第45話『ネムコ好きのミール様』
今日のファルは…
セタの半従者の男と村外れにある
人工楽園までの道のりを歩いていた
(…どうしたんですか?)という
疑問を胸にしまい込んだまま…男は
ただファルに連れられる形となっていた
『このあたりかな…』とファルが止まった
以前に立ち止まった場所と同じだ…
と男は思いながら、
「どうしたんですか?」とようやく
しまっていた言葉をファルに伝える
『…ちょっと私のかわりに
"あたり"をみてくれない?』
「あたり…?雑木林の中ですか?…
特に変わったもの、特殊にみえる
ものは無いですけど…」
『ふ~ん。そう…。誰かに見られて
いるような…そんな気配がね…』
「"あのとき"…ですか?」
『そう…。セタの為に急いでいた時の
こと…。
何かおかしいと感じて…。あえて
別の話題を振ったけど……』
「はぁ…そうですか。あの時も…
ですが、別に何も
いないようですけど…
俺は普通の人間よりもそのへんは
わかるつもりなんですけどね…」
『………ちょっと鈍くなってるん
じゃない。その能力…』
「あ…。いや…。まあ…そうですね…。
平和ボケの弊害ですね…。警戒は
以前に比べてしていないですね…
この前セタ様の使いで旅に出て…。
飾っていた…らしくない上品さが
自然と削られて…思い出した部分は
あるんですけど…」
『そう…。旅はいいものよ…。
本来の自分を取り戻すことが出来る
から…
アナタと違って、上品さの欠片もない
粗野な私は…
"気配"もそうだけど…一番は
音…。それと匂いもあるけど……
わかるのよ…』
「…………はい」
『恐らく、この場所がみえるところで
待っていたと思う…』
「う~ん。しっかし、ですね…
近くからならともかく、遠くから
なら…。見られているのを気づく
のは、難しいですね…」
『遠くは無かった…。けっこう近くに…
そうね…。風の中の木の葉が…
枯れ葉が擦れるような音に紛れて…
何かが動いていた…。そして
私達をみていた…。そう感じたの…』
「へぇ~…。すごいですね…。
俺ですら気づかなかったのに…
よくわかりましたね…」
『焦っていたのもあるだろうけど…』
「それは俺のことですかい?
それとも…」
『相手よ…。私が気づいてなおかつ、
急に止まったから、
意図せずして、もっとわかりやすい
余計な…無駄な音を出してしまったの…』
「そうですか…。でも今は、どう
でしょう?今はいないんですよね?」
『それなのに…どうしてわざわざ
ここまでアナタを連れて、歩いて
来たのか?…知りたい?』
「はい…。出来れば…」
『まぁ…。いずれ"わかる"ように、
ちょうどいま、いいものを持って
いるのだから…
少し細工をしてから、帰りましょう』
「…まあ、俺は"何でも"しますよ…
嬉しそうなファルさんをみるのは
久しぶりですからね…」
『あら…。やっぱり、わかる?
最近不機嫌になることが多かったもの
だから…。少しは気晴らし、"お遊び"を
するのも悪くないなぁ…と。ダメかな?』
「ダメじゃないですよ…。そういうのは
人生に必要です…。無ければ退屈で、
青白くなって死んでしまいますから…」
・・・
ムラへ戻る道中…
「では、俺は途中でネムコの砂箱を
置いて来ているのでそれを回収して
から戻ります。急ぎで無ければ
一緒に来てくれると助かるん
ですが…」
『…うん。いいわ。急に頼んで
悪かったね…』
「いいえ…。ファルさんに頼られる
のはセタ様の次に気分の良いこと
です」
『へぇ…。では、妹さんは別?』
「妹…?ああ、アイツはまた別です
よ…。最近は俺よりしっかりしてる
から、いずれ俺の方が頼ることが多く
なるでしょうね」
『そうなの…。それは嬉しいことね』
「う~ん…。まっ、そうですね」
★
ミール・フレアは予定よりもだいぶ
遅れてブルウノス村に到着をした
宿の玄関の前で出迎えるブルーノ
「ミール様。お待ちしていました…
あの…何か、あったのですか?
私…。明日なのか?今日なのか?
