ちょうどファルが

 帰ってきたせいで、我が子達がその音を

 聞いて下りて…。また振り出しに戻って

 しまった』



(………その言い方。私が帰ってきた

 ことが"悪い"みたいね)


 ファルは不満を抑えながら心中呟くと、

 ネムコを撫でるのを止めて、床に置いて

 いた林檎の木の杖を持って立ち上がった


 ノーラとイーシャは察するように

 ファルから離れて、セタとアミスの

 足元に寄って尾を立て、"すりすり"を

 開始する


『ふふん…。ノーラ、イーシャよ、

 どっちが本物の私か?…

 

 わかるか?』



「わかりますよ…ね?ノーラ…

 イーシャ」



『まっ…。そこを間違えたら…

 私は"家出"するからな…』



「…ここはセタ様の、家…?

 なのですか?」



『…あっ。違うな…。既に家を出て

 いたから、間違いだ…。


 悲しみに暮れて"宿を出ていく"…

 ということだ…』



「…そうですか。家には…

 戻りませんの?」



『ああ。しばらくは戻らない。ここが

 私はもちろん、我が子達も、

 生活に慣れて気に入っている…。


 いずれ戻る日が来るだろうが…

 それは未定だ…。まあ同じ村の中、

 歩いてすぐに行ける距離だ…。たいして

 変わらないだろう…」



「…はい。戻ったとしても…

 私は身代わりとして、

 どこへでも…ついていきます…。

 といいたいところですが…


 私は死ぬまで、サラに付いていきます」



『ははは…。そうか…。それは素晴らしい

 立派なことだ…。ミールは怒るだろうな

 …。雇われの身だろう?いいのか?…

 それで?』



「はい…。ミール様には悪いのですが

 …。サラが世界で一番大好きなので、

 サラの為なら…どこへだって行きます」



『うん…。気持ちがいいな…。その覚悟』



「ねぇ、ちょっと…。さっきからここに

 私がいるんだけど…。私はどうしたら

 いい?」とファルがつっけんどんに

 いった



『…一緒に戻ればいいんじゃないか?』


 とセタがあっさりと言ったのを…

 ファルは無視するように歩き出し、


「一人で戻る…」と通りがけに声を掛けて

 階段を杖の先で確認して慎重に上がって

 いく…


「手伝いますよ…。ファル…さん?」


 とアミスが声を掛けるも、ファルは

 聞こえないふりをして段差を一歩一歩

 上がっていく


 その意地っ張りな様子をみて

 セタは『はぁ~』と溜息をついてから

 ファルに追いつき、

『なぁ…。ファル…。手を貸すぞ』


 と肩に手を触れると


「…触らないで!」とファルは声を荒げて

 拒否を示し、セタは触れるのを止めて


『…わかった。では一緒に上るのは

 ダメか?』と伝えた


 ファルは「ふぅ~」と重い息を

 吐いてから、


「先に行って…。私が近くにいたら、

 あなた達の邪魔や迷惑になるから」

 と言って、また一歩一歩段差を

 上っていく


 セタは階下にいるアミスと顔を

 合わせ、人差し指を立てて唇に

 あてる仕草をした


(黙って、こっそり…下から

 付いていくぞ…)という合図(サイン)


 アミスは無言でこくりと頷くと

 セタと歩調を合わせ、音を立てない

 ようにゆっくりと…

 ファルが上がっていくのを階下の

 離れた位置からついていった


 途中、砂箱を運び終えた男と

 擦れ違ったが…。男は事情を察して

 声をかけずに階段を下りていった

 

 ・・・


 四階に着くとファルは部屋まで

 壁を伝って歩き…


 扉の数を数えながら自室前にて

 立ち止まった… 


 ファルはセタ達が離れた位置から

 付いてきているのを知っていた…


 ファルはそのまま考え込んでから

 溜息を付くと…。杖を掲げて小さく

 振ってから部屋に入っていった


 セタはノーラ、アミスはイーシャ

 …共にネムコを抱きながら、

 その様子を階段前で見ていた


 セタはファルが部屋に入って

 出てこないのを少し待って

 確認してから、ノーラを床に

 置いて、アミスも同じ様に

 イーシャを床におろす


『ふぅ…。

 まぁ、こういう日もあるさ…


 ファルは素直な人間なんだ…

 私や…。"アミス"以上に…な


 わかって上げて欲しい…』



「………………」



『ん?…』



「…………はい?」



『うん…。あ…。アミス?』



「……はい。アミスです。

 その名前…。サラ、ですね…?」



『あ…。そうか、すまん…。

 忘れてくれ…。

 あとでサラに怒られる…』



「…はい、セタ様」



『…ありがとう。アミスは

 優しいな…』



「…………………」



『いや、すまん。ウーノスは

 優しい。これでいいか?」



「もう、どちらでも…

 いいです。お気になさらず…」



『……わかった。あとで

 サラに謝って、私もアミスと呼んで

 もいいか?と、聞いてみよう…』



「いいですよ。セタ様なら…

 サラも許しますよ…。

 バラしたのは…サラの方、ですから」



『……それもそうだな。

 うん…。サラが"うっかり"私の前で

 "アミス"と言わなければ…私が知る

 ことは無かった』



「そうです。…セタ様は、

 悪くないです。もちろん、サラも…」



『……ありがとう。ウーノスなんて

 適当に名付けたのは失礼だったな…


 ふふふ…。サラがアミスを好きに

 なる理由。だいぶわかった気がする…


 サラのことを、私の親友を…

 末永く、よろしくな…。

 何かあったら、力になるぞ』



「…はい。セタ様の"こと"

 ずっと…。頼りにしてます」

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