第44話『儀式の終わりと…夢の中へ』
サラは自分が相手に何を求められて
いるのか?を考えていた…
だが具体的に思い浮かぶことは無く
ただその場にて自分の本能に逆らわず
ただ従うしかない…という結論に至った
意を決して、
"セタ様の部屋"の扉を拳で小突く…
その中にいるのは本物のセタではない…
(知っているさ…)
サラ…。やっと会いに来てくれた…
嬉しい…。そう素直に自分を迎え入れ
て言ってくれるだろうか?
が…。一向に扉は開かない…
あの時のように僅かに開く、
そんな気配は無い…
サラは一度目を閉じて…自らの不安を
打ち消すように「ふぅ~…」と息を吐いて
から、
「アミス…。入るぞ…。私だ…サラだ…。
入ってもいいよな?」
と独り言のように伝え、扉を開けた
天気の人、アミスはいつものように
窓際に立って外を…空をみていた
「天気の人…だと聞いた。そうやって、
毎日明日の天気を占っているのか?」
とサラは彼女の後ろ姿に言葉を発し
ながら窓際に歩く
「…元気か?…"久しぶり"になって
しまってすまない。嫌いになった
わけじゃないんだ…」
「………私は、」とアミスは震えた声
でこぼし、サラは無言で次の言葉を
待った。考えに考えた末の空は、
曇り無く光に溢れ晴れていた…
今日、サラは、宿に来るなり、
真っ直ぐにアミスの部屋を訪れた
「私は…。この顔と体躯は…
本物の…セタ様ではない…
だから…。サラが…。私の好きな…
大好きな、サラが………。
私に…会いに来る必要は…無い」
「…………それは…。違う」
「違わない…。もう、いいの…
あの瞬間だけで…。いいの…
もう…。それだけで…
そのちょっとした…幸せだけで…。
私は…」
サラは背を向けているアミスが、
泣いているのに気づいた…
"ちっぽけ"と形容したくなる拳を握り
しめながら、サラは彼女に対して
自分に何が出来るのか?を必死で
考えた…。そして、
最初の出会いの何倍も、優しく…
静かに包み込むように背後から
抱きしめてから、
「ごめん…」と呟いた
アミスは首を降る仕草をしてから
「………なぜこんなことをするの?」
サラは「私は馬鹿だから…。後のこと
は何も考えていないんだ…。これくらい
のことであれば、神様だって許してくれる
…そう思っている」
「………意味がわからない」
「ごめん…。アミス」
「……………ばか」
「なんとでも言ってくれ…。私は…
セタでは"無い"…。アミスのことが、
好きだ…。好きなんだ…」
「…………セタ様よりも?」
「…………」
「…同じくらい?」
「…………比べることではない」
「そう…。だったら…
どういう意味で…?」
「………すまない。今はまだ、はっきり
とはわからない。自分の中で…
うまく整理できてない…」
「…だから、会いに来てくれなかった
…。あってる?」
「…ああ、そうだ」
「………ねえ?」
「何だ?アミス…」
「私は…。このあと…
どうしたらいい?」
「………したいように、すれば
いい。私のように…」
「……正面を、向かせて」
「ああ…」とサラは、アミスの体躯
を覆っていた手と腕、胸を離す
アミスは振り向くと、
「……私は、"誰"…かな?」と聞いた
サラは真正面から彼女を見据えて
「アミス…。"アミス・ロッド"
ずっと忘れない…。忘れたくない…
私だけの…。
私だけが呼ぶことを許された…
誰よりも、美しい名前だ」
そう淀みなく告げると、アミスは、
「………さっき、ね……。さっき…」
と言い掛けてから、間を置き…
嬉しさと哀しさの入りまじった表情で、
「さっき…。やっと…久しぶりに…
サラに…触れられて…
アナタの…優しさに…。
温もりに…。やっと…。やっと…
心が…泣き止んだのに…」
とぼろぼろと涙をこぼして
泣き始めた…
サラは「ごめん…アミス」と謝ってから
彼女を引き寄せてもう一度、抱きしめて
「ごめんな…。泣かせて…。悲しませて…
寂しくさせて…。ごめん、ごめん
…ごめん。…本当に、ごめん。アミスが
望むなら…。何でも、するよ…
させて欲しい…」
(……私はやっぱり、バカなんだ…
ただその場に合わせているだけで…
いつも後先を考えず…。感情だけで…
一方的な…熱意だけで…
でも…。それしか出来ないんだ…
愚かな私は…)
そう心中呟いた後、サラはもっと強く
彼女を抱き締め…。彼女が…、大好きな
アミスが泣き止むまで、一緒にいよう…
そう決めた
★
翌日…。"本物の"セタの部屋
『おっ…。サラ。どうした?