いつ来るか?ミール様のことが
とにかく心配で心配で…。その…
眠れなかったです…。これで
今日は、安心して眠れます!!!」
ミールは表情を変えず、真顔で
『アナタは相変わらず、嘘と冗談が
下手ですね…。
ところで、もう一人の担当は?
任務通り、上(の階)にいるの
ですか?』
「えっ…。その…。ええと…上には
いません…。すぐそこに…います」
『………"すぐそこ"とは?』
「はっ!…この宿の庭であります。
現在この村の神官様と一緒に
日向ぼっこをしています…」
『それは…………何故?』
「はっ!…"いいこと"があって
仲良くして頂いているとのこと
…。セタ様の許可もとっている
とのことです!」
『………そう。それは、つまり…
自分の役目を果たしていない…
ということですね』
「………………はい」
『ふぅ…。まぁ、元お姫様…との
情報は、間違いないようですね…
奴隷という最底辺の過去があり
ながら、浮世離れしている…。
人としての緊張感がまるで無い…
容姿以外に価値の無い
木偶そのもの…』
「…はい。私もそう思います」
『大幅な減給をします』
「はい!…それで構いません。私からも
その旨伝え、キツく言っておきます」
『……泥土の平民。
"アナタ"もですよ』
「えっ…」
『減給…。一応の上司、共同作業上の
連帯責任…。"当然"でしょう?』
「は……あの…」とブルーノは
両膝をついて
「…すみませぇ~ん!!!」
と言うなり、地べたに這いつくばり、
平身低頭…可能な限り頭を下げて
「お願いします!どうか…減給だけは
勘弁してください!……母や妹、弟の
面倒をみないといけない貧しい身分です
ので…。仕送りが減ったら満足にご飯が
食べていけません…。
本当に…どうか、許して下さい…。
ミール様ぁ~。何卒…。泥水啜って、
顔に毎日つけて頑張りますから…
何卒…お願いしまぁ~す!!!」
真顔のままのミールは…しゃがみ込む
と、地面に頭を付けて許しを請う小さな
体躯のブルーノの頭をぽんぽんと優しく
触って、彼女の顔を上げさせると…
『時間が惜しいから、セタ様を呼んで
ちょうだい…』と淡々と伝え、
ブルーノはがくりとわかりやすい
反応を示した後、かすれ声のまま
「はい…。呼んできます」と返して
立ち上がった
その頃、宿の庭では、アミスとサラが
晴天の下…。長椅子に並んで座り、
目を閉じ、ゆったりと日向ぼっこ…
わからない人がみたら、本物のセタと
サラが仲よさげに座っている…。微笑
ましい日常の光景がそこには、あった
・・・
ミールがセタとの話を終え…
客間の扉を開けると…そこには
アミスがいた
「あら…。どうしたの?(今は)
真面目に役目を果たしているつもり…?」
とミールが抑揚無く話しかけると
「ミール様…。私の減給分…。もっと
増やしてよいので、その分を…憐れ
で可愛そうな、頑張っている平民さん
に…。どうか、分けて上げて下さい」
ミールはじっ…とアミスの目を
みてから、
「そう…。では、望み通り
そうしましょう」と答えてから
「アナタの代わりは今のところ、
アナタしかいないの…。セタ様を
よろしくね…。何かあったら、
減給どころでは済まさないから…
そこを、そのことを意識して
ここで暮らしなさい…
可能な限り、この場所で…。
"今日のように"幸せに過ごしたい
のならば…」
アミスは「はい…。ミール様。
ありがとうございます…」
と返すと、ミールの後ろで、
ネムコ"二人"を両手で器用に抱え、
立って待っているセタをみた
セタは『ノーラとイーシャ…
可愛い二人が、フレアの当主様を
一緒にお見送りだ…』と言って
「…ありがとうございます」と
振り向いたミールが返す
アミスは道をあけるようにどいて
二人の様子をみていた
(セタ様に何かいいことがあったの
だな…)ということが、アミスの
目から見て取れた
そしてミールがノーラとイーシャに
優しく触れて「じゃあ、またね…。
可愛い"セタ"の恋人さん…」と
柔和に伝える仕草、光景をみて…
アミスは自分の思っていることの
正しさに…。(やっぱりそうだ…)
と安堵していることに気づいた
(思っている通り…優しい人だ。
ネムコ好きの、ミール様は…)