今日は早いな…。これからクロの
ところか?』
「ああ、そうだ。ちょっと中で…
大事な話しがある」
・・・
「うん?…どうした?改まって…」
寝台に並んで座る、サラとセタ
ノーラとイーシャは、いつもの衣服の
敷いてある場所でお休み中だ
「あのな…。私は"好きな人"が出来た
…。愛していると言えるくらいに
大好きな、親友のセタとは別に……
強く意識する存在だ…」
『ほぉ…。そうか。それは良いことだ
ノーラやイーシャと一緒に、お祝い
してやろう…。…それで?』
「だから…。つまり…もう、セタとは…
あの…。しない…。出来ない…
わがままで、身勝手ですまない…
全部、私が悪いんだ…」
『そうか…。
昨日来て、理由あって今日は何もしない、
少し考える時間が欲しい…
明日決めると、深刻に言っていたから…
何かあるな、とは思っていたが…な
それは"ずっごく…残念だ"
…というのはまあ半分冗談として…
サラから
始めようと決めたことだ…。そして今、
止めると言うのも、サラの自由だ…
私からは、それ以上は何もない…
悪いことは何もない。気にするな…
応援しているぞ…。ただ一人の幼馴染、
親友として…。お互いに幸せになれれば
それでいい…。そうだろ?』
「ああ…。そうだ。そのとおり…
私はセタのことを
…親友を。誇りに思う」
『ふふっ…。そうか…。では、今後は
ここには来ないんだな?』
「……"儀式"は終わり。だが…セタと、
ノーラやイーシャ、ネムコのいるこの
部屋に来ることは"当然"あるだろう…。
しばらくは朝食を宿で摂ろうと思う。
極力会えないようにはしたくない。セタが
元気でいるか?どうしてるか?は…親友と
して神官として、やはり気になるからな…」
『…好きにしろ。仮に会えなくても、
すぐ傍にいる。宿から歩いたらすぐの
場所にいる。だから…。まっ…
案ずるな…。何かあったらすぐに
伝える。これからは私達がこのムラを、
皆を守らないといけない立場だからな…』
「……ああ。そうだな。親友」
『……うん。ただ…。まっ…何か色々
あって、一人寂しくなったら…
親友特権として、慰めるのだけは…
愛情を持って、やってやる…』
「ああ…。その時は頼む。お前も、セタも
同様だぞ。私はお前の母、母神でもある
からな」
『ああ…。そうか。そんなこともあったな
…。死にかけの状態…。遠い昔のようだ
…。早く飲ませろ…お母さん』
「はははっ…。いつかたらふく飲ませて
やるよ…なんてな…。バカなことを
言い合える仲は、ほんと楽しいし、
貴重だよな…」
『…ああ、貴重だ。大切だ…』
「…では、私は、いつものようにクロの
ところで休んでから…。今日からアミス
のところに向かう…」
『……ん?…"アミス"?
って…誰だ?』
「あっ……しまった。忘れてくれ」
『…………わかった。聞かなかった
ことにする。で…誰だ?』
「…聞くのかよ。…流れからだいたい
想像がつくだろう。この宿の同じ階の
人間だ…。お前のそっくりさん…」
『あ~天気の人。まあそうだろうけど…
ちゃんと名前があったのなら、
ウーノスなんて適当に付けるのは
失礼だったな…』
「…いや。ひとまずウーノスでいい
"アミス"という名は忘れてくれ…
親友。頼むから…
二人だけの秘密なんだ…」
『ほぉ…。二人だけの秘密とな…。
可愛い青春だな…』
「ああ…。かなり遅咲きの青春だ」
『私の青春は、ネムコの探求であり、
ノーラであったわけだが…。サラの
青春は拳闘士ではなかったのか…』
「あれは、所詮真似事だ…。どれだけ
突き詰めても…。神官が拳を痛めて
どうするんだ…という結論に達する
不埒な輩の成敗や撃退等、役に立つ
ことはそれなりにあったが、
…今後は不要だろう…」
『………………』
「何だ?違うのか?」
『……そうだな。あまり口に出したく
は無いが…。未来のことはわからない
…であるが故に…いずれ、その熱い
拳を使う日が来ると思うぞ…。
これは単なる当たらないでくれと
願う"感"ではあるが…』
「……………そうか。それは頭の隅に
留めて、そうだな…。暇な時にでも、
鍛錬はしようと思う。
このムラには私のお師匠でもある
セタの"親父殿"がいるからな…
体力があれば、久しぶりに手合わせ
願うか。ふふ…。少し楽しみだ…」
『…鍛錬するのは結構なことだが…
無理しないようにな…。ただの私
の感だ…。そうならないことを祈る』
「ああ、わかってる…。ではノーラと
イーシャに…」とサラはお休み中の
"二人"のネムコを軽く撫でてから
立ち上がると、
「またな…」と寝台に座るセタの頭を
撫でて、部屋を出ていった
(…フラレてしまったのですね?)
と窓の方から幽霊の声がした
セタは窓の方を向いて、
ふわふわと外に浮いている幽霊に、
『おい…。私の秘密を…。
若さ溢れる青春を…。こっそり、
みていたのか?』と返した
幽霊は、悪びれずに
(偶然通りかかったものですから…)
と答えて、中に入ってきた
セタは幽霊から目をそらして
独り言のように
『ふん…。そうか…。まあそれなら
しょうがないか…。うん…。
そうだな…。フラれたな、私は…』
と零して、座っていた寝台に…
ぱたりと横になって、ネムコを撫でる
(寂しいのか?嬉しいのか?よく
わからない表情をしています)
『……まぁ。そのまま…だ。
ちょっとは、複雑な…。どこかモノ
寂しい気持ちにもなるさ…
私もか弱い存在だ…。ノーラやイーシャ
がここにいなければ、弱い自分に負けて、
子供のように泣いてしまったかもな…』
(…………セタ)
『何だ…?』
(セタのことが、好きです)
『………』セタは唐突に伝えられた
幽霊の告白の意味を少しの間考えてから、
『ありがとう…』とだけ伝え、視線を
そらし。ほんのりと笑みを浮かべて
から『うん…』と今の自分と、
ありのままの現状に頷くと…
目を閉じて、愛しのネムコ達と共に
"夢の中へ"そっと…入ることにした




